第4話 恩師の教えと親父の胸のうち

 サクラ商店本館は温泉旅館である。

隣には二十階建てのホテルもあるが、周り景色を楽しめる日本庭園並みの旅館だ。かなり高額でセレブたちでも予約がないと泊まれない格式の高い旅館にしている。


 俺達は裏側に周り専用通路を通って行った。

 厳重なセキリティをパスして、第3会議室へ向かった。

 第3会議室の隠し通路から、サクラ商店の取締役社長室に繋がっている。

 中に入ると和服風の着物で、ガッチリした体型の男が立っていた。

 名をロイ・ミルマラト言う。本館の支配人。


「こちら、よんどころない情報で預かるリト君。教育に2号店で研修を受けさせてくれ」

「かしこまりました。では後ほど」

「悪いが、リト君ロイに着いてって貰えるか。後から行くけど、同じような年齢でこの先優秀な人材がいるので、挨拶してくるといい」


 俺とアメリアはリデルと話さなければならない。


「リデア様が隣でお待ちかねです」ロイが言う。


 俺とアメリアは社長室の隣部屋にある、第1会議室に通された。三人だけの話し合いなのに、かなりのいや、膨大の書類が用意されている。


「リオンはアーブミル王国との契約変更の書類と今後の計画方針に目を通していて」

「いや、俺も…」


 俺は強制的に座らせられた。これだけの書類をやれと。今日で終わる量ではないぞ。


「アメリアさんはコ・チ・ラに」


 リデアが俺を睨んで怖いだけど。二人で話しがしたいんだろう。

 ここは大人しくしてこう。


 会議室から他の部屋に二人は消えた。

 めっちゃ。気になる。二人はどんな話しをするのだろう。女同士でのケリつけ方って、なんだろう、誰か教えてくれ‥‥‥。

 そしてこの膨大な書類を、誰か手を貸してくれ。俺の心からの願いは誰にも届かなかった。


 そして小一時間すると二人は戻ってきた。

 俺は放心状態。書類の山に埋もれてました。

 計画変更せざる得ない状況をつくりだした俺。

 二人の仲の心境はわからず。


「「リトワール様の所へ行きましょう」」


 アメリアとリデアが両脇の腕を組んでいる。

 え、俺の取り合いは勘弁な。これから気が休まらないような感じだな。


 これは俺の責任なのか? 誰か教えてくれ。


 隣のホテルの十二階に二号店(研修店)がある。

 ここはサクラ商店の先輩達だけが通える飲食店。先輩達から指導を受けて、ここから合格したのち、実践の店で働ける仕組みになっている。


「自己紹介と一通りの説明は終わりました。後は部屋決めですが、班長と同室ではいけませんか?」


 ロイは事前にリトの事をリデアから聞いているので、俺の許可が必要だと。


「班長はクレハか?」

「はい。来年で15歳になります。合格基準は超えていますので」


 クレハは身寄りの無かった孤児の一人。

 親が無くなり、彷徨っていたので、サクラ商店で引き取った。

 外見は至って普通の子供ながら、中々優秀で、班長に抜擢されている。


「う〜ん、女の子と同室ってのはな。外見的まずいが、同年代の男同士の方が良いだろう」

「分かりました。手配します」


 リデアとアメリアがテーブルに付き、注文をしている。子供達の教育現場の模擬試験をしているような、プレッシャーの圧を感じが。


 リト君を呼んで、これからの指導方針を言わなければならない。


「さて、リト君筆記用具とメモ帳は渡されてるんだよね?」

「ハイ。いつも持ち合わせるように」

「ここでは誰にでも渡される。何でも自由に書いていいメモ帳だ。ただ最低一日一ページ、一行でも書くように。自分が学んだ事や、その日の出来事を振り返えったり、忘れない為に渡している。無くなったら言うといい、また渡されるから」

