第3話 オレのモットー

「とりあえず逃げる」

「逃げられないでしょうね。二人共、公爵家に殴り込みに行くのは確実。血の雨が降るわ」


 とんでもない婚約者が二人来る。 

 あと二年自由気ままな独身時代、ユートピアでの悠々自適な生活がアメリアと結婚した事で終わりを迎えたが。


 二人にも説明をしなければならないのは、分かっている。………が、怖いのだ。


 七年前に行って、過去の俺を殴りたい。

 彼女達の性格を無理矢理でも治せと。

 それも彼女達の良さだと、放置したのが今になって返って来た。


「旦那様。待ち過ぎて来たわ」


 アメリアの姿をしたコクが来た。

 

「ここを知って入って来れるのは、この三人だけだ。コク」

「下で本人待ってるわよ」

「よく、王城のあそこまで来れたな」

「普段はレレーナがやってるから」

「諜報部隊の一人が王の側近のメイドとは…恐れ入ったよ」


 俺が城に行く事になったので、レレーナ本人と打ち合わせして、何処かに隠れていたのだろう。


「二人が来る対策しないと、俺が危ない。手はないか?」

「この際、もう二人とも結婚すれば」

「待て待て、それは最後の手段だ!今結婚したら大陸平和機構の意味が無くなる。あと二年は何とかさねば」

 

 そう、後二年は戦争行為はしない約定だ。

 彼女達の立場上、一ヶ所の国、一人の男に集うとパワーバランスが崩れる。国家間の政治的にも軍事的にも二人のカリスマ性の支持率は高いからこそ、順と言うのがある。


「とりあえず二人の足止めはコクに頼む」

「私でも一日が限界」


 一日でも“あの二人”を足止め出来るのはコクは凄いのだ。


「とりあえず殴り込みを阻止して、出来るまで此処に足止めてくれ!」

「手段は?」

「問わん。傷付かないなら」

「かな〜りハードな仕事。報酬高」

「ああ、わかった。宜しく」


 コクに足止めを頼み、アメリアの元へ行くとリトワール王子が平民服で待っていた。


「この国の未来の為によろしくお願いします」


 礼儀正しい挨拶のリトワール王子。

 なんでこうなった? 何故平民服なのか?

 俺が教えるの? それってアメリアの仕事だと思ったのに。


「ごめんなさい。リトワール様直々のお願いいで、リオンの元で学びたいって」


 オー、ノー。俺は人に教えるのが下手と自覚しているから、アメリアに頼んだのに。


「私は教えるのが下手なのでご無礼はご容赦を」

「いえ、お構い無くよろしくお願いします」


 とりあえずリトワール様に最初に教えるのは、コレだろう。

 

「リトワール殿下。お金の使い方はわかりますが、お金の有り方はご存知ですか?」

「どういう意味でしょうか?」

「皆はお金で生活しています。その有り方です。王族も例外は在りません」

「そこでリトワール殿下もちょっと学んでもらいます」

 

 サクラ照会ので働いてどれくらい給金が貰えてどう使われるかを。


 給金を貰っても丸々使える訳でも無い。

 店から給金が以下に支払われるのか? 給金の中から以下にどう使われるか? 給金が以下に使えるかを教えなければいけない。


 サクラ商会はランク式で雇用している。文字の読み書き、算術が出来てCランク。一般の給金にしている。

 また読み書き、算術が出来なくても学べるし、働く事も出来るが一番安いし、下受けの仕事になっている。


「リトワール様は読み書き、算術が出来ますので、接客と対応をやって頂きたいのですが、流石に王族の方を使っていると、皆恐縮しますので隠しますが大丈夫ですか?」

「ちょっと流石にマズいしょう。まだ八歳なのよ。しかも平民と一緒になんて」


 流石に反対意見のアメリア。

 だが俺はある一言に、カチンと来たが冷静に二人に言った。


「二人とも高貴な産まれだが一つ言っておく。俺の前で平民なんて言うなよ。これは俺の概念だがこの国の民、人はどんな差があろうとも国民だと思ってる。この国で一瞬でも一日でも生きている以上は、同じ明日を生きる者達だ。そこに差別的な偏見を持っているなら、俺はそれまでの付き合いだ」


 そう、今の俺は貴族達は寄生虫だと思っている。

 見栄やプライドだけの人種が8割。

 意識向上を持った人種が1割。

 総合的に全うな人種が1割。


 俺の思想概念は共存共栄、良質な道徳な思考を持っているから、今がある。

 だからこそ、偏見を持っている馬鹿には付き合わないのがモットーだった。


「悪いが、出来無いならこれまでだ。アメリアがいやなら離婚でもなんでも受け入れるし、これ以上誰も何も教える事も無い。

 それに八歳でも働いている子もいるし、勉強もしている子もいる。ちょっと体験をするとのしないのでは差が出るからな。これからはアメリアが知っている世界とは違うんだ。

 もし、これからも一緒にいるなら知ってくれ」


 アメリアにちょっとは強く言い過ぎたが、俺のモットーを変えるつもりは無い。 

 

