第215話 変化いろいろ
さて、当然ながらミエの家以外でも村には色々な変化があった。
特に多かったのが結婚報告である。
まず元棄民だった村娘のラルゥ…かつてオークの若者二人と騎士二人に言い寄られていた彼女だったが…は、その内の一人、オークの若者ドゥキフコヴと結婚した。
各々から優しい言葉やら口説き文句やら食事やらデートのお誘いやらと様々なアタックが繰り出されたが、決め手となったのは花だった。
ドゥキフコヴがミエに相談したのである。
女が喜ぶもので、自分の気持ちを伝える贈り物がしたいと。
花を贈りたいから選ぶのを手伝ってほしい、と。
それを聞いたミエは狂喜して、さらに伝え聞いたサフィナも目をまんまるに大きくして興奮した。
そして二人で彼を引っ張り森の村の花畑へと赴いて、見事な花束を作り上げたのである。
ドゥキフコヴとしてはこう綺麗な花が一輪か二輪程度あれば…程度の考えだったのだが、出来上がったものはそれはそれで大層気に入ったのでそのままラルゥに渡した。
彼女は涙を流して喜んで…そのまま、二人は恋仲となり、ほどなくして結ばれた。
二人の結婚式は大いに盛り上がった。
それは単純に元棄民である村人たちとオーク達の融和の象徴であっただけでなく、村の若いオーク達の福音となったからだ。
なにせクラスクが族長となって以降襲撃回数は減らされ、隊商や他の村から娘を攫ってくることは禁じられた。
未だ相手のいない若きオーク達は、だから結構な期間女性と結ばれる機会を奪われてきたのだ。
だが遂に若きオーク族にも嫁を得た者が現れた。
新しい村ならば新しい出会いがあると、略奪によらずとも女性と結ばれる機会があると示されたのだ。
それはつまり『新しい族長のやり方は間違ってなかった』『クラスク族長についていけば大丈夫だ』という確信が、若きオーク達の間に定着した、ということである。
この結婚式の後…オーク達は一層族長であるクラスクに従うようになる。
他にも婚姻に至ったケースが幾つかあった。
特に多かったのがアーリンツ商会の獣人達である。
牛獣人のプリヴは押しに弱いこともあって若きオークの猛烈なアタックに抗し得ずそのまま求婚を受け入れて現在産休中である。
まあ当人も割と夜の生活に満足しているようでそれなりに幸せそうだが。
意外なのがアーリンツ商会の頭脳、経理にして社長秘書たる鹿獣人、睫毛の長い美人顔のスフロー・ファヴトである。
彼女はこの手のことはのらりくらりとかわして逃れ続けるタイプだろうとは獣人達一同の共通見解だったのだが、その当人がかなり早いうちにさっさとオークと籍を入れてしまい、従業員たちを驚かせた。
ただその理由というのが彼女を酔わせて前後不覚になったところをあわよくば一晩…などと邪なことを目論んだ若きオークと酒場『オーク亭』にて酒盛り勝負を行い、酒豪で鳴らすオーク族をこともあろうにべろんべろんに酔い潰して完勝した上、つい勢いで宿に引きずり込んでそのまま頂いてしまったから、というのだから相当とんでもない娘である。
「だってほろ酔い気分で眺めていたら、悪酔いして
とは彼女の弁。
酔って前後不覚に陥った相手を頂戴する…性別こそあべこべではあるが、ある意味彼女に勝負を挑んだオークの勇気の勝利と言えなくもない。
まあもっともなれそめがなれそめだけに彼はもう一生妻に頭が上がらないだろうが。
獣人と言えばオーク族との婚姻にあまり乗り気ではなかった虎獣人、アーリンツ商会の隊商護衛担当イヴィッタソ・ヨアもまたオークと結婚し、この村に籍を置くこととなった。
こちらは酒場で若いオークと口論になった挙句翌朝になるまで素手で殴り合いの喧嘩をし、その後互いに相手の力量を認め合って意気投合。一緒に飲んだり食事に出かけたりする付き合いとなり、その後相手から熱烈なプロポーズを受けてそれを受諾、という絵に描いたような順調なゴールインであった。
