第4話 異世界への誘(いざな)い

「あのー…話が見えないのですが…」

「まあそうなるよね、うん。順を追って説明しよう」


彼は咳払いをして、淀みない口調で説明を始めた。ずいぶん手慣れた感じである。


「まず君たちが住んでいる世界以外にも、この世にはたくさんの世界がある。それを前提として理解してほしい」

「えーっとそれは地球以外にも知的生命体が住む惑星はたくさんありますとかそういう話なんです…?」

「う~ん…ちょっと違うかな。でもまあ説明してる側としては同じような感覚で理解してもらっても構わない。遥か宇宙の先に知的生命体が住んでいる惑星がある、というのも広大な次元界の海の先に異世界アナザープレーン多島海ア-キペラゴのように点在している、というのもスケールは違えど人間の認識としては似たようなものだろうからね」

「…つまりこう、宇宙的なものではなくって、別世界的な…?」

「そうそう。最近の…この星の若い人が嗜む小説とかだと『異世界』って言い方のがポピュラーかな? 君たちの世界より科学が遥かに発展してる世界もあれば魔術が進歩しドラゴンが闊歩してるような世界もある。逆に全然発展発達していない原始的な世界とかもね」

「すいません最近の流行りの小説はあんまり…」

「…これまただいぶ珍しいタイプだね」


ずいぶんとトンデモな内容の話を聞かされた気がするが、とりあえず美恵にはそれをそのまま受け入れた。

なにせ彼の発言を疑うなら今のこの状況自体を疑わなければならない。

目の前の男が嘘を言っているにしても真実を語っているにしても、とりあえず成程と納得して話を進めるしかないのである


「で、だ。そうした世界のうち、未だ発展途上の地では、世界をするために常に『運命改変者フェイトブレイカー』の高い需要がある」

「開拓? とふぇいと…ぶれ…?」


知らない単語が次々と飛び出してきて、美恵は理解の追い付かないままとりあえず鸚鵡返しに聞き返す。


「まあ簡単に言えば定まった運命を変え、新たな道を切り開くことのできる者たちのことだね。世界によっては『勇者』なんて呼ばれたりもするかな」

「へええ、すごいですね」


勇者…物語や神話とかに出てくる英雄たちのことだろうか。

そんな人たちがまだこの世にはいるのか、と彼女は素直に感心する。

もし本当に実在するなら是非あやかりたいものだ、とも。


「そうした資質を持つ者は本来かなり少数のはずなんだけど、幸いというかなんというかこの世界…君たちの言うところの地球、かな? はとにかく人口が多いから、いかに希少だとしてもそうした才能を持つ資格者達がそれなりに生まれてくるのさ」

「なるほど。母数が多いから、ってことですか」

「そういうこと。だから他の世界の連中…まあ神様みたいなものだと思えばいい…からの突き上げがきついんだ。そんなにたくさん改変者を輩出しているのなら少しはこっちにも寄こせ、ってね」

「それで…その、勇者さんたちを渡しちゃうんですか? いいんですか?」


美恵にはそれは酷く横暴で一方的な要望に聞こえた。

なんというかそれでは地球側が一方的に搾取されているだけではないか。


「う~ん…それがちょっと難しい問題でね。運命を改変する力っていうのは世界が不安定だったり危険だったりする時には素晴らしい力として働くし多くの者に切望される。でも…平和な世の中ではどうだろう。安定し平穏な世界を『改変』して崩し破壊させる要因になりはしないだろうか」

「あ…!」

「君たちの世界はもう安定期に入っている。運命を改変する力があってもそれを世界の発展に役立てられる者は少ないし、むしろ逆に悪い方向に発揮させてしまう人もいるだろう。戦争を起こしたりとか疫病を流行らせたりとか…あとはえーっと、テロっていうんだっけ?」


美恵にも男の言わんとしていることがようやく腑に落ちる。

世界が平和になったら勇者は不要なのだ。むしろ悪戯に戦乱を巻き起こす危険物にすらなりかねない、ということなのだろう。


「だからこうして僕みたいな奴が、そうした力を腐らせたり悪用させたりしないよう存分に発揮できる世界へ案内してるんだ。無論こちらにもそれなりの見返りがある。決して損な取引ではないのさ」


男がフードの奥にある瞳を細め、目の前にいる娘に告げた。


「だから、こうして君のような子をスカウトしているわけだ」




美恵は…彼の言葉の意味が、しばらく理解できなかった。




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