第6話 やはり人はお金に反応するものだろう

さっそく恋人メニューが出された。まあ・・・ 一つのジュースを2つのストローで飲み合うなんていうロクでもないものだ。


「ほら! 一緒に飲もうよ!」


「却下だ」


「いいじゃん! 今日1日恋人って言ったでしょ❤️?」


「い、いや・・・ いつそんなことを・・・」


「いいから。お金もったえないよ?」


ピクッ。俺の耳が動いた。そう。俺の数少ない大事にしているものの一つがお金だ。お金の為となれば仕方ない。


「よし! 飲もう!」


「・・・やっぱりお金に反応しちゃうんだ」


「当たり前だ。人間という生物はお金に反応するようにできているんだ」


「・・・お姉さん、失望だよ」


逆にお金に反応しない方がおかしい。それはもはや人間ではないと言えるだろう。


■◆◇


「よし! 覚悟を決めたぞ!」


「い、いや・・・ 普通にジュース飲むだけだから」


「それでもだ! よし! 飲む!」


俺は飲み始めた。こ、この味は・・・


「おいしいね!」


「ま、まずい!」


「えぇ⁉︎」


「甘すぎる。こんなまずいジュースは初めてだ」


実際、何を混ぜてるかわからないこの食感と味。そして妙に甘すぎる。これはまずい。


「この甘いのが美味しいんだよ?」


「いや、俺はもっと大人にブラックなものが・・・」


「・・・全然カッコよくないんだけど」


「・・・忘れてくれ」


お、俺としたことが。こんなしょうもないことの為にテンションが上がっちまった。


「もういいだろう。出るぞ?」


「ほんとにせっかちだね・・・」


俺たちは早々に店を出た。


■◆◇


「はぁ〜 今日は疲れた」


ここは帰り道の道端。


「私もだよ〜 直斗くんといるのがこんなに疲れるなんて」


「そりゃあどうも」


誘ってきたのはお前の方だと思うんだが。


「まあ・・・ 楽しかったのは楽し・・・」


とその時、バランスを失った自転車が突っ込んできた。


「あ、危ねえな」


俺はとっさに玲菜を抱いてよけた。


「ふん。これだから外の世界は・・・」


「あの・・・ ありがと」


別に玲菜を助けたわけじゃない。たまたま手が出ただけの話だ。


「ま。ついでだよ。大丈夫か?」


「・・・・・」


なぜか玲菜が顔を赤くして黙り込んでいる。


「じゃあ俺は帰るぞ?」


もううんざりだ。帰って寝よう。


「直斗くん!」


「ああ?」


振り返ると玲菜が満面の笑みで手を振っていた。


「またね❤️」


俺は少しだけ手を振り返した。


それにしてもあの満面の笑み。


「俺、何もしてないよな?」


下手に関わられるのはやはり嫌なのである。

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