俺は影の王!~楽園が遠退いてゆく~

タコさん五世

第1話 公爵令嬢の婚約破棄から始まる


 こんなシナリオは無かったはず……。


「アメリア・オルキレン。君との婚約を破棄する」


 今日はアーブミル王国の王太子様の18歳の誕生日。各貴族達が集い、王太子様が結婚発表する場だったはずなのに、予想外の事が起きた。


「わかりました。……良かったです。これで精々しました。私はこの方と結婚しますわ」


 そう言って誰もが気づかない壁のように影に隠れた俺の元へ来た、公爵令嬢のアメリアお嬢様。

 そして、なんと俺の腕を組んでそう言った。


「私アメリア・オルキレンはリオン・エルクライドと結婚します。エリオット王太子様もどうか、お幸せに」


 そう告げると力づくで俺を引っ張って退室する。

 当然、俺は寝耳に水。面識は幼少の頃一回きり。


「何故、俺がアメリア様と結婚しなければいけないのですか?」

「貴方だけよ。この国を救えるのは、貴方が必要なの。私の婿になって貰うわ」


 この俺、リオン・エルクライド16歳。エルクライド男爵家の三男。それも妾腹の子。


「今日、こうなるように仕向けたの。貴方の両親の許可も得ているわ」


 はぁ? 両親の許可? ああ、あの糞親か。

 俺の母親は俺を産んで直ぐに亡くなり、名義上は男爵夫人になっている。今まで貴族のパーティーに参加させてくれなかったのに、急に新品の服を用意して参加しろと命じた。兄達は目の敵のように睨んでいたけど。なるほど、そうわかっていたのか。

 俺を売ったんだな。公爵令嬢の婿になれば大きなパイプになるからと。


 答えはわかっけど。どうして俺?

 俺が妾腹の子である事、知ってるのか?


