第14-1話 Aブロック─白山チームVS荒々義チーム

 一回戦、Aグループは対照的なチーム同士での模擬戦となった。

 チーム白山しらやまは、所謂漫画に有りがちな、イキり陽キャのトップとその取り巻きナンバー1。


「準備運動がてら軽く捻るかなぁ?」


 白山しらやま太雅たいがは、父が政治家で一応貴族階級の者。黒髪で今時のマシュヘアー。顔立ちも良く、中等部の時からそのクラスの中心になることが多い人物。良い意味でも、悪い意味でも。


 所属兵科は剣星けんせい科、使用武器はナックル───大きさはガントレットに近いが───の【拳墜げんつい】。派手な金色の装飾が施されているが、なんの戦術的優位性タクティカル・アドバンテージも生まないことから、オーダーを頼んだ彼の性格が出ていると言える。


「ちょっと~、相手が可哀想でしょ~?」


 取り巻きの、光明寺こうちょうじ飛鳥あすかは、貴族ではなく庶民ではあるがその腕は確かで、中等部時代は好成績を残している。

 腰まで伸びた髪金色の髪。元の髪色は黒だが、自分で茶色よりの金色にしている為、正直綺麗とは言い難い。だが、顔立ちもよく芸能事務所にスカウトされたこともある程だ。まあ断った様だが。


 所属兵科は銃奏じゅうそう科、使用武器はM4A1カービンを魔弾という特殊弾頭用に改良した物。ベースカラーは黒色だが、要所要所に金色の彫刻エングレーブが施されている。無論、実用性はない。ゲームならまだしも、チャームなどのアクセサリーもつけてしまっている。


 対するチーム荒々義あららぎは、二人とも総務委員会に所属している、クラス委員長とクラス副委員長。


「はぁ、試合開始前だと言うのに……相変わらず五月蝿い二人だ」


 荒々義あららぎじんは名家の長男で、幼少の頃から英才教育を受けた、努力の天才。先の二人とは中、等部時代から同じクラスで、進級したのにも関わらず、また同じクラスになってしまった。

 上縁の少し赤いカラーリングの、四角いタイプの眼鏡をかけ、七三分けの黒髪。


 所属兵科は剣星けんせい科、使用武器は薙刀の【挺蓋ていがい】。二人とは違い、ベースは普通の薙刀に近い物で、その刃にはミスリルが使用してある。装飾は施されているが、に無駄はなく、扱いやすさと見栄えの両方を兼ね備えている。


「全く、その通りです。そろそろ痛い目に会って貰いたい所ですね」


 愛川あいかわ実穂みほじんの隣に住む名家の次女。彼女もまた幼少の頃から英才教育を受けた努力の天才。

 髪型は肩にかかるくらいのセミロングで、黒髪ではあるがインナーカラーに緑色を入れている。

 所属兵科は魔凰まおう科に所属しているが、使うのは魔法ではなく謎多き魔術。使用武器は魔術書で、赤色をベースカラーとして黒と金色で少しの装飾が施されている。後ろ腰にはそれを仕舞う、黒の本革ケースを装備している。


 両者共、演習場ステージに立ち各々武器を手に持ち、相手の様子を伺う。男性教員はステージ端に立ち、精神置換想置を起動させる。

 ステージの中心が輝きだして、から光の球体が浮かび上がり、天井に設置してある丸みを帯びた機械にはまり、を中心にドーム型にステージを囲うように、ほぼ透明に近い物を展開させ、ステージと観客席を隔離する。


「正反対の二組での対決か。なかなか面白そうだな」


 客席で氷継ひつぎが、顎に手を当てながら呟く。


「そうだね。どっちのチームも実力自体はかなりの物だよ」


 隣に座る輝夜かぐやは、肯定して頷き返して、楽しそうに笑みを浮かべる。


「両者、構え!!」


 男性教員の合図に、四人は武器を自分達の型に合わせて構える。

 じんは、右手に持つ【挺蓋ていがい】を後ろに回転させながら移動させ、左手を前に出して構え、実穂みほは左手に本を持ち、体を右後ろに引いて仁王立ちになる。

 

 対する太雅たいがは【拳墜げんつい】をガンガンッと拳と拳をぶつけて金属音を鳴らし、意識を高める動作をした後、前に構え、挑発するように笑みを浮かべる。

 飛鳥あすかは愛銃のグリップを右手で握り、左手で添えるようにアンダーバレルを持ち、構える。


 両者互いに見つめ合い、威圧し合う。その場に緊張が走り、先走るかのように魔力が身体から漏れ出る。

 男性教員は手を上に掲げ、素早く下ろして試合開始の合図を出す。


「始めえぇ!!」


 合図と同時に飛鳥あすかは引き金を引いて、魔弾を実穂みほ目掛けて射出する。属性は火。彼女に近づくに連れて、次第にその弾丸は炎を纏い、火の粉を散らしながら、赤い放物線を描いて実穂みほに迫る。

 実穂みほは、合図を聞き届けて直ぐに、本を魔力で開いてに書かれる術式を指でなぞりながら正確に詠唱し、魔術を展開する。


「守り護りて刃を絶て。紡ぐは光の一筋、それは次第に強大な光となる───魔術【光清の壁ホーリー・ベール】」


 眼前ギリギリで展開が完了し、弾丸が光輝く壁にめり込み、包み込まれて魔力で形成された炎が空中に散布し、魔力が空になった弾丸は重力に従って地面に落下し、カランカランッと音を立てて、その場に転がる。

 魔術の展開が間に合ったのは、魔弾は通常の弾丸より威力など能力面が勝っている代わりに、射出速度など速度面が弱い。その為、詠唱が完了し、防御に成功した訳だ。───無論、速度をカバーする魔弾や魔力コントロールもあるにはあるが。


