第2話 うん。丸投げしよう


 目が醒めると隣りで寝ているアメリアに見た。普段は凜とした美人に見えるのに、寝顔は結構可愛いと思った。綺麗な体で無駄無く鍛えている。

 事の顛末を思い出しすと、とんでもないになった。今さらだが責任重大さに気が重くなった。


 アメリアと結婚した。それだけでまず二人は激怒だろうな。修羅場が見える確実に。俺は五体満足に無事にいられるかだろう。


 早急に手を打つべきだが、間に合うか。

 下手を打つと戦争に為りかねないからな。


 朝食を取る前に、シャワーでも浴びたいと部屋を出ると二人が待っていた。

 昨日紹介されたジェバスとメイドのリナだった。


「「おはようございますリオン様」」

「おはよう。朝から悪いけど風呂って入れる?」

「はい。直ぐにでも入れます。それと王城から使いが来ました。アメリア様と登城するようにと」

「わかった。まだアメリアは寝てるから先に風呂入らせて」

「わかりました。では、ご案内します」


 ジェバスに案内され、手伝いを拒否して一人でユックリ浸かった。


 そろそろか。風呂の天井に小さな窓がある。

 コンコン。器用に嘴を使い窓を開けて入ってくる一羽の鳥。


「は~い、おはよう。聞いたわよ。本当に結構式挙げたって、皆んな大騒ぎよ」


 この鳥は使い魔だ。所定の場所から言霊で飛ばしてきた事に、予想はついていた。


「だろうよ。俺も予想外の出来事だった」

「で、本当に結婚して受け入れたの?」

「ああ、まさか影の箱庭の事を知られていたとは思わなかったけど…」

「まさか凄いね。何処で気づいたのかな?」

「教皇の動き、何ヵ月連絡取れなかったからだろうな。で他には?」

「コクから伝言片目を潰したよって」

「ヤッパリ早いな。コクにこれ以上手出し無用と護衛を、あと商会の連絡係の采配を」

「ん、わかった」


 来た窓から飛び立ってゆく使い魔。

 誰かがこの風呂場にやって来たのだ。お互いに気配を察知したから、会話を打ち切った。


「おや、誰かと思ったら小僧か。話が聞こえたが誰がいたか」

「いえ、ちょっと独り言を。早いですねお義父様」

「ふん、貴様にお義父様など呼ばれたく無いわ。何故、貴様のような者に大事な娘の婿にせなければならんのだ。陛下の王命がなければ、もっと他に男がおったのだ。いいか、我が公爵家は代々王家の血筋を受け継ぎ中枢を担っている。精々我が一族の恥にならように……」


 ぶつぶつ……と。長いな。相当歓迎されてないようだ。アメリアは父親に内緒にしてるようだ。

 安心安心、この公爵に俺の事が知れたらクーデターを起こす可能性があるからな。

 先代王弟の息子で王家の血筋を引いているし、何かと狙っているとの情報がある。

 もし、アメリアと結託していれば……コクを動かす事になるだろう。そんな事が起きないよう願おう。


「聞いているのか? 貴様とは一緒に食事すらしたくないのでな」


 先に風呂から上がって去ってゆくお義父。


(はいはい、わかったわかった。俺もあんたと食事したくないから時間をずらすさ)


 アメリアと一緒に朝食を済ませる。


「お義父には内緒なのはいいが、歓迎されてないけど」

「ええ、かなり渋っていたから王命で納得して貰ったわ。でも気にしないで、 リオンの事は絶対に内緒にするわ」

「頼むよ。本当に」(コクは手が早いから。お義父様まで知って敵対視したら、あっ!と云う間に殺るんだよ)


 それから王城に向かう。謁見の間で話があるかと思ったら、執務室へ通された。


 国王の執務室では政務の書類が山のように詰まられていた。これを処理するに相当の激務だ。


「よく来た。まずそこへ座れ。茶を用意しよう」

 国王は机のボタンを押し、ベルを鳴らした。暫くすると、メイドが紅茶と菓子を持ってきた。


(んん? コクが変装して来たか!早いな。王側近のメイドに変装してバレないとは…… 恐ろしいほどの化けたな)


 なんとメイドの姿をした中身はコクだった。

 影の箱庭の一人。変装が得意で潜入調査、情報収集、暗殺など裏の仕事のエキスパート。俺の最大の護衛。正体は……。


 慌ただしく書類を処理している王様。王様は机の引き出しを開けて、中から一枚の書類を取り出して渡してきた。


【王位継承権の後継人承諾書

 リオン・オルキレンをアーブミル王国第三王子リトワールが王位を継ぐまで後継人に処す。アーブミル第二十三代国王リルスロット・アーブミル】


「前置きは無しで単刀直入に言う。リオンにリトワールの後継人になって貰う。知っているかはわからんが儂は長くはない。リトワールが王に継ぐまで教育と、我が国の更なる発展を任せる」


