第13話 沈黙の花
その夜、扉を開けて家に入りリビングに向かう、
「ただいま」
そう言うと、
「おっかえり~」
母とは違う甲高い女性の声が聞こえる、
そう、妹の奏が帰ってきている様だ。
「もう帰ってきてたのか」
「そだよ~折角のゴールデンウィークだしね、部活も無いし帰ってきたの」
妹はそう言って座っていたソファーから立ち上がる、
心なしか以前より身長が伸びている様な気がする。
「結構身長伸びたな、何センチだ?」
「再会早々、その話?何か他に無いの?」
奏は眉間に皺を寄せながら不満そうに言う。
「あぁ、悪かった…」
「別に良いんだけどね、お兄ちゃんはそう言う人だし」
奏は俺に対して何かを悟っている様だ、こんなお兄ちゃんで御免ね…
「確か…最後に計ったときは、百七十センチだったかな?」
「高いな、絶対もっと伸びるぞ」
「お兄ちゃんには負けるけどね、それに、お兄ちゃんの真似でバレー始めたのに気づいたら辞めちゃってるし、またやらないの?」
奏は俺を唆してくる、
「練習なら付き合うぞ」
「そう言う事じゃ無いのに…」
そうこうしていると、母が料理を運んでくる。
「ご飯出来たわよ~」
「は~い」
夕飯を食べている途中、またも母は突然喋り出す。
「そう言えば、お昼に“ゆうちゃん”のお母さんに会ったの、最近こっちに戻ってきたらしいんだけど…」
「誰だそれ?」
俺が聞くと、それを遮るように奏が口を開ける。
「“ゆうちゃん”ってあの“ゆうちゃん”?」
誰だ?その“ゆうちゃん”って?
「奏の友達か?」
「え?お兄ちゃんの友達でしょ?」
俺に“ゆうちゃん”なんて友達はいないはずなのだが…
「その事なんだけどね、お母さん離婚して〈あの時〉引っ越しちゃったみたいで、今は苗字が違うらしいのよ」
「そうなんだ…」
奏が合いの手を入れるが俺には検討もつかない。
「それでね、奏太と同じ学校の二年生なんだけどね…」
年上と言う情報が加わった事で俺の脳は更に混乱していた。
「で、今の苗字は何て言うの?」
奏は俺が聞きたい事をそっくりそのまま母に尋ねる。
「〈斎条〉って言う、お母さんの旧姓らしいんだよ…」
「………………斎条……」
「あら、知ってたの?」
母はそう聞いてくる、
「い、いや、分からない」
夕食を食べ終わり自分の部屋に戻ると、一気に色々な事が頭を過る。
最近こっちに引っ越してきた事、俺と同じ学校の二年生で、苗字が〈斎条〉、昔馴染み、
「…………………」
これはもう、一つしか答えがない、
昔、俺と彼女は友達で、だけど、彼女は親の離婚で苗字が変わった上に何処かに引っ越してしまった、
そして、またこの町に戻ってきたと…
そこまで考えた俺は事の真相を聞くために、母が残るリビングに向かう。
「なぁ、さっき言ってた“ゆうちゃん”の事、詳しく教えてくれないか?」
「いいわよ、先ずは、名前は美優ちゃんって言って、あだ名みたいな感じで“ゆうちゃん”って言ってたわね」
母が言うこの情報で“ゆうちゃん”が彼女、斎条美優であることは確定された、
「あと、最初は保育園で会って、暫くは仲良かったんだけどいきなり引っ越しちゃって、それ知った時に奏太ったら泣きわめくし暴れるしでで大変だったのよ」
「そ、そんな事があったのか……分かったありがとう、おやすみ」
「いいのよ~おやすみ~」
再び自分の部屋に戻り、俺は考える。
今までの情報をまとめると、間違いなく“ゆうちゃん”とは斎条美優だと言うこと、
そして恐らく、あの夢に出てくる幼女も斎条美優かもしれないと言うこと、
それなら、最初に会ったときに彼女が俺を地元の人間だと分かっていた事や色んな事にも辻褄が合う。
だとしたら、何故彼女は昔の事を黙って俺に近づいたのだろうか?
そう考えていると、次々と昔の事を思い出していく、
〈あの時〉〈あの場所で〉何も言わずに去っていった彼女…
そして、〈あの時〉〈あの場所で〉何も言わずに近づいてきた彼女…
その時点で俺の思考回路はショート寸前だった。
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