第14話 静かな嵐は一瞬で

ゴールデンウィークが終わり、俺と彼女は以前と同じように登校している。


結論を言うと、何故彼女が俺から黙って離れて行き、黙って近づいてきたのかはさっぱり分からなかった。


むしろ考えるだけ無駄だったまであった、どう考えたって、どれだけ考えたって、他人の考えていることなんて分からない、分かったところでどうしようもない。

分かったところでどうしようもない、そんなことは分かっていても、答えを求めてしまう、俺はそう言う人間なのだ。




「あの、先輩…………………」


「何?」


「……………………………何でもないです……」

やはり言い出しづらいな、彼女は俺が“ゆうちゃん”と言う幼女の存在を忘れていると思って今日もエントランスで俺の事を待っていたのだ。


「そう………………」

彼女が深堀してくる様な事は無かった。

そして、校門を過ぎると、彼女はいつも通り二年生の昇降口へと向かって行った。


その後だって沢山考えた、授業中も休み時間も考えた、考えたけど、一向に彼女がずっと黙っていた理由は分からなかった。

分からないのに時間だけは流れて、もう放課後になってしまった、




校門に行くと彼女は既に来ていた。



「遅れました……」

不思議なものだ、決して彼女は待ち合わせ時間に遅れない、

「別に良いわよ、明確に時間を指定している訳でも無いし」


「そうですね」


下校途中も俺は思い出したことを彼女に伝えようか迷っていた、


それを知った時に彼女はどんな顔をするのだろうか、どんな気持ちになるのだろうか、何もない筈が無いだろう、それなら最初から黙って近づいてきたりはしなかったのだから。


彼女が望んでいる事、彼女が望んでいる言葉、どんな行動を取るべきなのかどうもそれが分からない。


いや、最初から彼女の望むような結論を出す必用は無いのだから、

俺がしたい事をすれば良いじゃないか、そんな事を考えているとマンションの前まで来てしまった。


考えても分からないのなら答えを聞くべきだろう、そうでなければいつまでも迷ったままだ。


「先輩………………」


「何?」


「あの、先輩って昔、俺と会ったこと有りますか?」

意を決して聞いてみると、彼女の表情は少し険しくなる。


「どういう事?」


「“ゆうちゃん”」

その名前を聞いて彼女は驚いたような顔でこちらを向く、


「思い出したんです、昔の事……」


「そう……………それで?」


「……………何で黙ってたんですか?」

すると、彼女はひとつ息を吐き喋り始める。



「あなたが…あなたなら、思い出してくれると思ってたから…」



彼女の望みは俺に“ゆうちゃん”と言う幼女の存在を思い出してもらい、そして、今の斎条美優と言う少女の存在を認めてもらう事だったのかもしれない。



なら、俺が望んでいる事は………



「じゃあ………じゃあ、何で〈あの時〉黙っていなくなったんですか?〈あの時〉の俺には他に何もなかったのに………」

こんな物は傲慢だ……そんな事は分かっている、でも俺はそれしか言えなかった。


傲慢で強欲で醜くて、只、自分の理想を……そうあって欲しかった物を彼女に押し付けているだけで……


この気持ちを俺は押さえ付けることが出来なかった。



「私だって………苦しかった、引っ越してしまうなんてあの頃の無知で無力な私にどうにか出来る筈無いじゃない」

彼女は本の少し声を荒げてそう言い放った、



きっと、これは彼女が欲しかった言葉では無かったのだろう。



「……………………………」



「もういい………ありがとう、明日からは送って貰わなくても良いわ………………さようなら」

彼女はそう言うとエントランスを通り自分の家へと帰っていった。




こうして、俺と彼女の静かで自己中心的な口論は幕を閉じたのだった。


俺も自分の家に帰り自室に入るとある人物に電話をかける…………


「もしもし?すまん、相談がある………」

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