 知っていたか。まだ死ぬには早いが。

 教育の承諾って、まだ公爵の身分ではない者にリトワール王太子を任せるってになるんだぞ。それに発展って、確かに周辺諸国の人脈作り上りで援助して発展させたけど。


「直言をお許し下さい。失礼ながら陛下の顔を拝見させても、そう見えないのですが…… 何故このように?」

「リオンの事を知ってから、悩む悩んだ結果だ。この国の将来の為、儂は国王として決断したのだ。アメリア嬢の事も影で動いている影の箱庭、急成長したサクラ商会、他国へ援助、教会の繋がり、私が出来ぬ事をやってのけたその力、いや影響力は私より越えているだろうからな」


 だからと言って若輩者に任せるって、他の貴族達が黙っていないだろう。


「それに先日、貴様の手の者が動いて儂の目が一人死んだ。ずいぶんと手が早いな」


(ああ、今朝片目を潰したと言ってたな)


「本来ならば他国への援助、発展させた貴様を罰しようか、この国の為に貴様を処分しようとも考えた。だがアメリア嬢が貴様の事を認め、国の事を思い、私と一計案じたのだ。

 それに貴様の命を狙うと儂の方が先に殺されるかもしれんし。ともすれば二人の息子では同じく国が破滅するであろう。ならばリトワールの後ろ楯になって貰う。貴様の力ならば他国からの調整も可能であろうし、アメリアの婿として次期公爵としても国内の政務に動ける事が出来るはずだ。

 何せ、我が国だけここ数年何の発展せずにいる。周辺諸国は多彩なる文化の発展、進化を遂げいるのに。貴様の差し金だろう? 正直に訪う。我が民臣でありながら何故他国へ援助した?」


 かなりの殺気交えた睨みの陛下。

 そりゃ、他国へ逃亡するから、滅亡する国を発展させようなんて思ってなかったからです、なんて言えない。

 

「恐れながら正直に、二人の王子様では長くはないと思い、今までの私の身分ではお力になれないと……」

「だからと言って他国へか」

「はい。実家には兄達がいます。疎まれていたので、私は私の為に余生を過ごせる場所が欲しかったのです」

「その若さで余生か? クックック、わっはっは、達観し過ぎてるおる。それで出来た場所がユートピアか」


(ああ、ユートピアまで知ったのね)


 アーブミル王国の東北にあるアルラングリ聖国より遥か北に位置する場所に、俺が作り上げた楽園。自治区ユートピアだ。

 ああ、俺の理想郷。10年の歳月と、苦労の末にようやく作り上げた場所。


「………そこまで知れてましたか。そうです。自治区ユートピアは俺の理想郷です。他国にも引けを劣らないように、唯一無二の領地へ作り上げた場所です。来月から楽しみにしていました。今こうなっては国の為に、私は動きま……


    ……


    ……


    ……


    ……


    ………………せんよ。アメリアと約束してます。私は表だった事は出来ません。なのでリトワール様の事はアメリアにお願い致します」

「ほう、嫌と申すか。これは王命だ!」

「王命ですか、では他国へ亡命しますよ。アメリアには言いましたが、裏で動いて国を助けると約束しましたが、私が表だった事に為ればアルラングリ聖国とユースクリア共和国、ジルグレ連邦国、メグミン教会が黙ってません」

「脅しか?」


 怒りでプッツンしたのか、本気で俺を殺そうと剣を取り出して来た。


「お待ち下さい王様。リオンの話を最後まで聞いてください。このままでは最悪の情況に陥るのです。今、リオンを殺せばアーブミルは滅亡します」


 怒り心頭の王様にアメリアが止めてくれた。あのまま王様が剣を抜いたら、多分コクが王を殺していただろう。危ない危ない、正直に言うか。


「脅しではありません。私はアーブミル王国以外の国と密約を交わしています。俺はアーブミル王国の表だった事になれば他国の勢力分布が大きく代わり、大陸の平和が崩れる可能性が大きいのです。だから裏で影として国を救う事は可能だとアメリアに言ってます」


