第16話 彼女からすればそれは迷路

翌日、

五月八日金曜日、いつも通り七時五十分に家を出てエントランスに向かう、だが其処に彼女の姿はない。

当然だ、昨日言われた言葉…


“「明日からは送って貰わなくても良いわ」”


そのまま通学路を歩いていく、しばらく歩くと彼女の後ろ姿が見えてきた、

どうやら確りと学校への道程を理解しているらしい。

だが俺は忘れかけていた、彼女の方向音痴は常軌を逸しているという事を…

今さっきまで順調に歩いていたのに突然左に曲がってしまった、学校へ行くには真っ直ぐ歩いて大通りに出てから其処で右に曲がらなくてはならない。


さてどうしたものか、このままでは彼女が学校に来ることは二度と無いだろう。


ここで話しかけるべきだろうか、龍は謝ってから話しかけると言っていたが中々タイミングが難しい。

それとも然り気無く彼女の前に行って案内するか………後者の方が簡単だな。


少し歩くスピードを上げて彼女の前に出るように先回りする、彼女は左に曲がったがその道は十メートル程先で右に曲がるようになっている、

そして俺も彼女が曲がった所より二つ先で左に曲がる、後ろを見ると彼女の姿があったが問題は彼女がついてくるかどうかだが

……………………………………ついてきた。


彼女は俺の後ろを静かに歩いている、足音を立てないように必死に……

俺が後ろを向こうとすると電柱や車の影に隠れる彼女の姿はさながらストーカー………いや、探偵の様だ。


そうして俺+彼女は何とか無事、学校に着いた。


教室に着くと席の近くで龍と理沙が話している、いつも通りの光景だ。


「おはよう龍、理沙」


「おっす、奏太」


「おはよう」


挨拶をして席に座ると龍が話しかけてくる、


「斎条美優とはどうなったんだ?」


「昨日の今日で何とか出来るわけないだろう」

事実を言えば出来ないではなくしなかったが正しいのだが…


「斎条先輩と奏太がどうかしたの?」


昨日の事を知らない理沙が俺と龍に問いかけてくる、


「あっ、それはだな……」


「あ~、何て言うか昨日奏太と斎条美優と揉めたっぽくて」

龍が俺の代わりに言ってくれた、


「それで龍に相談にのってもらってたんだ」

付け加えて俺が説明する。


「そういう事なのね」


そして、理沙は話を理解した上でこう聞いてくる、

「でも、奏太が他人について龍に相談するほど悩むなんて珍しいわね………斎条先輩の事好きなの?」


「え!?そうなのか?」

龍も一緒になって聞いてきた。


「違うよ、只昔馴染みなだけ…しかも龍には昨日言ったような気がするがな………」


「あっ、そっか」


そう言って左の掌に右の拳をポンっと当てる龍を、

「おいっ」

と、理沙がつっこんでいる。


何でもない只のこいつらの漫才はとても充実していて面白そうだ………

だけど、まぁ、昔から理沙はデリカシーと言うか、遠慮と言うか、そう言うものが無いような気がする……



ともあれ、俺と彼女が話し合うとするならば放課後しかないだろう。

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