第14-2話 Aブロック─白山チームVS荒々義チーム

 刃と拳がぶつかり合い、金属特有の甲高い音が火花と共に辺りに飛び交う。

 じんは、正面から絶え間無く繰り出される連撃をなんとか薙ぎ払いつつ、いつか来るその瞬間を待っていた。正面、正面、右、左、下、右腕を大きく後ろに引いた正面の繰り返し。

 そして、数え始めた三週目。太雅たいがが最後の大きく振りかぶったその瞬間、じんは柄へと一気に魔力を送り、刻まれた術式は銀色に輝き、技式を行使する。


「槍剣技式【一天月歩アインス・モーント】!」


「ッぐぅ!!」


 繰り出される素早く、鋭い突きを真正面から撃たれ、太雅たいがの様な反射神経と異能が無ければ、顔面にクリーンヒットだっただろう。

 太雅たいがは発動の予兆を認識した瞬間に、構えるだけだった左腕を、素早く顔前に持っていき、刃が届く寸前で防御に成功するが、勢いは殺せず、シールドブレイクしてしまい、そのまま後方へと飛ばされる。

 太雅たいがは空中で体勢を整え、ズサアァァァッと靴を滑らせながら停止する。

 床から顔を上げ、眼はじんを睨みつつ、口角は吊り上がっていた。


 そんな彼の意識外で実穂みほは、じんの後方から技式の威力増強、移動速度上昇、魔力量の上昇のバフ効果をもたらす、魔術を行使する。


「数多の力を此処へ集い、正義有る者に恵みあれ───魔術【光清の幸運ホーリー・グローリー】」


 じんの足元に魔方陣が展開され、無数の光の柱が彼を包む。体感的に上昇、増強を感じ取り、直ぐに柄へと魔力を送り、駆け出す。

 太雅たいがは軽く舌打ちをし、【拳墜げんつい】に魔力を流して、駆け出す。


 じんは向かってくる太雅たいがの技を警戒して、ワンテンポ早くに技式を行使した。


「槍剣技式【戯戯羽槍ダウートル・スイール】」


 二連の突きと、複数の残像を加えた五連の払い斬り業。金色の軌跡と共に、正面から向かってくる太雅たいがに二連突きを目にも止まらぬ速さで繰り出す。だが、太雅たいがはそれを、体を捻り避けてそのまま攻撃をするかと思いきや、その後ろにいる実穂みほに向かって突き進む。


 ───くっそ、方向転換ができない!!


 じんは心の中で悪態をつき、何も出来ずにその場で業が空を切る。

 実穂みほは迫り来る彼を見て、少し焦りの表情に変わる。だか、直ぐに思考を切り替えて、魔術書を開き、術式をなぞりながら魔術の詠唱を開始する。


「神よりもたらされる神聖なる光の導きよ、邪悪なる魔物に清き救いの一撃を───魔術【光清の剱ホーリー・ソード】」


 実穂みほの眼前に、天井スレスレに生成された光輝く魔方陣から、良くあるサイズの光で形成されたやいばが現れる。

 は彼女の右腕に従うように動き、技式を行使しようとする太雅たいがへと、矛先が向けられる。

 太雅たいがは【拳墜げんつい】を体の前でクロスさせて、両腕を体の後ろに引き技式を行使する。刻まれた術式は、エメラルドグリーン色に輝きを得て、次第にそれはガントレットその物を飲み込む程に大きくなる。


「拳岩技式【麟々閻舞ギリル・ダダルト】ぉぉ!!」


「いっけぇぇぇえ!!」


 正拳突きの十連撃業。残像を残す程に素早く放たれたは、光のつるぎと衝突し、衝撃波が生じる。


「だらァァァァッ!!!」


 ダダダダダダッと高速で繰り出された業は、光のつるぎを正面から受け、その場に制止させる。次第に皹が入っていき、最後の一撃を受けた光のつるぎは、全身に皹が回り、光の塵となってその場に霧散する。


 ───嘘!?