「わかったわ。あなたの思う所があるのね」


 俺の理念を知ってか、わかって貰えたみたいだ。



「どうですか? リトワール様」


 そう、本当は働いてではなく、お金がどう生まれて、どう使い、どう回って、何を得るかを知ってもらいたい。


 大定の貴族は税金を取って自分の家だけ豊かになればいいと思っている。なのでそこに住み、共に豊かになろうとは思ってないのが現実だ。共存共栄、富国強兵の理論や概念がない世界だから。


「やります。僕が知らなくてはいけないのですね」

「そうですね。接客は笑顔が一番ですが、相手を見て話す事が重要です。その間、相手への洞察力や不快感も持たせないようにするのも勉強ですよ。これからたくさんの人と会い、話し、相手の動向を読むのは王族でも必要不可欠でしょうから」


 まぁ、サクラ商会の2号店なら大丈夫だろう。未来を担うちびっこ達がいるし、良き理解者になるかな? な〜んてちょっと期待している。



 そして王都の外に出る。数分歩くと丘が見える。丘の裏側にキャンピングカーが停まっていた。

 

「な、な、何よコレ!」


 二人はド肝を抜いて驚愕していた。当然ながら初めて見る人は驚くだろう。地球の大型キャンピングカーは、この世界の馬車と比較にならないほどの造りになっている。

 ドアが開き中に入ると一人のメイドが運転席で待っていた。


「お待ちしておりました。これからどちらに?」

「本館。運転頼む」


 中に入った二人はソファーに座らせて、俺は飲み物を出した。


「ちょっとどうなってるの?」


 興味津々の二人。とりあえず二人にキャンピングカーの中を案内した。まぁ当然だろう。内装にも驚いていた。

 ソファーやキッチン、トイレ、寝室にバスルーム(ジャグジー付き)も完備されている。


「何よこれ!王宮の別邸クラスの豪華じゃない」

「すごい。これが動くのですか?」


 当然の結果と言える。ここまでの大型キャンピングカーは本来無い物。俺が理想のキャンピングカーを造り上げた仕様になっている。


「世界にまだ8台しかない。俺が3台所有している一台だ」

「「え、まだあるの?」」

「この国以外の王様達も持ってるぞ。まぁ、俺が献上したからな」


 二人に経緯とこれからの先の事を軽く説明したが、衝撃的の事実に驚き、開いた口が塞がらなかったようだ。


「父様があと三年で…」


 やはりまだ八歳の子供には強過ぎる事実だろう。だが、


「治療法が無い訳ではないですよ。リトワール様。ですが今話した事とこれからの事は他言無用です」

「わかりました。父様を助けたいです」


 リトワール様も事の重要性を理解しているみたいだ。


「それにしても、その話って本当に起きるの?」

「ああ、信じられないのはわかる。だからこそ、俺はこの十年間必死に動いていたんだ」

  

 とりあえず五年後の魔物襲撃まで二人に伝えた。これからどうするかも。


「ただ1つ、アメリアに過酷な事を伝えなければならない。三人の事だ」


 まず追って来る二人の説明。公爵家に殴り込みの阻止はコクに任せた。会った瞬間に修羅場になるのは確定だろう。

 ほとぼりが冷めるまで、二人が冷静になるまでは逃げるしかない。

 幸いに一日だけコクが足止めしているうちに、先に話をつけなければならない一人がいる。

 

 影の箱庭のトップ、リデア。

 彼女を説得出来れば二人は従うはず…。

 ただ、彼女とは長年の付き合いがある。他の誰よりも、お互い知り尽くしている。からこそ、俺が唯一恐れているのが彼女だ。


「正直俺ではリデアの説得には自信がない。もし説得に失敗したら最悪の場合は…コレかもしれない」


 首に手をかけ、殺されるかもと伝えた。


「私は公爵令嬢よ。そして貴方の妻でもある」

「身分は関係ない。むしろ身分を出せば悪化するだろう。彼女はこの国の元は貴族令嬢だった」


 俺は話をした。リデアの過去を。

 王国の南東に位置するアルデン領地。アルデン伯爵令嬢リデア。

 8年前、馬鹿王太子がでっち上げた罪により廃爵にされ、両親が殺されている。

 身寄りが無いリデアは死亡扱いされ、奴隷扱いまで落ちいた所を、俺が金を出し開放した。

 

 そこからが影の始まりだった。俺は家では無能を演じ、リデアはサクラ商会を立ち上げた。



 






















 










 

















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