第8話

事件は、起きた。

やはり、と言うべきが、とても、忌々しい。

明日、王女が来訪する、その朝に!


さて、どうしようか。

状況判断のため、ゆっくり、見回す。

冷静な判断をするため、深呼吸する。

そうでないと、余りの怒りに理性を手放しそうだった。

「さあ、出してもらおうか」

少女を強く床に押し付け、ニヤニヤと、嫌悪感しか感じない笑みを浮かべ、見回した。

少女は、息苦しそうに、何度も浅い呼吸が感じられ、痛々しかった。

教会にまるで、強盗かのように、入ってきたかと思ったら、何処からか、少女を連れてきた。

偶然教会には、リーシャとアルベルトだけが居合わせた。

嫌、それを狙っての行動だろう

用があるのは、アルベルト。

卑怯過ぎる強攻手段。

全部で5人。

一人は少女を、一人はアルベルトを掴み、一人はリーシャを、後ろ手腕を強く捕まれていた。

残り二人は恐らく、見張りとして外にいるのだろう。

圧倒的に、不利だ。

「・・・っ!」

少女の呻く声が、胸を突いた。

「私が変わるわ!」


だから、離してあげて!


これ程、激昂するかと、思えるほどに、胸が苦しくなり、息がとまる!

ぎっと、睨み、一歩出る。

ぐい、益々強く握られ、ナイフを目の前でちらつかされる。

「動くんじゃねえ」

「近づくなよ!自分からくるやつなんて、要らねえんだ。ガキが、面白いんだ。お前らは、ガキになると言うことをすぐ聞く。さあ、早く見せてくれねえと、このガキがどうなるか!」

だから、連れてきた。

怒りが沸き上がるのが、とめれなかった。


なんて、卑怯な!!


刹那!

「っっっあ!!!」

持っていたナイフを、振り上げ、少女の背中を刺した!!

「やめろ!!!」

アルベルトの声が教会に、響く。

アルベルトも、後ろ手腕を捕まれ動けないなか、必死で抵抗しようしていた。

「離せっ!」

痛みに顔を歪めながら、もがく。

力を出せば、事なきことに、終わのは、解っている


力を使ったの?

ううん・・・なにも・・・ただ、皆が望むことを・・・少しだけ、手を差し伸べただけ・・・・

悲しい顔で俯いた。

レーシャ?

・・・皆が・・・聖女・・・て呼ぶの・・・私は・・・ただ・・・喜んでほしかったのに・・・



脳裏に浮かぶ。

力を使いたくなかった。

今なら、レーシャの想いが、理解できた。


同じになりたかったんだ。

人間と。

一人の、人間として扱われ、

一人の人間とともに、いたかったんだ。


・・・や・・・め・・・て・・・

・・・人と人が・・・こんな・・・こんなために、レーシャ・・・は・・・降りたんじゃないのに!!


頬を伝う涙。

「さあ、何処かやはく言わねえと、見ろよ、血がとまらねえな。お前のせいだ!」

嘲け、可笑しそうに笑う声に、憤りしか、感じない。


そんなに、議員になりたいの!

たかが、短い、命のために!

人が人を、傷つけてまで、踏みつけてまて、何を望むの!!


己の想いを押しつけた時、どれだけ、

人を傷つけ、

人を排除し、

人も蔑ろにしたか!!


やめて・・・同じく・・・神の手・・・から・・・産まれた筈なのに・・・


「さあ、町長さんよ、早くださねえと、今度はそこの女の番だ」

アルベルトを掴む男が、何がそんなに可笑しいのか、笑いだした。


・・・?


何が起こったの理解出来なかった。

脇腹に、なにか感触が、とぼんやりと意識が朧気だった。

「レーシャ!!」

アルベルトの悲痛な声が響いた。

ぐっと、押される。

「あっ!!」

鋭い激痛が、体を走り抜け、声が出た。

「さあ、さあ、女二人もお前のために傷付いているんだ。そろそろ出してくれねえと、まだ、可愛そうなことになるぜ」

卑しい笑いが、耳元で、聞こる。


・・・我慢・・・できない・・・!


ガチャン!!

・・・?

後ろの男に気をとられている間に、アルベルトが、ピアノまで移動していた。

「・・・これが、望みだろう!!」

アルベルトの悲痛な声が、悲しいまでに胸に突いた。


・・・やめて・・・レーシャを・・・やめて!!!


ピアノの蓋を開ける、アルベルトが見えた。

痛々しく、辛い思いが、伝わる。

蓋に、茶色く紙を被ったのが見えた。

「早く出せば、こんなことにならいのを。バカなやつだ!」

薄ら笑いで、我が物顔で、人を蹂躙する。


許せない!!


紙を荒く剥がす。


・・・!!


「・・・本物だな」

安堵に満ちた声で男は言った。

雇い主に、頼まれた、高額報酬と、己の、仕事ぶりを、今、達成出来た、瞬間。


なんと、憤りを、覚えるんだろう!


そして・・・


それは・・・


確かに・・・レーシャ・・・だった・・・


懐古の念を催させる・・・


溢れる涙を、とめれなかった。


レーシャだ!

確かにレーシャだ!!


ライムネの枝を優しく持ち、いとおしそうに見つめる、レーシャの、肖像画が、そこにあった。

銀の髪を持ち、銀の瞳を持つ・・・私の・・・妹・・・。


それは、人を威圧するほどの、神々しさがあった。

それは、確かに、人が描いた、肖像画に過ぎない。

それは、たった、一枚の、紙に過ぎない。

それは、たかが、小さい、ものに過ぎない。


だが。


それは、何か、人の物でない、何かが、確かに、醸し出されていた。

それは、人、全てを、膝まずかせる、威圧があった。


アルベルトを掴んでいた男は、肖像画に、顔を青ざめ怯んだが、振り払うように、首を振り、持っていたナイフを


振りかざした!!


「やめて!!!」


「動くな!!」

ザッ、音とともに、少女に突き刺さったナイフを抜き、振りかざした!!

血が滴り落ち、少女の、青くなり、動きがなかった。


・・・まだ・・・まだ・・・そんな愚かなことを・・・


バリリ!!!


耳障りな嫌な音が、聞こえた。

目の前に少女が、ぐったりと倒れる中、

音の方へと・・・無意識に目がいった・・・


切り裂かれた、レーシャの・・・微笑み・・・


もう一度振りかざす!


「やめなさい!!」


空気が震えた。

レーシャの怒りが、教会を覆う。

張り裂けそうな痛烈な、潰れそうな、圧迫感が、胸を襲った。


よくも・・・よくも・・・!!


目も眩む閃光!


けれど、なんと暖かな、光。

光が消えたとき・・・そこには・・・


銀の髪と銀の瞳を持つ・・・聖女が・・・降臨していた・・・



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