「ありがとうございます」


 本当の理由はもう一つ意味がある。まだ言わないけど。

 これから成長してゆく者達へ、最初の指導は、自分自身の知った事や感じた事を書く。

 書いて貯まったメモ帳は自分自身の成長の軌跡になる。まぁ、日記帳みたいの物になるか、何を学んで書いた自分次第だけどな。

 数年経てば、自ずとわかるだろう。そのメモ帳の意味が自分をもう一度を教えてくれる物だと。


「今日から書いても良いですか?」

「いいよ、何でも書いていい。君が知った事や、出来事でも、他の人や物も書いていくといい。

 人も世界も成長する。成長しない人もいるのが世界は成長している。生きている限り時間ともに進んでいる。

 その限られた時間の中で、少しでもいいから書くといいよ」


 これはサクラ商店の研修生、卒業生や様々な職種に着いてる者達も、続ける習慣になってる。


 これは、心の恩師と呼べる料理人の教えだった。その名は大葉総一朗。

 

 親父の知り合いで小さい頃から知り合いだった。親父はシングルだったので、家事は俺がやっていた。でも出来ない時はよく食べに行っている店の料理長だった。

 でもいつも会う学校の下校時は、何故か商店街や他の飲食店にいる。変わった人だった。


 そんな俺が高校生の頃には、成績も運動も取りえが無い。進路も真っ黒な学生。家事が出来るくらいしかなかった。


 親父が、この先の事を聞いて来た。


「将来は決めたのか?」

「まだ、何にも」

「家の事は気にするな。再婚もしなかった俺の性でもあるが、将来は自由にしていいが、一本だけの芯は通せ」


 親父の口癖だった。自分に一本だけの芯を持てと。

 簡単に言ってくれるが、俺には出来なかった。自分だけの芯の強さが無かった。


 そんな俺を見て親父が、修行に出してやると言われたのが、大葉総一朗さんの店だった。

 

「知り合いでも、これだけは譲れんな。本気で料理人になりてぇのか?」

「まだ、決めてない。何をすればいいのか」

「ちっ、本気も無いの奴を育てる程俺はお人好しじゃない。が小さい頃から見てるし、悪い奴じゃないのは、知ってる。

 わかった、料理の事は云々は後だ。とりあえず筆記用具とメモ帳渡すから、歩いてこい」

「へ?なにを」

「外に行って、人と会って話を聞いて来い。何でも書いて来い。……………そうだな、この店の料理で一番美味いの料理でも聞いて来いや」


 そうやって街中、人と会ってアンケートな感じで聴いて周った。

 高校生の俺には、なんの為に成るのかなんて、考えもなかった。

 ただ言われるがままに、やっていた。

 聞いても知っている人は答えてくれたが、中々メモ帳いっぱいには書いて来れなかった。


 2時間くらい経ったか、夕暮れに店に戻ると店は繁盛して、客が満員だった。

 

「裏でちょっと待っとけ」


 暫く裏で待つと、メモ帳を見て「また明日来い」と言って店に戻った。

 店に入って皿洗いでもやらせるのかと、思ったら今日は帰っていいらしい。


 翌日も店に行くと、同じように「今日はどこの店が上手いか、聴いて来い」だった。

 またアンケートな感じでメモ帳に書いていくだけの時間になった。

 そして夕暮れ。店の裏でメモ帳を見せると何も言わず、「明日も来い」だけで店には入れて貰えなかった。


 次の日も次の日も、連日アンケートな日々が続いた。

 親父にも話したが、総一朗の考えがあるのだろうと、この時はまだ話してくれなかった。


 何処の店が安いか、品揃えがあるか、この地域の人や店を周りながら、メモ帳に書いてゆく、そんな日々で、適当に書いた日もあった。


 総一朗さんはメモ帳の事は何も言わない。何も聞かない。ただメモ帳を見て、「また明日な」としか言わない。


 それが2ヶ月続いた。これが、親父の言っていた修行なのか。

 もう辞めたくなった。何にも成果も無い。ただの日々と一緒だった。


 ある日、親父に言って辞めたくなったと告げると、普段は酔うほど飲まない親父が更に酒を飲んだ。

 酔ったフリでこう言った。


「まぁ、2ヶ月続いたか。メモ帳は埋まったか?まだ半分か、埋まるまでやってみせろ。これから人生生きてゆくんだ、どんな職業でも世界に何が在ろうときつい日々の連日なんだ。世界は甘くはないぞ」


