第835話 魔族の特性
ネッカの呪文によって活路を開いた騎士団が一気に魔族達の包囲網の一角を切り崩した。
魔族達としては甚だ不本意な初接触だろう。
何せ彼らは本来やるべき工程をひとつ喪失してしまっているのだから。
〈
魔術には大概射程距離がある。
〈
一方で〈
城壁と魔族どもがいる地点のちょうど中間点を越えたあたりから出ないと射程に入らないのだ。
ゆえに魔族どもは初手でまず射程の長い攻撃呪文を連続で放ち、それを抜けてきた騎士達に〈
ドルムの兵達は魔族どもの特性や戦術に通暁しており、それらの特性に対する対策はしっかり施している。
先述の〈
まあリスクなしコストなしに唱えられる聖職者の〈属性抵抗〉系の奇跡と異なり魔導術の〈
言うなれば魔族側、そして
ただ……その両者には大きな、そして決定的な差がある。
魔族どもの耐性や抵抗能力が生来のものであるのに対し、
つまり
ゆえに魔族どもはドルム側でもっとも攻撃力が高く、突破力の高い白銀騎士団めがけて〈
もちろんドルム側が対抗魔術によって〈
なにせ魔族どもと違い
相手の対抗魔術を上回る数の〈
だが彼らのその目論見は崩された。
ネッカの氷雪置換された〈
流星の直撃による猛烈なダメージからの精神集中の乱れ。
氷雪攻撃の副次効果による凍結、足止め。
さらにはそれによる動作要素の阻害。
これらはすべて
あの凍てついた流星の雨が魔族どもの魔術投射の機会を奪い、それが彼らの戦術的優位をひとつ奪う事に繋がったわけだ。
ネッカはそれを意図してやってのけたのである。
だが兵士達の後から城門を飛び出た遊撃部隊……いわゆる冒険者どもに混じってその光景を目撃していたクラスクは、その状況に少し違和感を感じていた。
今の状況がネッカの大魔術に寄って生み出した結果だとしても、〈
彼の違和感はそこに帰結する。
無論〈
目に見えるものではない。
だからクラスクは魔族どもが放つ妖術を呪文を直接目にしたわけではない。
だが背後の城壁に控える魔導師達の詠唱は聞こえる。
その彼らが、相手の〈
それはつまり魔族どもが投射した、打ち消さねばならぬ〈
直接隕石の直撃を受けた者が呪文を喪失するのはいい。
その周囲にいた魔族どもが身体の自由を奪われそれで呪文を喪失するのもいい。
だが落下した隕石は八つ。
それぞれ離れた場所に落下し、広範囲に爆発を引き起こしたけれど、それでもその範囲に含まれていない魔族はまだまだ多かったはずだ。
だからネッカが放った呪文に巻き込まれなかった魔族どもも十分いたはずで、彼らの中に〈
ネッカが相手の〈
そもそも距離が遠すぎる上に他の魔族の後方に控えている連中までは見えなかったはずだ。
氷雪効果で巻き込んだ連中の中にも魔術結界によって無効化し冷気のダメージや凍結効果を受けなかった者もいたはずである。
ならばなぜ彼らは〈
(動揺シタ、ノカ……?)
ドルムの連中が魔族どもの戦術の通暁しているように、魔族どももドルムのやり口に精通しているはずだ。
んまにせ五十年にわたり鎬を削ってきたのである。
互いの手口はある程度把握している事だろう。
だがネッカの新開発した魔術は完全に彼らの想定外だったはずだ。
それだけに動揺し妖術を放てなかったのだろうか。
(……イヤ、違ウナ)
クラスクは斧を握り締めながら想像を巡らせる。
(動揺ガ……伝播シタ……?)
無論初見の攻撃に驚いたのもあるだろう。
だがそれだけではない。
氷雪系の効果で身動きが封じられた魔族どもは恐怖したはずだ。
なにせ転移系の妖術が使用できる魔族でもない限り身動きが取れぬと言う事は動作要素が封じられということであり、それはすなわちほとんどの魔導術が使えぬと言うことに等しい。
そして逃げられないということは先陣を切った騎士どもの
その恐怖が……おそらく精神感応によって周囲に伝播したのだ。
魔族どもが用いる通信手段、精神感応。
それはおそらく常時発動型のものではなく相手に話しかけるようにしないと効果を発揮しないものだとクラスクは踏んでいた。
なぜなら常時全員が双方向で意思を伝達し続けているのならそれは個体である必要がない。
全体で一つの意思を持つ群体である。
だが魔族どもは明らかに個々が対立し、仲が悪そうな印象がある。
それは突入行の際にも見て取れた。
その突入行の際に感じた彼らの意思統一までのタイムラグもまた、魔族どもの精神感応が恣意的に発動されるものであるという証左だろう。
つまり彼らは精神感応を
とするなら……つい声が出てしまう事もあるのではないだろうか。
つまりあの蒼い流星雨に巻き込まれた魔族どもはネッカから未知の攻撃を喰らい驚いて、さらに身動をが封じられ動揺し、さらにひゃ間近に迫る騎士達の
そんな気持ち、感情、叫びをつい精神感応で放ってしまった。
それにより周囲に動揺が広まって、結果精神集中が乱されて、結果〈
だとするなら……
それは、魔族どもの弱点になり得るのではないか……?
クラスクの脳裏には、そんなことを浮かんだのだ。
ただ、彼の考えが本当に正しいのか……
それが最初に判明するのは、この地ではないのだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます