第13話 バディ

「十分後、総合演習場にて模擬戦を行います。各自バディを作って移動をしてください。バディを作る際の注意事項として、今回作ったバディで来月の任務を行ってもらいますので、しっかり考えて決めてください」


 そう言って担任は、足早に教室を後にする。教室内では誰とバディを組むかで、話し合いが行われ始めた。そんな中、氷継ひつぎは震える右手を左手で押さえつけていた。


 ───おい、聞いてねぇぞ、そんなこと。来月の任務はバディでだと、ヤバイ…………


 氷継ひつぎは、”任務“に関しての情報が一切ない。それもその筈で、中等部三年生トロワジエームの時に粗方説明を受ける為、進級ではなく進学してきた彼には殆どの情報がないのだ。


「くっそ、こんな時に限って優奈あいつはクラス違げぇしよ……」


 小さく悪態をつき、考え込む。その間、バディが決まったクラスメイト達は、続々と自分のロッカーから各々武器を取り出して演習場に向かっていた。

 そんな彼の隣に座る輝夜かぐやは、立ち上がって自身のロッカーから【天誓てんせい】を取り出して腰に装備する。


「八坂君、私と組まない?」


 その声に氷継ひつぎの脳内には「神か仏か」という、どうでもいい議論が瞬時に行われた。


「い、いいのか?てっきり、他のやつと組むのかと思ってたけど」


 そう言いながら立ち上がり、自分のロッカーから黒剣を取り出す。それを背中に背負い、ドアの前にいる輝夜かぐやに近づく。

 彼女は、はにかんで、その問いに答える。


「うん、最初からそのつもりだったからね。八坂君こそ、私とでいいの?」


 隣に立った氷継ひつぎに、首を傾げながら問う。


「ああ、俺は相手いなかったしな。天宮さんさえ良ければ」


 既に時刻は、三限目が始まるギリギリの十時四十二分だった。二人はそのことに気づき、ヤバイヤバイと言いながら走り出した。


「ねぇ、なんで私にはさん付けなの?」


 輝夜かぐやは隣を走る氷継ひつぎに聞く。


「それ……はぁ、はぁ、今じゃなきゃ駄目か!?まあ、それは……敬いの気持ちをね」


 筋肉痛を気遣っている為、息を切らしながら答える。


「にしては雑な敬い方じゃない?」


 若干ジト目で、氷継ひつぎにツッコミを入れる。

 十時四十五分ギリギリで総合演習場に到着し、足早にわだかまりがある場所に紛れ込む。担当する教員は担任ではなく、いかにも体育会系の体つきのゴツい男性教員だった。教員は全員揃ったことを確認して、説明を始めた。


「いよぉ~し、全員揃ったな!大方説明は受けたと思うが、これからバディを組んでの模擬戦を行う!!」

 

 野太く大きな声を演習場全体に響かせながら、右腕を天高く掲げる。その言動に辺りは静まり返り、生徒達は若干引き気味だった。

 そんな空気お構い無しに、男性教員は自身の左脇に抱えている、段ボールでできた正方形の箱を前に出して説明を始める。


「模擬戦はトーナメント方式でやっていくぞ!この箱の中に紙が入ってるからそれを引いて決めていく。まあ、要はくじ引きだな!んじゃあ、バディのどっちかは引きに来てくれ」


 生徒達は教員の前に続々と列を作り、くじを引いていく。そのくじを教員に見せて、彼はそれに書かれているローマ字を、後ろのホワイトボードに書かれたトーナメント表に記録していく。

 輝夜かぐや氷継ひつぎはどちらが引きに行くか、じゃん拳をすることになり、今まさに勝敗が決しようとしていた。


「よし、じゃあ勝った方が引きに行こっか」


「そうだな。それじゃあ、行くぞ!」


 二人は互いに向き合い、右手で拳を作る。


「「最初はグー。じゃん拳───」」


 二人の見える景色が、一瞬、スローモーションの様に映り、後ろに引いた拳をそれぞれが思う、最良の手を脳から神経を伝い、指先へと送る。


 ───これなら……勝てる!!


 氷継ひつぎは心の中で、勝ちを確信し、手を体の前に出す。


 ───八坂君には悪いけど、勝たせてもらうよ!


 こちらも勝ちを確信し、手を体の前に出す。


「パアァァァァァ!!」


「チョキィィィィィ!!」


 勝者、輝夜かぐや。彼女は笑顔で右手を天へ掲げて、誇らしげに氷継ひつぎを見つめる。

 対して氷継ひつぎは、膝から崩れ落ちて「くそがぁ……」と嘆いている。果たして、現在までじゃん拳にここまで本気になった人間がいただろうか。


「じゃあ、行ってくるね!」


「おう」


 輝夜かぐやは若干スキップをしながら列に並んで、順番を待つ。待っている間、氷継ひつぎは、トーナメント表を見つめて、どこのチームと当たるのか、期待と不安を感じていた。

 輝夜かぐやの番になり、彼女は箱の中に右腕を入れて一枚の紙を取り出す。二つ折りされたを広げて、自分で確認した後、教員に渡して列から抜ける。


 氷継ひつぎの元へ駆け寄り、結果を報告する。


「どうだった?」


「私達はCグループだったよ。結構早い所だったね」


「そうか、まあなんとかなるだろ」


 その後、トーナメント表が完成し、教員からの指示でチームごとに互いの戦闘スタイルの確認と連携などの話し合いを行うことになった。

 とは言え、二人は互いのスタイルは概ね把握はしている。まあ昨日の模擬戦は、氷継ひつぎにとっては衝撃の事実を目の当たりにしたわけだが。


 氷継ひつぎの提案で、一回戦目の進め方は氷継ひつぎが前衛で戦い、輝夜かぐやが後方からバフなどの支援を行うといった形を取ることとなった。状況次第では輝夜かぐやも前衛として戦うということになっている。


 それから二人は、軽く準備運動をしてから観客席に上がり、Aグループの試合開始の合図を待った。

 



 

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