第2話 触られている

 玄関を出て、庭の間を通り過ぎようとしたとき、足のちょうど脛の辺りに何かが引っかかった。いや、何かがじゃなく、この感触は間違いなく、蜘蛛の巣。


「うわっ、最悪」


 足に絡んだ蜘蛛の巣を取ろうと摘まんでみるも、それらしきものはない。


「あれ?切れちゃったかな」


 何も気にしなかった。ありがちなことで、その出来事を意識すらしなかった。



 歩いていると、ふと、左足のちょうど脛の辺りに何かが触れた。いや、何かがじゃなく、この感触はスカートの裾がほつれて出てしまった糸の感触。


 足に触れた糸を確認するためにスカートの裾をめくるも、ほつれなどない。もちろん、そこから出て糸など、どこにもない。


「あれ?ああ、スカートの裾が触れただけだったのか」


何も気にしなかった。ありがちなことだし、その出来事を意識すらしなかった。



またある時、左足のちょうど脛の辺りに何かが触れた感触がした。ざわっとぞわっと、いや、これこそほつれた糸が足に触れてるんだな……と思い、裾の辺りを見る。


 怖いなと思った。あきらかに糸など出ていないそこを、もうめくることもしなかった。だってわかっちゃったんだもん、何も絡んでなんかいないってことに。


「えっ、なんで?なんで?なんで?絶対何か触ったし、間違いないし、この感触は絶対に気のせいじゃない!」


何かが触れた辺りを何度も何度も手で擦ってみても、触った何かはそこにない。


ある時、トイレに入って座った時、左足のちょうど脛の辺りに何かが触れた気がした。いつものあれだ。いつものあれだと、さすがにもう気付いている。手で擦ってみても、そこには何も絡んでいない。


「どういうこと?どういうこと?どうなってるの?」


 これはもう、何かが触ってる?


何が悪かったんだろう?私、何かした?


知らぬ間に踏みつぶした虫だとか?

ゴキブリにゴキジェットしたこともあった。

蚊なんて、いくつも潰してる。

子供の頃には、よく蝉を捕まえてカゴに入れっぱなしにしたこととか?

ナメクジに塩をかけたこともあったし……


そういう何かが足に触ってるのかな……


でも、このあきらかに何かが触ってる感覚は、いや、だからそんな小さなものじゃない。虫じゃない。もう少し大きいもの……だから、誰かだ。


 誰かとは、誰もいいないのだから、ここにいていない誰かだ。


 あぁぁぁぁ……じゃあ、これはあの時の……



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