 今俺がアーブミルにいるからこそ、他国は手出しはしない約定。俺がアーブミル王国の表側に立たず、影として大陸の平和への繋がりを作ったから。


「他国と密約しているか。リオンが表側で動いてはアーブミルは窮地に絶たされるか」

「はい。正直に本当はアメリアと結婚してアーブミル王国の時期公爵とは言え表側に出ただけでも、他国には動揺している人もいるでしょう。

 特にアルラングリ聖国の聖女とジルグレ連邦国の騎士姫にどう説明するか悩んでいます。俺は18歳まで結婚はしないと言って待って戴いていますし、他国との約定も変えていかなければいけません。

 ですのでアーブミル王国の事はアメリアにお願い致しますと申し上げます」


「ふう、わかった。リオンが何の密約を交わしているかは聞かんが、アーブミル王国の助けになるなら良かろう。なら儂と密約だ。リオンは裏で影として国を救うと」

「はい。その為に私を表側に出さないようにお願いします」


 リトワール王太子の後継人承諾書は破り、新に王様と色々な密約を交わした。

 表側は何も出来ないぐ~たらな者として見られなければいけない。

 国内の事は全てアメリアに丸投げしたけど、仕方ないのだ。俺は影で忙しくなりそうだから。


 ……こうして国王との話しが終わった。



「はぁ~、しんどい。これからサクラ商会に顔を出すから、アメリアはリトワール王太子の面倒を頼むよ」

「わかったわ。でもまさか、大陸の全ての国家と密約を交わすなんて、つくづく影の王よねリオンって」


 したくてした訳ではないのだ。全てはユートピアの為。そこでのスローライフの為だったのだ。



 アメリアと別れ、サクラ商会本店に顔を出す。サクラ商会の会長、サクラ・ミラが待っていた。影の箱庭、商業部門統括責任者。

 竜人族で知能の高く、黒髪の美人。三角メガネが良くお似合いだ。

 クールな美人秘書に見えるが会長なのだ。


「お疲れ様です。今茶を用意しますか?」

「いや、先に報告を聞こう。今朝全部は聞いてないから」


 お義父が来たから、それ以降の話を来ていて無かった。

 社長室のふっかふかのソファーに座る。

 サクラは書棚のスイッチを押すと隠し扉が開いた。

 

「では、此方で」


 社長室の隠し部屋には昨日と今日の報告書が普段の二倍積まれていた。


(半分は俺への抗議だろうな)

「察しの通り、リオン様宛の手紙が大半です」


 とりあえず報告書に目をつけた。

 大陸平和機構(裏)、密約協定の変更と俺への結婚抗議の文書は……あと回し。


「平和機構は一部変更だ。俺がアーブミル王国の表側に出ない事と数点、国王と密約わ交わしたから。密約協定だがアーブミルにも鉄道を引く。国家間での正当貿易と密貿易の両方の了解を得た」


 アーブミル王国以外の国にサクラ商会は大陸全土に鉄道を引いている。そう、アーブミルだけが大陸の中で除け者のようにさせていた。

 鉄道=魔導列車。魔石の力で動く乗り物。


「リオン本気、アーブミルにも鉄道を引くって?」

「ああ、アーブミルにユートピアに繋ぐ鉄道が必要になったからな」


「場所は?」

「エルグランドの一部は王の直轄地へ変更される。クックック、あの元馬鹿家族に仕返しが出来た。明日にでも王命が降りる。手配を頼む」

「OK、金も人も此方で用意するわ」

「あとそれからドタバ教皇は当分の間ユートピア出入り禁止な。バレなければ結婚もせずにいたのに」


 くそ、やりたくない仕事がと密約が増えた。

 個人的に仕返ししなければ。


「で、二人の事はどうするの。二、三日後に来るわね」

「そうだった~。………どうしよう?」 

「私は無理。勝てない戦いはしないので」


 アルラングリ聖国聖女、マリア・ファンクル20。聖国の三聖女の一人。別名、撲殺聖女のマリア。

 しかも愛用の武器がトンファー。メイスはサブウェポン。神聖魔法、回復魔法も使える。大陸屈指の使い手。アルラングリ聖国に独自の領地を持つ。

 ユートピアがあるのはマリアの領地。代表格がマリアなのだ。


 そしてもう一人。ジルグレ連邦国の騎士姫。

 リオネス・オルガ19歳。別名、双聖剣のリオネス。ジルグレ連邦国が所持している5本の聖剣があり、リオネスは2本の聖剣の使い手で聖騎士に叙勲されている。


 この二人はゲームで中盤から活躍し、ラストまで世界に名を馳せるキャラであり、政治的にも軍事的にも影響力を持つので、7年前からスカウトして取り入れた。

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