ただプロ―ポーズされた時点では彼女にはそんな意識はさらさらなく、自分がそんな対象として見られていたことに唖然として、次に耳先まで真っ赤になって羞恥に身悶え、さらには告白されたことで相手を必要以上に意識してしまってまともに受け答えもできず、考えさせろとその場から逃げ出して三日後にOKするというなんとも普段の彼女らしからぬ初々しさをさらけ出してしまい、その後しばらく他の獣人達の話のタネにされていた。
他にも周囲を驚かせた婚姻が二つあった。
一つは元翡翠騎士団第七騎士隊副隊長のエモニモで、相手はこともあろうにクラスクの側近ラオクィクであった。
これに関して彼女は
「キャスバス様がこの村に留まる以上私がここに残らない理由がありません。この村に留まる条件としてオーク族との婚姻が必要だというのであればそれを受け入れるまでです」
とあくまでビジネスライクな関係を強調した。
そしてラオクィクを選んだ理由も「別に誰でもいいけれど一番面識のある相手が一番マシだと思ったから」と
実のところミエもクラスクもこの村に留まる条件として婚姻を持ち出したことは一度もなかったのだが、当人がそうしたいというのを止める理由もなかったので黙っておくことにした。
一方エモニモが新たに嫁としてやってくると聞いたとき、ゲルダは「別にいいんじゃねーの。一夫一妻って決まりがあるわけじぇねえしな」とこれまたあっさりと受諾。
これにより彼女は晴れて第一夫人となり、エモニモが第二夫人となってラオクィクに嫁ぐこととなった。
エモニモの決断にキャスは随分と驚いたが、それ以上に青天の霹靂だったのは騎士隊の面々である。
なんのかんので彼女を狙っている者も少なくなかったし、王国の騎士でなくなったことで晴れて彼女との間の障害がなくなったと喜ぶ者もいたほどだったのだ。
ショックを受けて嘆くものも少なくなかったとか。
さて…最後の一人の名はギスクゥ・ムーコー。
即ちキャスの盟友だったハーフの
ある日キャスがギスに逢いに行くき、部屋の前まで来ると、扉が凄い勢いで開いて中から若いオークが真っ赤になって飛び出してきた。
彼はそのまま逃げるように外に走り去り、キャスは茫然とそれを見送る。
「おい、ギス。今イェーヴフの奴がお前の部屋から飛び出てきたが…!?」
扉を開けて部屋に入ったキャスは絶句した。
全裸の彼女がまさに下着を着けようとしてたからである。
「あら、着替え中に入って来るなんて不調法ねキャス。まあ昔からそんなところがあったけれど」
「待て。いや待てギス。この臭い…お前まさかイェーヴフと…!?」
部屋に漂う臭気に顔を顰め、キャスが詰問する。
これは明らかに一戦以上こなした後の臭いである。
「おいギス、答えろ!」
「ふふ…食べちゃった♪」
「んが……!」
あっけらかんとそうのたまい舌をぺろりと出す旧友にキャスが絶句する。
「お前…わかっているのか!? オーク族にって婚姻や出産は種族の維持のためのとても大切な……!」
「ええ、わかっているわ。責任はちゃんと取ります」
「なに……?!」
…というわけでギスまでもが村に残りオーク族の妻となってしまった。
相手は若手のオーク、彼女を探しに北原の族長代理たるゲヴィクルと共に各地のオーク族の集落を渡り歩いたあのイェーヴフである。
これに関しては別に偶然というわけではなく、ギスも彼に狙いをつけて誘惑したのだという。
「だって若手の中じゃ彼が一番出世しそうでしょ?」
とは彼女の弁。
どうしてどうして、新たに村に加わった女性陣もなかなかに曲者揃いのようである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます