第15-2話 Bブロック─瀬李チームVS間藤チーム

 悠香はるかは思考を巡らせたが、ほんの数秒しかないのも相まって、打開策は思い付かなかった。その表情は焦りを浮かべ、冷や汗が頬を伝い、床へと溢れる。

 床を蹴り、自分の間合いに入れようとけいへと走る。刀身へと魔力を流して、技式の準備を始める。

 けい悠香はるかへと銃口を向けて、魔弾を射出する。彼女は弾道を予測して腰を落として回避する。魔弾は空を斬り重力に従って次第にスピードを失い、夜宮よみの直ぐ側の壁に衝突後床へと転がる。低い体勢のままブロードソードを両手持ちに切り替えて、左側に傾けて技式を行使する。


 それは想いに応える様に強い輝きと共に。


「星剣技式【四境剣線スターニル・スクエア】!!」


「!?」


 客席───主に貴族階級の者達───が驚きの余りに歓声が消える。彼女の放ったそれは下位の星剣技式何かではなく、上位に位置する【空間断絶ラウム・スクエア】という代物。彼女の意思に魔力が、剣が応えたと言うのだろうか。

 学生でも殆どの者が扱うことのできない、上位の技式を発動させたことで、貴族階級の者達は「低俗な奴がそんな訳ない」等の思いからか、口々に否定の声を上げ始めた。


「平民が上級技式を扱える訳がない!!私ですら扱えないと言うのに!!」


「全くですな!あんな奴が学生の内に使えるわけが───」


「うるせぇ」


 金髪の男が言葉を言い切る前に、氷継ひつぎが吐き捨てるように言葉を溢す。その眼には少しの怒りが込められていた。

 氷継ひつぎ優奈ゆうだい想継エーテル剣技式をエーテルを扱う上で大切にしていること、それが意思や感情、想い。だからこその怒りの眼差しなのだろう。


 ───あれは剣が応えたんだろうな、瀬李せりさんの想いに


「父親の七光りが無かったら、ただの平民の癖に。調子に乗るなよ!?」


 言葉を遮られた貴族の男が声をあらげる。

 氷継ひつぎは挑発する様に笑みを浮かべて、啖呵を切った。


「丁度この次は俺らの試合だったな……見せてやるよ。俺が親父なんか関係なくつえぇってのをな」


 悠香はるかは技式の間合いにけいを入れ、ブロードソードを業の軌道で滑らせる。間合いに詰められてしまったけいはなす術がなく、もろにを食らう。


「ッぐがァァ!?」


 嗚咽を漏らしながら十二連撃の全てを受けて、後方へ大きく飛ぶ。その進行上に剣撃を繰り広げる、飛彩ひいろ夜宮よみの姿があり、飛彩ひいろは飛んでくるけいに気がつき、眼を見開く。


「ちょちょちょちょ待て待て待てま───ぐっっふぉえ!?」


 しっかりと衝突し、もれなく二人合わせて壁に激突する。勿論、飛彩ひいろが壁側。障壁に波紋の衝撃波が広がり、彼ら二人は床へと落ちる。ドサッという音とけいの「っう……」っという苦しそうな声が響いて動かなくなる。


「はるちゃんやるぅ!!」


 夜宮よみ悠香はるかの方を向き跳び跳ねて、黒色のツインテールを揺らしながら歓喜の声を上げる。


「まだ油断しちゃ駄目だよ、よーちゃん」


 未だ倒れたまま動きを見せない二人に剣先を向けて、警戒を続けながら答える。

 しばらくすると、けいの上に覆い被さる形で倒れていた飛彩ひいろが、ゆっくりと体を起こしてけいの上から退き立ち上がる。それに続いてけいも起き上がり、頭を押さえる。


「おいけい、こっちに飛んでくるなよな」


「……そんな無茶言わないでくれよ、ぶっ飛ぶ方向は選べないんだから」


 二人は苦笑いを浮かべながら軽口を叩き合う。そして直ぐに意識を彼女ら二人に向けて、けいは銃口を飛彩ひいろは剣先を向けて警戒心を露にする。それに答えるように周囲の魔力が彼の大剣の刀身へと集まり、飛彩ひいろの魔力と混ざり合って新たな輝きを放つ。

 飛彩ひいろはそれを感じ取り、白い歯を見せて次は自分達の番だと言わんばかりに笑みを浮かべる。

 悠香はるか達も彼からの攻撃の予兆を肌で感じ取り、ブロードソードの刀身に魔力を流す。


「冥剣技式【黎冥メリーレイ】!!」


「「星剣技式【三燐錬角トライエック・ゲラーデ】!!」」


 ほぼ同時に技式を発動させ、互いに距離を詰める。紅い輝きと黄色い輝きが交差してぶつかり合う。空気、魔力、エーテルを斬り割きながら二人へと紅き閃光が迫る。二つの黄色い閃光がトライアングルを描き、迫る紅き閃光へと走る。ぶつかり合ったは火花と金属音を会場に轟かせて、観客席を圧倒させる。

 夜宮よみは技式の終了後直ぐにバックジャンプで後ろに下がり追撃備えて、再び魔力を刀身へと流す。


「ハァァァァア!!!」


「ッグ!?」


 悠香はるかの最後の振り上げの剣撃が大剣と衝突した時、紅き輝きが消え弾き返される。その隙ができることを見越してか、けい悠香はるかの右横へと移動しており、既に銃口が向けられていた。


 ───不味い!!

 

 悠香はるかは心の中で呟くが、業を使った反動から直ぐには動けずにいた。

 魔弾が射出されるよりも早く、夜宮よみは技式を発動させ二人の間に割って入った。


「星剣技式【平境円線パラレル・アーク】!」


「ッチ」


 悠香はるか目掛けて放たれた魔弾は、間に入ってきた夜宮よみの技式によって阻まれ、明後日の方向へ弾かれる。悠香はるかは飛び退こうとしているけいへ向けて、最後の一撃を繰り出す。


「星剣技式【一進星慧アン・メテオール】!!」


 蒼い輝きを放ち、けいへと走る。

 【一進星慧アン・メテオール】は単発突進業。鋭い一撃を高速で前進する物。

 けいは避けることも防御することもできず、腹に重い一撃を食らう。声を上げることもできずに壁に激突し、壁にもたれ掛かり二丁の銃を床に落として意識を失う。


 夜宮よみは背後から迫る輝きを察知し、反射的に右側へと飛び退く。飛び退いた瞬間に、ドガァァンッと床と大剣の衝突音が彼女の耳に届く。


 ───少しでも遅れてたらやられてた……!!


 飛彩ひいろは直ぐに大剣を夜宮よみの避けた方へ切り返して、体を軸に捻り大剣のリーチを生かして、彼女の腹部を斬り割く。身体的ダメージは直ぐに精神的ダメージに置換され、頭痛が発生する。


「うぐぅ……」


 大剣によって大ダメージを受け、全てが精神的ダメージに置換されたことで、耳鳴りを伴う激しい痛みにに耐えきれず、ブロードソードを床に落とし、呻き声を上げながらその場で倒れ込んでしまった。

 飛彩ひいろは追撃に走るが、悠香はるかが間に入り、刃でガードする。火花を散らし、次第に彼女が押されていく。埒が明かないと踏み、飛彩ひいろは魔力を刀身に流して技式を発動させる。ワンテンポ遅れて、悠香はるかも技式を発動させる。


「冥剣技式【閻靂メティム・ブロウガル】!!」


 鬼のような気迫と、禍々しさを感じる黒い輝きを放ち、彼女を押す力が強まる。【閻靂メティム・ブロウガル】は、上、左横、右横の三方向から繰り出される三連撃業。


「星剣技式【三燐錬角トライエック・ゲラーデ】!!」


 悠香はるかはここぞとばかりに技式を行使し、素早くトライアングルを描き、ガンッガンッガンと激しく火花を散らして三方向全ての攻撃を防ぐ。その隙に彼女はバックジャンプで後方へ待避して、すぐさま魔力を流して技式を発動させる。飛彩ひいろも大剣へと魔力を最大限に流して、技式を発動させた。


 ───負けたくない……絶対に!


 強い想いは魔力に影響を及ぼし、定められた業の型すら破壊し、進化する。


「星剣技式【三燐錬角トライエック・ゲラーデ】ッ!!!」


 本来の光とは違う輝きを放ち、剣先が飛彩ひいろへと意思を得たかのように動き、突き進む。刃の軌道は三角形ではなく、星形を描いて。


「ッ!?」

 

 飛彩ひいろは眼を見開いて技式を使わず大剣を盾のようにしてガードに回す。


 ───な、なんだあれ。あの業はこんな軌道じゃない!!


 彼が動揺を見せた様に、観客席にもまた衝撃が走っていた。彼女が発動させたのは【星義執行フォルム・シュテルン】。最上位級の星剣技式でその連撃数は、驚異の二十四連撃。輝く星の様に煌めきながら、黄金の軌跡を描いて大剣へと降り注ぐ。ガガガガッと星形を描いて、飛彩ひいろを後方へ押していく。


「くっそ!!」


 ガゴォォォンッと金属音を響かせて大剣は大きく上へと弾かれる。飛彩ひいろは悪態をつき最後の足掻きを見せる。


「まだだァァァア!!」


 飛彩ひいろは雄叫びを上げて、弾かれた大剣を無理矢理降り下げる。だが、彼の刃は虚しく空を斬り、床に激突する。

 それを回避して背後に回った悠香はるかは、彼へ複数の星を叩きつける。


「ハァァァァァァ!!!」


 描かれた星は空へと霧散し、キラキラと輝きながら消えていった。

 飛彩ひいろは置換上限を迎え、その場に倒れ込む。ガランガランッと大剣は床へ転がり彼の隣に眠った。


「Bブロック勝者、瀬李せり&新島にいじまチーム!!」


 今回彼女達は彼らのコンビに初めて勝利を飾った。それは紛れもなく、彼女達の意志が勝利へと導いたのだろう。


 

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