「俺は妾腹の子で、来月家を出て行く予定だったのに」

「ええ、全て知ったわ。その上で貴方しかいないと決めてたの」


 決めてた? 全て知った? ま、まさかね。


 俺はあの糞家から、エルクライド家から勘当され、家を出る為に数年かけて策画していたのに。

 まさかこのような展開になるなんて、正に青天の霹靂の思いだ。


 王城を出ると馬車が待っていた。


 この世界は日本ではなく、他種族が住み、魔物が存在する危険の世界。

 まぁ、ファンタジーの世界だ。魔物がいて、剣や魔法で戦っている。国同士の戦争もある。そんな世界だ。

 この世界は皆、体に魔力を宿しており、それを体内で構築し、魔力を消費して魔法を扱うことが出来る。

 お家によっては、血統魔法なんて物もある。

 魔法を扱えるのは王族や貴族がほとんどであり、平民は魔力を所持していても、魔法の講師から学ばなければ使い方がわからないのだ。

 俺は妾腹の子で魔法の講師からは、学ばせてくれなかった。両親は俺の事を疎んでいるからだろう。

 だが俺は前世の記憶がある。家の書籍等で独学で使えようになった。当然、あの糞親、兄達には内緒にしているが。

 前世の記憶で魔法への理解力と、独自の方法論の確約でオリジナル魔法の取得に成功したのだ。



 馬車が結構なスピードで飛ばす。その間、お尻が痛い。

 値段が高そうなクッションであるにも関わらず、クッション性能が低いのか、道が悪いのか、もう少しスピードを落として欲しいと思っていた。


「さぁ、着いたわ。今日から貴方が住む家よ」


王都にある公爵家の門を見ると、ズラリと執事やメイドが並んでいる。


「おかえりなさいませ、アメリアお嬢様。リオン様、私リオンの専属執事のジェバスと申します」


 20代後半のかなりのイケメン執事。

 どうやら拒否権はなく、なすがままにドンドンと展開されていく。


「用意の方は出来てるかしら?」

「はい。既に」


 アメリアお嬢様とメイドが何か用意しているようだ。

 また腕を組まれ、有無を言わさず屋敷の中に連れて行かれる俺。


 屋敷の中に入り、アメリアお嬢様は「準備してくる」と言い、俺はジェバスに連れて行かれ、タキシードに着替えさせられた。


 そして、アメリアお嬢様がウエディングドレス姿になって来た。


「………」

「さぁ、行くわよ」

「ちょっ、マ、マジですか? まさか今から結婚するんですか?」

「そうよ。今から直ぐに結婚式を上げるわ」


 用意周到にして疾風迅雷の如く、否応無しの怒涛の結婚式を始めようとする公爵令嬢のアメリア。

 そのまま純白のドレスのアメリアお嬢様に連れて行かれた先は、屋敷の中にあった教会だった。

 百人ほどの入れる規模の教会が、屋敷の中にあるなんて流石に公爵家だ。

 そこには数多くの参列者達が待っていた。

 中央の祭壇には大陸で数多くの教会を取り締まるトップの教皇がいた。

 入場曲が流れ、なすがままに、力づくで連れて行かれる俺。ここで拒否なんて出来るような感じではなくなっていた。


 そして、お互い誓いの言葉を述べる。

 最後にアメリア嬢と口づけを交わして、正式に結婚したと。教皇に教会関係者、参列者達に正式に夫婦になったと告げられた。これで無かった事には出来ない。


 なすがままに披露宴を進められていると、何故かこの式場に王様と王妃も参入してきた。馬鹿の第一王太子とアホーの第二王子はいないげど。

 披露宴の最中に、王家の縁ある証明書に自分の名前を書き、参列者が見守る前で正式に次期公爵の身分にしたと王様自ら宣言した。


 未だに信じられない俺。これは夢なのか? それとも異世界の衝撃ドッキリ!前代未聞の怪事件か。こんな事ことが現実に起きるわけないと思いながも、隣りにいるアメリアにコンタクトすると何も言わせないと、圧が目に語っていた。


 誰が予想出来るか!妾腹の子が何の功績も無しに、公爵令嬢と結婚出来る訳ないのに王様も王妃も特例を出しての結婚など。


 ああ、これで俺の夢見てたスローライフが出来ないのか。俺が10年間必死に影に隠れて成した、俺の成果は無駄骨になるのか。そんな悲観な事を思いながら結婚式、披露宴も終わった。


 そして、初夜。二人きりでベッドに見つめ合う。



「まさか本当に直ぐに結婚するとは思ってもいなかった」

「この事は国王も承知しているわ。事の重大さを知らないのは、あの馬鹿だけよ。明日にでも王太子の座を剥奪されるわ」

「マジか。じゃあ誰が?」

「第三王子のリトワール様。……さて、これで夫婦になったわけだけど、貴方の事は調べさせて貰ったわ。まさか、貴方リオンが…… いえ、旦那様と言えばいいかしら?」

「いや、リオンでいい。俺もアメリアと呼ばせて貰うけど」

「わかったわ。でもリオンが黒幕だなんて思いもしなかったわ」

「………な、なんの事かな?」


 調べた? 俺の事を。まぁ、結婚する相手の事を調べるのは当たり前だけど、もしあの事まで知られているのか。もしバレているなら黒幕だんて人聞きの悪いな。ただ知られたくないだけだ。俺のスローライフの為に限りなく、影に隠したはずなのに。


「公爵家の情報力だけでは掴み切れなかったけど、王様の王国最高情報機関の力でようやく知ったわ。貴方がとんでもない事の発端だって事を」

「あははは。まさか王国の情報力を総動員して使うなんて、君の方が黒幕みたいだな。だが、いったい何の事を言っているのか、もし仮に隠し事をしている俺と結婚するのか……いやもうしたが本当に俺を婿にする気か」

「ええ、貴方しかいない。リオンの力が必要だから」

「だからって結婚までするか?」

「逃がさないようにするにはこれしかない。それとも結婚を誓い合った花嫁を捨てて国外に行くの?」


 逃がさないようにって。俺が国外に行くまで知っているのか。 


「しかし、王太子との結婚破棄して俺と結婚するなんて、俺にはアメリアが思うほど力は無いよ」


 体は一応鍛えているけど平均的な体系だし、顔もイケメンて訳でも無い。普通の貴族令嬢なら誰も妾腹の子と結婚しようと思わないだろう。


「とんでもない。リオンが黒幕…… いいえ、影の王を呼ぶべきかしら。何も知らなければ王太子と結婚したでしょうね。公爵令嬢の中で私が選ばれたから」


 まぁ、貴族に産まれたからには、政略結婚させられるのは承知しているだろう。前婚約者の馬鹿は国外は愚か、国内の事情も表だけしか知らないお坊っちゃん。第二王子は人間主義者で他種族から疎まれているから、二人とも先が見えない将来だ。

 唯一まだ8才のリトワール王子様なら、望みがある位だ。だが間に合わないけど。


「王太子の花嫁修業中に、王国の調査書類を偶然目にしたわ。その時に違和感を感じたの。そう、年々王国の人工割合が極限に減っているのに、国益が倍に倍に上がっている事に。それから疑問になって過去数年間からの事を調べたの。私の直感がそう感じたから」


