第2話

 それからハルさんはひとりで風呂に向かった。

 一緒に入ろうかと思ってたら嫌がられたから、俺は結局パンイチ汗だくのまま掃除機を代わってやった。

 そんで風呂から戻ったハルさんは、ちょっとアイス買ってくる、と言って、髪も濡れたまんまですぐにひとりで出ていってしまった。

「……なんでだよ」

 俺は仕方がないから、勝手に人んちの押し入れという押し入れを勝手に開けまくり、布団を二組引っ張り出して畳の上に放り投げた。

 一組でもいいかな、なんてちらっと思ったりもしたが、多分どう考えても無理がある。

 真っ白なシーツが一緒に畳んで置かれていて、これ使えばいいのか。でもこれ、汚したらマズイよなあ、とか、今夜から果たしてどうやって楽しめばいいのか、そんなことばかりを延々と考えていた。

「あ、布団見つけたんだ、ありがとう」

「適当に出したんだけど、これで良かった?」

「うん、いんじゃない」

 帰って来たハルさんはサンダルを脱ぎ捨てるようにして家に入り、はい、と小さな白いビニール袋を俺に差し出した。

 スーパーカップ。超バニラがふたつ。

「チョコチップがよかった」

「アイスはバニラに決まってんだろ」

「決まってねえよ」

 畳の部屋は3室あった。

 ひとつは居間、ひとつは寝室、ひとつはよく分からないから多分使わない。

 なんか仏壇あったし。

 縁側全開にしてると、本当にわりと良い風が入ってくる。

 海の近くだからか?

 エアコン要らず。

 この家エアコン見当たらないけど。

 暑いっちゃ暑いけど、耐えられないほどではない。

 そんなことを考えていたら、ハルさんがどこからか扇風機を出してきてくれた。

 古いテレビの置いてある部屋を居間にして、四人掛けのローテーブルあったから、そこでアイスを開けた。

 ぺりっと内蓋を剥がすと、縁のほうがもう溶け始めている。

「ありゃー、溶けてる。外暑すぎなんだよな」

「どこまで買いに行ったの」

 そういやハルさんの髪、乾いてる。

「すぐそこだよ。さっき通ってきた道あるだろ、あれをもうちょい進んだらちっちゃい商店あるんだ」

「へえ。そういや夜飯とかどうすんの」

 アイス、溶けててもちゃんと冷たい。

 小さな木製のスプーンで溶けたアイスを掬うハルさんは、どことなくエロい。

 バニラが甘い。

 きっと今ハルさんの舌の上も同じ味がするはず。

 あの舌の先、吸いたい。

「あー、どうする? 全然考えてなかった」

「はあ?」

「さっきの店、肉とか野菜とかなら売ってたけど、俺はなんにも作れないよ」

「俺だって作れねえよ」

「あーあ……どうすっかな」

「どうすんの……このへん民家がちらほらしかなさそうじゃん」

「取り敢えず、これ食べたらその辺散歩してみっか」

 こういうとこ適当なんだよなあ、この人。

 飯がないって普通に死活問題だぞ。


 夕方になって外をふたりで歩いてみたら、なんのことはない、すぐ近くに比較的新しく出来たらしいコンビニが存在していた。

 なんか……21時には閉店するらしい。

「昼間なら海の客とかいるんだろうな」

「ここ泳げる?」

「んー、もうちょい別のとこだったと思うけど、まあ車で来てたら寄るんじゃん?」

 よく冷えたコンビニで弁当買って、ついでに酒買って、朝飯用の菓子パンとジュースと水買って、菓子買って。

 夕涼み気分で荷物ぶら下げながら帰路につく。

 あんま涼しくはないけど。

 ハルさんは案の定軽いものしか持たない。

 まあ、慣れたな。

 ハルさんのさらさらの明るい髪から見え隠れするうなじに触りたい。


 家に着いて、テレビ観ながら弁当食って、そんな何気ない感じに、ああ、こういうの良いなあと思う。

 見慣れない部屋に、古い畳の感触に、生温い空気に、テレビ観てるハルさんを見てる。

 なんか、自然なお付き合いで旅行してるみたいじゃん。

 先に俺が風呂に入って、ハルさんが風呂入ってる間にTシャツ着て縁側から外を覗いてみた。

 見上げたら、今まで見たこともないくらいに、空が近かった。

「うわ」

 星がでかい。

 輪郭がくっきりしていて、手を伸ばせば触れそうな気さえする。

「すげえな」

 見上げたまま縁側に座り込んで、しばらくそのまま近すぎる星を眺めていた。

 空気が澄んでいるっていうのは、多分こういうのを言うんだな。

 あー酒が片手にあれば良かった。

 でも動くのも勿体ない。

 部屋から小さな音で流れてくるバラエティーの笑い声も、なんだか良い感じのBGMに聴こえてくる。

 俺がそうやって必死こいて星空を眺めていると、風呂から出たらしいハルさんが後ろから「なんか見えんの」と声を掛けてきた。

「いや、星が凄くて……こんなん見たの初めてだから」

 言いながら振り返ると、ハルさんは何故か紺色の浴衣を着ていた。

 俺の隣に立ったまま、さっきの俺と同じように上を見上げている。

「あー、まあ田舎だからな」

「どうしたんそれ」

「あ、これ? 昼に引き出し開けたら入ってたから」

 言って、軽く笑って、足を伸ばして座っている俺をゆっくりと跨ぐようにして馬乗りになってきた。

 すり、と尻がいいところを擦ってくる。

「好きかな、と思ってさ。こういうの」

 にこっとしてから、すり寄ってきて、柔らかいくちびるがキスをしてくる。

 なにしてんだこの人。

 こんなん、好きに決まってんだろ。

 はだけた裾から太もも出てんだよ。

 撫でたら風呂上がりらしくすべすべしてる。

 脚の付け根、撫でるだけで妄想が膨らんできて興奮する。

 軽く吸い付いてくるだけでは満足しなくて、できるだけ舌を伸ばして口の中を舐め回してやった。

 んんん、とくぐもったような声を出しながら後ろにずれようとするから、逃がさないように首と腰をしっかりと引き寄せた。

 たっぷり堪能してからやっと解放すると、ハルさんは完全にスイッチ入った顔をしている。

 俺も人のこと言えない。

 服越しに擦り合わせてるお互いのものが、さっきより全然硬くなってる。

 星空眺めてた俺の感動は完璧にどっか飛んでった。




はいカットねー。

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