第7話

大分落ち着きを取り戻し、そっと、アルベルトから離れた。

「すみません・・・取り乱してしまって・・・」

下を向き、涙を消す。

「いいえ。落ち着きしたか?」

頷く。

辛辣な、真実を知ってしまった。


知らない方が・・・良かった・・・


あの、幸せにに満ちた、微笑みだけを、真実だと思っていた方が良かった。

「アルベルト様!」

唐突に声が、振る。

それも、切羽詰まった声で、町の者が息をきらし、走ってくる。

「どうしました!?」

ただならぬ気配と様子を感じ、声の方へ振り向いた。

「・・・ほん・・・に・・・ん。アマハーナが・・・、町に!」

その名に衝撃を受ける。

「なん・・・だって!?本当に本人なんですか!?」

よろよろ、アルベルトに近づき、何度も頷き、荒くなる息に咳き込む。

「貴方はゆっくり降りてきてください!レーシゃ、貴女もゆっくり降りてきてください!!」

吐き捨てるようにいうと、急いで降りていった。


アマハーナ


議員になるはずの男、か。


醜い。

人間は、何故、地位や、財に、こだわるのか。

それは、報告書を見るだけでも、虫酸が走る。

財は大事だ。

でも・・・許容を越えれば、それは・・・

醜くなる。


ふう、と、ため息をつきながら・・・笑みが出る。

面白そう♪

いってみよう♪


呼びに来た町の者は、へろへろと、降りていっていた。

振り向かないのを確認し・・・姿を消した。

そっと、家の後ろから、様子を覗く。


いたいた。


既に派手な騒ぎは終わっているらしく、馬車の近くで、二人が、睨み合っているのが、視えた。


ちえっ、遅かったかあ。


立派な馬車だった。

巨大な車輪。豪奢な装飾。質が言いとは言いがたいかも知れないが、権力を、誇示するには、充分だろう。

幾度か大きい街で過ごしたことがあったが、確かにこれだけ巨大なのは、貴族しか、持ち得ないだろう。


少しは乗り心地良くなったんだろうか?

お尻痛いんだよね。


少しずつ、人をかき分け、前にいく。

「わざわざ来てやったのに、田舎者は、そんな態度しかできんのか」

傲慢な態度と、侮蔑を含んだ物言いは、明らかに、己が優位な立場にあることを、ひけらかしている。

よく見る、光景だ。

財力と、

敬慕は、

何故、天秤で、水平面にならないのだろう。

何故、富を持つものは、水平だと、視えるのだろう・・・。

旅を続け、辛く思うこと。


・・・同じ・・・神の御手から・・・生まれるのに・・・


大きな御腹が、喋るたびに揺れる。

これもまた、よく見る体型だ。

よく肥えて、不味そう、

といつも、思う。

「こんな田舎だったのか?いやいや、田舎だから、いいのか。そうだな。そのままがいいんじゃないのか?」

妙案とばかりに卑下を隠しもしない物言いで、アルベルトをみる。

「何しにこられたんですか?」

冷たく睨む。

「ここは、客そんな態度で迎えるのか?全く教養のない輩は困ったもんだ」

大袈裟に苦笑いし、大袈裟に困った、と動きをした。

己の態度を棚に上げ、よくまあ、言えるものだ。

「何しにこられたんですか?」

同じ質問に、更に、身長が己より高いため、上から目線になるのも、癪に触ったのだろう。流石に、アマハーマは眉間に皺を寄せる。

「こんなところで、貴族である私に話をさせる気か!」


そっち?内容は?


苦笑いが出た。

様は無下にされ、腹が立ってきたんだろう。


残念ながら、お金持ってるからて、何でも言うこと聞く訳ないんだよ。

回りにはそんな人ばっかりなんだろうけど。


勘違いも甚だしい。

「残念ながら、貴方を招き入れる場所がありません。常識ある方なら前もって連絡をしてくださるはずなのですが、貴方様、突飛なことを楽しむかたなのですね。無作法に、やってこられて、私たちの、反応を楽しむ。成る程!」

よい考えが浮かんだと、合点し、頷く。

「誰か、敷物を持ってきてくれないか?」

「何をする気だ?」

アマハーナは、怪訝気に、息を飲む。

「せっかく、二日もかけて自然豊かな、この町にこられたのですから、ここで、座って雑談でも、と思いまして。特産のライムネの飲み物とあります。きっと、普段を好まない、前もって連絡をせず、途轍もない、風変わりを求める貴方なら、気に入ると思い付きました」

魅惑的に、微笑みむ。


よく言った!


まさに拍手喝采!

とは流石に拍手は出来ないが、皆の笑いが漏れていた。

「こんなところでか!?」

激昂。

やっと馬鹿にされていると理解しているらしく、顔を真っ赤にして、軽そうではない体を一所懸命に揺らす。

「街ではここまで綺麗な空気は吸えないでしょう?もっとも、貴方をもてなしに、至適だと、思いましてね」

目を細目、敷物が渡され、颯爽と広げる。

さあ、と優雅に会釈する。

「貴様!!私を愚弄するとは、わかっているのか!わざわざこんな辺鄙なくそ田舎に来てやったのに。それがお前の返事か!優しく、事なき終えようとしてやってるのに!!」

大声で、やっと本音を出してきた。


事なき・・・?


引っ掛かる言葉を吐く。

「もとより返事は、名乗りを挙げたときから変わってません。貴方の方こそ、票さえとれば、議員なれるでしょ?」

不適な笑みを浮かべ、痛いところをつく。

ぐっと、答えに詰まった。


人気ないんだ、この人。

まあ、こんな子供じみた手しか思い付かないのだから、その程度てことか。


屈辱と、アルベルトの皮肉に、わなわなと、体を震わせ、怒気に満ちた瞳で睨む。

自尊心を傷つけられ、頬は赤を通り越して、青くなっていた。

「私に対してのその態度、後で後悔することになるぞ!云うことを聞いておけば良かった、と思っても、もう遅いわ!!」

今度は顔を真っ赤にして、大声で吐き捨てた。

憤怒に満ちた顔で、アルベルトを指差し、睨み付けた。

気持ちが悪い、捨て台詞。

隠し球がある、と言わんばかりの、妙な薄ら笑い。

「帰るぞ!」

その言葉に弾かれるように、従者たちがざわめき、帰り支度を始めた。

馬車に乗る。


腹立つなあ。


きらっと、リーシャの瞳が光る。


いつ、屋敷に帰れるかなあ♪

ここで、何かあったら、迷惑かかるもんね♪♪



町を出て、少し走ってから、馬車の車輪が壊れた・・・壊した・・・が、正しいか。

人間臭くなってきたものだ・・・


その夜、アルベルトと、同じ不安を抱いていたことを確認した。

勿論、予感は、的中する。


それと、シーザーのトマトソースは言うまでもなく、絶品だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る