 マジか。その直感すげーな。王国の貴族の七割は、金さえ入れば平民の事は見もしない馬鹿の集まりだから、気づかないがアメリアはそれに気づいたと。


「大小様々裏で動かしてるけど、今最も大きな問題は商人が農地を借り入れ、倉庫を建てて領主へ金を払っている。だから農家人が減っても、その金で国家に税金を払えるから貴族達は気にも留めないでしょうね。寧ろ、金が増えるのだから。馬鹿の貴族は気づかない。その商人達の元締めは、ここ数年で急成長したサクラ商会。そのサクラ商会は国外にも勢力を伸ばしているわね。

 そして裏の組織【影の箱庭】に繋がって事は突き止めたわ」


 あらら、名前までバレてーら。でも俺は直接的に接点は見つからないようにしていたはずだっただけど。


「影の箱庭ね。そこまで調べたわけね。何人位まで知っているの?」


 近隣諸国合わせて数千の会員がいるのは、俺でも知っている。でも俺の事を直接知っているのは幹部の者と数名だけ。


「人数まではわからないわ。でも何人かは貴方と接点があり、教会の教皇もその一人だって事」


 まさか、教皇が今日来たのはそう言う事か。

 披露宴中の教皇からの、あのサインは俺への謝罪って事だったか。数ヵ月間連絡が取れなかったのは、目をつけられていたからか。


「全部は分かり切れてないけど、リオンが影で動かしてる事だけは私にはわかった。まさか教会までも繋がっているとは思ってなかっただもの」


 とんでもないねぇな! 王国の最高情報機関通称、王の目。王直轄の情報調査員。

 嗚呼、そういえば二人ほど厄介な人がいたわ。俺がスカウトしたかった人物だ。深く追求すると、こっちが知られるから断念したんだっけ。欲しかったわ~。


「で、この事を知っているのは?」

「私と王様と王の目二人だけ」


 あと三人もいるのか。参ったね。どうするか?

 コクにバレたらこの三人は殺されるな。明日の朝まで決めよう。


「このままでは数年でこの国は終わるわね。国内の人口も減って生産力が落ちてるし、国外からの輸入品が減りながらも価格も徐々に上がってる。このまま人口が減り続ければ他国からの防衛すら危ない状況よ。国家は破滅するわ」


 まぁそうなるだろうな。でも、どの道長くは無いだよこの国は。


 現国王は後三年で崩御する。そして、馬鹿の王太子が王になり、第二のアホ王子が宰相になる。そこから滅亡のカウントダウンの始まりのシナリオのはず……。でもリトワール王子が王太子になっても変わらないだろう。


 この国は滅亡する。何故ならば後五年ほどで魔物達と交戦後、隣国達からの連合軍によって滅亡するからだ。


 何故シナリオを知っているって、この世界はゲームの世界だからだ。

 それも前世の俺ら12人で、新規の会社を立ち上げして作ったゲームの世界。完成すれば会社初のゲームで大きく発売する予定だっただけど、俺が覚えているのは完成9割の時が最期だった。


 そして、目が覚めたらリオンだった。

 最初は異世界転生して、スローライフを楽しもうとウキウキウォッチで喜んでいた。

 世界とこの国の情報を知った瞬間、この国アーブミルのシナリオ担当の俺は滅亡するように仕向けた事を思い出したのだ。


 うん。他国で生きよう。その為にコネ作りに人脈作り、金策、情報がいる。所要人物の数人の名前は覚えている。この人物だけは絶対に押さえなくてはいけないと動いた。

 そして10年間、親兄弟に内緒で俺のスローライフが送れるような環境を作り上げた。

 来月からそれが出来ると信じて。


「財力と裏で動いている組織、教会と他国の繋がりも、全てリオンの意のままよね。その力でこの国を助けて欲しいの。結婚で卑怯な手だってわかってる。私個人としても公爵家と産まれた以上、国の為にこの地に生きる者として助けたい。未来を変えたいの。だからこの身と全てを生涯リオンに捧げるわ」

「意のままって訳ではないけど、その為に君が国の為に、他人の為に犠牲になるって事か」

「犠牲ではないわ。私が決めたの。私の生き方を」


 その目からは覚悟を感じた。現状を知り、未来を変えたいと。俺となら変えられると信じて。


「………………参った。ここまで調べられて、結婚までする君に完敗だ。でも簡単にはいかないよ、この国の滅亡を回避するには」

「ええ、わかってるわ。この国の未来を二人で変えましょう」

「ふ、二人で…待って。条件が3つある」

「全部飲むわ。でも私からは一つ。私が第一夫人って事」


 お互いの条件を成立させ、初夜を迎えた。


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