「きつい日々なのか、将来も世界も」


 俺は落胆した将来に。俺に何にも取りえがないのがきついのか、きつい日々にか、わからないが。


「お前は人に会って話しを聞いた。2ヶ月やってほんの少し芯の種が出来たくらいだが、まだわかってないからだ」


「まだわかってないってなんだよ?」


 親父は酒を一気飲みした。シラフでは言えないのだろうか。


「本当はまだ言うつもりがない。がこの先の決意だ」

「決意?」

「そうだ。どんな職業で正社員しろ、アルバイトしろ、これから生きてゆくなら、働かなくてはいけないの社会だ。何かをやりたいと思うなら決意が必要だ。

 自分が決めた将来を、背負う覚悟が出来て、初めて子供から卒業するのだ。

 総一朗はお前はまだ修行前の段階だからだ。店に入らせんのだろう。

 本当に辞めたいと決意があるなら、自分の口で言え」


「お父さんもきついのか」


「ああ、そうだきつい日々だ。辛い人生といっていい。母さんを亡くして、お前にも一人にさせているし、親父らしい事も少ないだろう。

 だが、人生っのはおもしろいと思ってる俺はな。生き物が産まれて来る時から楽ではない。命懸けなんだって。きついの当たり前なんだと。

 その中で俺は人に産まれた。人ってのは人に会わずに生きてゆけないし、人によって成長していくもんだと思う。母さんに会うまでは仕事の事で勉強の日々。一人暮らしで家事もやらなければならない。そん時もきつい日々だった。

 自分自身で一杯一杯だった俺が、母さんと一緒なる為に更に自分できつい日々を過ごしていた。

 母さんと付き合い結婚するまで、仕事して給金の使い道や、職場の付き合い、友人達との日々。

 きつい日々の中で母さんと一緒になる為だったが辛くななかったんだよ。そんな日々が楽しかったと言える。今でも母さんが好きなんだ、厳しい現実と辛い今でもな」


 いつになく、親父が本音を話してくれていた。

 本当に酔ったのか、二度と言うつもりがないののか、話してくれている。


「母さんの、お義父さんに挨拶行った時は、人生一番きつかった。なんせ海の男で漁師でガタイがいいし、強いし、船長だし、何を言われるか、駄目と言われるんじゃないとかわかならなかった。お義父さんは娘、母さんを信じ、了承を得た」


 今でもその時は事は覚えている。お互いに酒を飲んで話事態は薄らっとだが忘れているが、大事な事は覚えてると。


「これから家族の長になるんだ。なら柱になれ。どんな時も折れず曲がらず、何があっても真っ直ぐに立て。どんな旗も船の旗も国旗も、魅られるのは旗の柄だ。柱に誰も注目はしない。だが柱がなければ旗は魅せれないのだ。父親は柱だ。それを忘れるな」


 と、お義父さんは言っていたらしい。

 家族になって、日々の暮らしでやってみないと実感は沸かないが、一家の大黒柱として芯の強さを教えてくれたと。

 

 この日親父の胸のうちを聞いた。

 

 次の日は、俺から、俺の口から総一朗さんにアルバイトを申しこんだ。 


「多少マシになったか。だが、メモ帳に全部埋められるまで外だ。アルバイトもまだでいい」

「はい。わかりました」


 俺はまだまだだが、続けてみた。

 メモ帳の本当の真意を気づくまで、半年掛かった。 

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