 じん実穂みほの防御が終わってから動き出し、太雅たいがもまた彼と同時に動き始めていた。

 じんの持つ【挺蓋ていがい】───これだけでなく薙刀全般に言えることだが───は、刀身に術式が刻まれているのではなく、長い持ち手の部分に刻まれている。その為、氷継ひつぎ優奈ゆうだいの様な動作は必要なく、予備動作無しで技式を発動することができる。


 刻まれた術式は次第に光を帯び、刀身にその光が到達した時、技式が完成する。


「まずはこれで様子見させてもらう。槍剣技式【天転乱舞ウィング・フェスタン】」


 それに対して太雅たいがは、自信の異能力【超感覚ブレイン・プログレス】を瞬時に発動させ、高速で繰り出される突きを、体、頭を反らして避けていく。五連撃目を体を左後ろに仰け反らせて避け、【拳墜げんつい】に魔力を込めて、技式を発動させ応戦する。


「拳岩技式【麟々堕砕ギリル・ダーガルト】」


 魔力で形成された紫電を纏い、反撃を始める。突き出され、迫り来る刃を右腕を突き出すことで、勢いを相殺し、七連撃目を左腕の突きで弾き返す。甲高い金属音が火花を散らし、魔力を空中に粒子へと還して、八連撃、九連撃と体をボクシングを彷彿とさせる動きで避けていく。

 最後の十連撃目を、左手で下段から上段へと刀身にアッパーを繰り出して、上へと弾き返す。じんはその反動で大きく仰け反り、防御の姿勢が取れない状態になった。


「ブッ飛ばすぜ!!」


 太雅たいがは白い歯を、見せつけるかのように眼を見開きながら、ハハッ!と笑ってみせた。


「───ック!」


 じんは眉間に皺を寄せて、思わず声を漏らす。


 太雅たいがの一撃は、しっかりとじんの鳩尾を捕らえ、ドゴッという鈍い音と共に強烈な一打を与える。その衝撃によって大きくノックバックし、後方へ飛ばされる。


 じんは空中である程度体勢を治して、地面に向いていた背中を天井に向け直し、両手両足を床についてから、ズサアァァァッと音を立てながら少し後ろに流され静止する。

 顔を上げて、仁王立ちをして、彼を今か今かと待ちわびている太雅たいがを睨み付ける。じんはゆっくりと立ち上がり、左手で頭を押さえ後、直ぐに両手で【挺蓋ていがい】を構え直す。


「どうだ!俺の一撃は!?」


 興奮覚めやらぬ勢いで、じんに問う。


「久々に貰ったけど、やっぱり痛いよ!」


 そう返して、彼は太雅たいがに向かって走り出す。


 一方、女性陣は───。飛鳥あすかの愛銃による魔弾の雨が、実穂みほに降り注いでいた。マガジンを何度も取り替え、フルオートで常に彼女に射ち続ける。実穂みほは、魔術【敏速の魔戯シンフォニー・ダンサー】───脚に魔力を付与して移動速度を上昇させるといった物───を使用して、常に走り続けて避けている。


 ダダダダダッと実穂みほの直ぐ後ろの床に着弾して、弾痕を残しながら彼女を追う。


「このままじゃ埒が明かない。……よし」


 彼女は走りながら本を広げ、術式を指でなぞり【光清の壁ホーリー・ベール】とは別の魔術を展開させる。


「天より闇を照らす粛清の光よ、正義の名の元に悪を打つ雨を降らせよ!【光清の矢ホーリー・アロー】!!」


 詠唱が完了し、天井スレスレの位置に魔方陣が形成され、光の矢が飛鳥あすか目掛けて無数に降り注ぐ。


「は、反則でしょ!あんなの!?」


 射つのを止め、天井を見上げて驚愕の声をあげる。

 彼女に防御はできず、もろにその攻撃を食らうことになった。ズガガガガッと大きな音を立て、地面を抉る勢いで降り注ぐ。辺りに煙が立ち込め、その衝撃は交戦中の男性陣二人の元まで届き、風は二人の髪を撫でる。


 煙は徐々に晴れていき、その全貌が見え始める。

 飛鳥あすかは、置換の限界値を迎えたのか、体の節々から血を流し、若干涙目になっていた。

 高等部になるまでは、親や習い事でない限り、ここまでの戦闘経験は積めない。その為、かなり舐めてかかっていた彼女には、現実を突きつけられ、若干の落胆も見られる。


「痛い、痛い~!!ちょー血ぃで出るんですけどぉ!?」


 精神的ダメージに変換されるとは言っても、許容を越えれば血は出るし、気絶もする。彼女はそれすら知らなかったのだ。


「私もう無理ぃー!!降参、降参!!」


 彼女はそう言って、控え室に向かう通路に消えていった。

 実穂みほはその様子を見て、呆れながら溜め息をついた。それから意識を男性陣二人の方に向け、再び魔術の準備を始める。


 火花を散らしながら、激しいぶつかり合いを繰り広げていた。技式を使わず、互いの技量での勝負。避けては打つ、防いでは打つの繰り返し。


 太雅たいがは、【拳墜げんつい】に魔力を込めるのではなく、纏わせることで、防御力、攻撃力共に上昇させ、更に、自信の異能力によって擬似的に魔力付与でのバフの様に、攻撃を避けるスピードを上げて善戦している。


 対してじんは、突き、払い斬り等で彼に攻撃を行っているが、次第に彼のスピードがじんの攻撃スピードを上回り、防戦一方となっていた。


 

 

 


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