第8話 そして異世界へ
「応援…?」
「はい。あの、私死ぬまでずっと病弱で、両親にもお医者さんにも看護師さんにもたまにしか会えないクラスのみんなにもいっつも迷惑かけてばっかりで…だから、だからもし自分が健康になったら、元気になれたら、少しでもみんなにお返ししたいって思ってたんです」
結局その願いは叶うことはなかったけれど。
でも、もし向こうの世界で何かできるとしたら、何かをしろというのなら。
少しでも誰かの役に立ちたい。誰かを援けたい。応援したい。
それが…彼女、三枝美恵が出した答えだった。
「参ったな…ここまで利他的な望みを言う子は初めてかもしれない」
「ダメ…ですか?」
「いや。ダメじゃないよ。それにちょっと面白そうだ」
彼女の主観には危険な異世界で己が生存し活躍するために最も大事な「自分を強くする」「己の身を護る」「一発逆転の奥の手」のような視点が決定的に欠けている。
けれど…それ以外の点において、彼女の申し出はこのシステムに非常によく合致している。
汎用性が高く、気軽に使えて使用頻度が高く、レベルが上がりやすい。
≪応援≫のスキルにはそれらの要素が全て備わっている。
(それに…自分のための視点が欠けているけど、それはあくまで彼女の主観でしかない)
問題は彼女自身の要望とは別に存在する≪応援≫スキルの癖の強さである。
性質的に玄人は好まず素人向きのスキルであるためそういう意味では彼女に相応しいが、その性能をフルに発揮するためのハードルが非常に高く、そういう意味ではまったく初心者向けではない。
ではどうすれば彼女の要望をより叶えられる? 向こうの世界で彼女の存在を面白くできる?
暫し熟考したその男は、やがて小さく肯いた。
「≪応援≫ってスキルは確かにあるよ。じゃあそれを君のスキルとして登録しておこう。あと…そうだね、君はスキルみたいな…んー、君の世界で言うところの『ゲーム的な』感覚が欠けているようだし、スキルの発動は無意識にしよう。こう『スキルを使うぞー』って応援するよりも応援したら勝手にスキルが発動する方が君も楽だろう?」
「あ、ありがとうございます! 色々親切にしていただいて!」
美恵はぺこぺこと頭を下げる。
「色々と不勉強な私に本当になにからなにまで親切にしてもらって…この恩に報いるためにも向こうの世界で精いっぱいがんばりますね!」
「いいさ。これは君のためだけじゃないからね。ああ、そんな怪訝そうな顔をしたないで。こっちの話さ」
男は静かに微笑んで、一歩横に歩を進めた。
彼が退いた背後には…いつの間にか、開かれた扉があった。
いや壁も何もないただの空間を扉と呼ぶのはおかしい。空間が歪みが扉の形に見える、というのがより正確だろうか。
「これで一通りの手続きは終わりだ。あとはこの扉をくぐれば君は晴れて向こうの世界の住人になる」
男の言葉に美恵は小さく息を呑んだ。
だが一度決心したその気持ちは揺らぐことなく、その奇妙な歪みに足を踏み出し…
そして、意識を失った。
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