第3話

まず続きのエロをカットでーす。

事後からどうぞ!




 ふたりでもっかいシャワーで軽く流して、ハルさんは浴衣が気に入ったらしく、またさっきと同じそれを着ていた。

 今度はちゃんと布団綺麗に敷いて、並べた布団で真ん中寄りに横になって手ぇ繋いで寝た。

 扇風機の風が気持ちいい。

 疲れたし、これはよく眠れそう。


 朝起きたらハルさん向こう向いてたけど。

 起き上がって見てみたら掛け布団は被ってねえし、浴衣ははだけて太ももまで丸出しだし、朝は弱いみたいでいつまで経っても寝惚けてるみたいだし。

「ハルさん起きた?」

「……うーん……おきてない」

「あっそ」

 駄目だこりゃ。トイレ行こ。


 トイレから出て冷蔵庫の水飲んでから部屋に戻ったら、ハルさんが布団に寝そべって寝惚けたまま、電話をしていた。

 扇風機が昨夜からずっと動いたままでいる。

 俺は襖を閉める音を極力消すようにして、ゆっくりと動かした。

 相手に察しがついたから。

「もしもし、うん、うん? うん、寝てた。あー、ごめん、今ちょっとね、人と旅行にきてて、うん。寝てたから祥太郎さんの電話気づかなかった、ごめんね。……んー、えっと、そうだな、一週間くらいしたら帰るから、また電話して。うん、大丈夫だと思う。…………、そうだね、うんじゃあ、またね」

 ハルさんが電話を切るのを確認してから、隣の自分の布団の上に座っておはよ、と声を掛けると、ハルさんはスマホを丁寧に枕の横に置いてから、さっきよりはいくらかちゃんとした声でおはよう、と返してきた。

「電話きてたんだ?」

「うん、今も掛かってきて、起こされた」

 俺はハルさんがその人と電話をしているときは、極力気配を消すように気をつけている。

 何故なら向こうがそうしているから。

 俺がハルさんと電話で話しているときも、時々スマホの向こう側にその人の気配を感じる。

 こっちに気を使って自分を隠している。

 だから俺も同じようにする。

 だって彼と俺は同じ立場みたいだし。

「昨夜俺の家行ったら留守だったからさ、心配したみたい」

「言ってないんだ、しょうたろうさんには」

「言わないよいちいち」

 ハルさんは逆に、何も隠したりしない。

 目の前でも堂々と電話するし、なんだったら明日は向こうと居るから会えないとか、明確にきっぱり断られることだってある。

 名前しか知らないしょうたろうさんには特にどうとも思わない。

 会ったことないし。

 いや違うな嘘だ。

 いろいろ思いすぎてなんかもうなんだかなあと思っている。

 俺より先にハルさんと一緒にいたわけだから、それまでは実質ハルさんのこと独り占め状態だったわけだろ。

 なんか申し訳ないなとか、今は俺のところにいるんだよっていう優越感とか、ハルさんがあっちと会ってるときには劣等感とか、それでもお互いに恋人にはしてもらえないんだもんなっつー共感とか逆に憐れみとかその他もろもろを、全部ひっくるめての、なんかもうなんだかなあ、だ。

 実際に会ったことないから、もし目の前に現れたらまた違うのかもしれないけど。

 俺はまたハルさんの横に寝転がって、腕で頭支えながらハルさんの顔をまじまじと眺めてみた。

 そんなことばっかしてるから、エロいっていう印象しかないんだけど、この人本当はなに考えてんのかな。

 俺らのことをなんだと思っているんだろうか。

 セフレか、そらそうか。

 友達以上恋人未満ってやつか。

 そらそうだわな。

「なんて言ってた?」

「早く会いたいって」

 本っ当に包み隠さないんだよなあ。

 まあ隠す必要のある関係だと思われてないからだけどさ。

「へー。なんか悪いことしたな」

「別にいいんじゃん、帰ったらいつも通りだしさ」

 思うに、そのしょうたろうさんとやらも、きっと腹の中のどっかではハルさんのことが好きなんではないだろうか。

 だって俺と同じらしいし。

 しょうたろうさんってさん付けするからには、年上なのかもしれないな。

 俺は呼び捨てにされてるし。

 でも多分、例えばこの均衡を抜け駆けしようとして、例えば俺がハルさんに一言でも好きだと伝えてしまったとしたら。

 ハルさんはもしかしたら次からもう二度と、俺には会ってくれないんじゃないかな。

 なんかなんとなく、そんな気がしている。

「なに?」

 ずっと顔を見ていたら不審だったらしく、ハルさんが俺の頬を指でつついてくる。

 好きだ。

 言わないけど。

「どんな人?」

「なにが?」

「しょうたろうさん」

「ああ、気になるの?」

「うん」

 ハルさんは、そこから先を答えることなく起き上がって、更には立ち上がってしまった。

 そしてそのまま部屋を出ていった。

 やっぱりそこは答えてはくれないか。

 と思っていたら、しばらくして冷蔵庫に入れていた菓子パンを持って戻ってきた。

 俺が昨日選んだジャムパンを放って寄越す。

 ハルさんは既にサンドイッチを頬張っていた。

 布団の上で食う気か。

「おじさんだよ。あ、んー、そうでもないか。3じゅう……2、くらいだったかな。だからお兄さんかな。嫁さんに浮気されてさ、離婚で揉めてるんだって」

と、ハルさんはまるで世間話でもするかのように普通に教えてくれた。

 布団には戻って来ずに、よれよれの浴衣姿でサンドイッチをもぐもぐ咥えたまま家中の襖を開けていく。

 外の光と熱と微かな風が部屋の中に差し込んで、それはそれは明るい朝だ。

「え、嫁さんいる人なの?! 浮気じゃん!」

 俺はバリッと勢いよくジャムパンの袋を破った。

「いやー、それがさ、案外そうでもないみたいなんだよな。もう離婚が確定してて、結婚生活が破綻してたら法律上は浮気にはならないんだってさ。俺が知り合ったときにはもう揉めてたみたいだし、俺はそこには完全に無関係だから、どうでもいいけど」

「へー」

「別に、良い人だよ、ストーカー染みてるわけでもないし、どっちかといえば紳士的なほうなんじゃん。食事も誘ってくれるし、気前も良いしさ。俺からしたら、なんで浮気されちゃったか不思議」

「ふーん」

 聞くんじゃなかった。

 なんか、ちょっと妬いてしまった。

 そうか、ハルさん、誘えば普通にデートにも付き合ってくれるのか。

 どんなところ行くんだろうか。

 お高いディナーとかだろうか。

 だとしたら俺には無理だな。

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