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この町では連続殺人犯、いわゆる通り魔が発生していた。この学校でも何人か目撃している人がいる。実際に死んだのは一人だけであったが、重症を負わされている人はもう結構いる。連日のワイドショーのトップを飾って騒いでいる。全く関係のないどこか遠くのスタジオで。

まぁ、俺は死なないから襲われても心配は無いんだけど。食事を邪魔されたら気に食わないな。

 ということで学校帰り、制服を着替えてから商店街の一つ置くの道に入る。昼間こんな場所にはそもそも人がいないので多少おかしなことが起きても大丈夫なのである。なので人間を探しやすい。

すると近くの路地に丁度よさそうな人を見つけた。中学生だろうか学ランを着ているけど酷く汚れているし所々切られている。靴は片方はいていない、………捨てられたのだろうか。まぁ典型的ないじめの被害者ってことか。いい具合の量の血が吸えそうだ。最近すぐ自殺する人が増えて病んでいる人があんまりいない。全く困っている。

その少年が通り掛かるであろう先の路地でスタンバっていると、何やら悲鳴が上がる。しかも割と近くで。

すると「通り魔だ~!」と誰かに助けを求める大きい声が聞こえてくれる。アナウンスしてくれたおかげでその正体が確定された。そんなことを思っているとさっきの声と同じ声の断末魔が聞こえた。道に顔を出して様子を確認すると、ある男の下に一人の人が横たわっている。じわじわと血が地面を這っていく。もったいないなぁ、貴重な食糧なのに。そしてその男は次のターゲットを決めたらしい。静かに歩き始めた。俺が狙っていた学生の方に…。そしてその学生はというと持っていた鞄を地面に落とし、指先を振るわせながら立ちすくんでいる。普通に考えれば逃げ出すところだろうに。つまりその少年は今から行われるであろう凄惨な死に身を任せることにしたというらしい。全く迷惑だ。

そんなことを考えていると男が急に口角を上げ、歩くスピードを上げ小走りになって少年に近づいていく。俺もアレでは殺されてしまうので急いで少年に近づいていく。幸いにも通り魔は俺に気付いていない。いや、少年のことしか目に見えていないと言うべきか。

そしてその男はその勢いのまま少年を押し倒して腰の上に馬乗りになって片手で持っていたナイフを両手に強く握り直し自分の頭より高く振り上げる。とっさにそのまま振り下ろされるナイフと少年の間に手を入れる。

次の瞬間肉が引き千切れるような鈍い音がした。出した右手を恐る恐る見るとナイフが刺さっていた。柄が当たる位まで押し込まれて…。出した手のおかげで少年に傷はない。まず一安心だ。別に痛みはないけど痛々しい。するとその男は阻止されたのがイラついたのかナイフを無理やり手から引き抜き、俺を押し倒して首にナイフを突き立てる。ふと、突き立てたナイフに付いていた血が右手に向かって空を舞う。

「貴様ぁぁぁぁっ!!!!」

と怒りに満ち溢れた言葉を放ったその男は次の瞬間には正気に狂気に戻っていた。そうしている間に右手は完全に元通りになった。すると首に輝きを取り戻したナイフを突き立てたままその男は話始める。

「お前さぁ、邪魔してくれてんじゃねぇよ。あれは俺様が救ってやろうとしてただろ。救済を止めるとかほんとにありえねぇから」

「救済かぁ…」

と吐き捨てるように言うと男の眉間に刻まれている線の数が増えた。そして嘲笑しながら男に向かって唾と共に言い放つ。

「どの辺りが?」

すると男はナイフを首元から話して右肩の付け根に刺した。

「ちょっと黙れよ。お前」

そしてニュースで言っていた死んだ人について思い出した。その人は通り魔に立ち向かい、逆上した通り魔に何か所もめった刺しにされたそうだ。

「あれはさぁ、俺様に抵抗しなかったんだよ。一つも…、そう一つもだよ」

と空に向かって叫んでいる。周りではスマホのカメラをこちらに向けている人が何人もいる。逃げろよ。バカか。

「あれは死ぬことを望んだんだ。生きることに意味なんて感じ無くて辛くって、自分じゃ死ねない奴がこの世界には溢れてるんだ」

あ゛っ、あ゛っと気色の悪い笑い声を混ぜながら男は話を続ける。こんなの聞いてたら耳が腐りそうだ。

「だからさぁ、俺様が救ってやるのさ。自分で死ねなくたって、死ねそうなことに出くわしたら人間ってのは受け入れちゃうのさ。だから俺様は死をもってそういう奴らを救ってやるのさ。善行なんだよ!これはぁぁぁああああ」

とわざわざ耳元で男は叫んだ。こんなに叫んで唾が一滴も飛ばないってのはどうやってるのだろうか、器用なのかこいつ。そしたら何が?再び男は空を高く見据え叫ぶ。

「そしてぇぇええ!!それを止めたお前は悪人だ。悪人は罰せられるべきだろう。だからお前は俺様に殺されるんだ」

「ほ~う?」

と俺は軽く右の口角を上げて更に煽る。

すると男は突き立てたままのナイフに再び手をかけ、ぐりぐりと刺した穴を広げていく。だが痛みは感じないし寝そべったままでは肩なんて見えないので何が起きたのかよく分からない。

「ほぉ~。これだけやられて顔色一つ変えないか。キモいな」

『前例があるなら聞いてみたい…』

なんて邪な考えがよぎったがそれは今大事ではない。これだけカメラがある状態で平和に終わらせるためには傷を治すことなくこの男を行動不能に追いやらなければならない。

│││そう行動不能に

男の体から血液を集める。動脈から三リットルほどこれ以上奪うと死んでしまうとはいかなくても障害が残る恐れがある。それは本意じゃない。集めた血液は次、この男が俺の体を刺したと同時に林檎の形を解いて放とう。そしたら違和感もないだろう。

すると、気に入らねえぇんだよ!と男は急に叫びナイフを抜いて首の隣の地面を刺す。

「…意気地なしが」

と、ぼそっと言うと男は沸点に達したらしくナイフを俺の心臓の場所に突き立てた。だが男は肋骨に対して縦向きに刺したので骨に阻まれて奥までは入らなかった。これでは一般人でも重傷にはならないだろうに。そして突き立てた場所で林檎の血を放つ。そのまま意識を失った男に馬乗りになりナイフを遠くに投げる。

 そしてその場から立ち去ろうと辺りを見回す。傷が治ってしまうまで時間があと少ししかない。だが辺りは人が取り囲んでいて、取り押さえたのを見てやって来る人もいる。その善意は辛いな。もう少し人が少なくなるまで傷を治らないようにしないといけない。とりあえず指先を爪で傷つけその場をしのいだ。

 そのまますぐに救急車に運ばれた俺は少しその現場から離れてから、搭乗者全員の血を抜いて立ち去った。あの人たちはこれで記憶が曖昧になるから大丈夫だろう。だがあんなたくさんの人にビデオを撮られたのはどうしようもない。諦めるか。その内収まるだろう。この騒動も…。

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その吸血鬼は血を吸わない kana @umihimekaho

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