 実穂みほは目を見開いて、驚愕の声を心の中で上げる。

 太雅たいがは業の終了後、直ぐに魔力をガントレットに纏わせ、彼女への距離を一気に詰める。右腕を後ろに引き、眼をカッと開きながら素早く鋭い一撃を左頬に食らわす。


「ッかはァ!」


 バゴッと生々しい音と共に、実穂みほは後方へと飛ばされる。バサッとその場に魔術書が落ち、太雅たいがはそれを彼女の方に蹴り、サァァァァッと床を滑り、倒れたままの彼女の膝に当たり停止する。


 業の発動が終了し、瞬時に太雅たいがに向けて、渾身の一振りを振り向き様に斬り込む。だが、彼はそれを予期していたかの様に、見向きもせず首を傾けて避ける。

 緊迫した空気が流れる中、太雅たいがが口を開く。


「これで1on1タイマンだな!!もう邪魔者はいねぇぜ?」


 白い歯を見せ、魔力を威圧の如く放出し臨戦態勢に入る。

 じんは眉をひそめ、彼を睨む。負けじと魔力を放出し、その圧を押し返す。

 数秒睨み合い、両者一斉に動き出す。互いに魔力を武器に込め、技式を行使する。


「槍剣技式【双彗芒兎ノール・ビット】!」


「拳岩技式【麟々顕天ギリル・マゾガント】!」


 互いに業銘を叫び、間合いを詰めぶつかり合う。衝撃波が会場を揺らし、若干の耳鳴りが発生する。


 赤い光沢と共に、十連撃の払い斬りを行う【双彗芒兎ノール・ビット】。

 対して【麟々顕天ギリル・マゾガント】は、蒼い光沢を帯びた突きの二連撃、左右からの拳が二連撃、そして最後にアッパーの計五連撃業。


 一撃目が衝突し、じんの二、三連撃目を避けつつ、左手での二連撃目を腹部目掛けて放つが、【挺蓋ていがい】の柄を当てて軌道を反らし、上段に上がった刃を下段に一気に振り下ろす。

 太雅たいがはそれを後ろに飛び退いて避け、右フックを行うが、じんは首を後ろに引くことで避けるが、そこに左フックを右頬に食らう。歯を食い縛りながら、じんは四、五連撃目、クロスの形の連撃を太雅たいがの腹部に当て、二人の間に少しの空間を作る。


 六、七連撃目を食らわす為に、太雅たいがが怯んだ所を、刃を薙ぎ払う形で伸ばす。だが、彼の異能によって、怯みつつも六連撃目を左でガードして防ぎ、七連撃目を体を後ろに反らして避ける。

 八、九連撃目。再びクロスの形で攻撃を繰り出すが、【拳墜げんつい】をクロスさせてガードし防ぐ。


 ───ここだ。ここしかねぇ!!


 一旦距離を置くために、最後の一撃を残してバックステップで後ろに下がったじんに、此方も最後の一撃を食らわせるべく、彼の懐に飛び込む。


「ッく!!」


「これで決めてやる!!!」


 じんの顎目掛けて繰り出されたアッパーは、直撃したかに思えた。本来なら当たった感覚が訪れる位置にあるガントレットに、その感覚は訪れず、業の発動が終了し光は消えた。それと同時に、そこにいたはずのじんが、ゆらゆらと揺れ始め、パリンッと音を立てて粉々に割れて消えていった。


「くっそ、騙された!?あの女か!!」


 太雅たいがの目線の先には、実穂みほがうつ伏せのまま、魔術を行使していた。それを最後に、彼女は意識を失い、気絶した。


「これで終わりだ!」


 後ろからの声にハッとし、振り返るがガードをする間もなく、じんの最後の一撃が彼を襲う。上段から振り下ろされた赤い閃光は、太雅たいがの体を斬り割き、輝く魔力を霧散させる。


「がぁぁあ!!」


 太雅たいがは断末魔を上げながら飛ばされ、壁に激突し、そのまま意識を失う。


 使用した魔術は、相手に幻影を見せるという物。ほんの僅かなタイミングで、幻影を作り出し、それを彼に戦わせることで、じん太雅たいがの死角に移動し、最後の一撃を食らわせた。


「Aブロック勝者、荒義&愛川チーム!!」

 

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