第3話 演習場

 自己紹介を終え、担任から学院の説明が終わり学生証の説明に入った。


「学生証は今配ったプリントに記載されてるQRコードをスマホで読み取ったらアプリとして出てきます。じゃあ今からやってみて」


 担任の指示に従い各々スマホでQRコードを読み取り、スマホにアプリが追加されてそれをタップする。


 領域探索学院生専用アプリ【シード】。メールアドレスを入力することで個人の特定が完了し、様々な情報が表示されていく。


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【名前】八坂氷継

【性別】男

【種族】人間

【誕生日】7月21日

【年齢】15歳

【序列】9875位


【能力パラメーター】

・魔力適正値:E-

・魔力保持量:A+

・適正属性:無属性

・エーテル適正値:A

・エーテル保持量:S


【異能力】

創世記の契約者アダム·テスタメント

発動中、全ての魔力属性に適正させることができる。

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 その他にも校内地図や一般公開されている魔法大全など色々な情報が入っていた。

 【シード】は一般人も使うことができるアプリの【アドレッセ】や軍人達が使っている【オトリテ】の領域探索学院版で、個人の証明は勿論料金の支払い等も一括して操作を行うことができる、便利なアプリケーション。現に氷継ひつぎ輝夜かぐや等も【アドレッセ】を使用している。情報の同期はアドレス入力にて完了している。


 ───こう自分の異能が文字で説明されてると、余計にこう……ね?合わなさすぎだって痛感するよ


 氷継ひつぎの異能、【創世記の契約者アダム·テスタメント】は本来ならば上記通り発動中は全ての属性に適正するが、彼の魔力適正値が低すぎる為、効果とコントロール力が大幅に低下してしまう。その為あまり意味を成さない。唯一できることと言えば、光属性の回復魔法類。これは母親の異能、【聖母の精霊ヴィエルジュ·サン·テスプリ】に遺伝、依存しているために使える。あまり前衛向きでは無いが、本人はさほど気にしていない様だ。


「月に一度ある任務をこなすことで入る報酬もシードを通して入金されます」


 月に一度、探索学院の生徒は簡単な任務をこなす義務がある。勿論下手をすれば死ぬこともある。その為報酬金額も学生にはかなりの高額な物になっている。とはいえ、その殆どが装備の新調やらメンテナンスやらに取られていく訳だが。


「任務の難易度は序列に見合った物を提示します。勿論、そこでは命の保証はありません。気を緩めないで下さいね。序列は在学中に四桁に行ければかなりの好成績ですね。既に四桁の生徒も何名かいるみたいですが、油断はしないで下さい。順位は常に変動します。」


 【序列】、戦い続ける者に与えられる強さの証明。任務をこなした数、魔力やエーテルの量、討伐数を基準に与えられる物。高校一年生の年齢から領域に関わる者に与えられていくのだが、与えられて直ぐはこれまでの成績や魔力やエーテルの量と予想で付けられ、初の任務にて初めて正確な数字が出る───それを見る前に現世を去る者もいるのだが。


八坂やさか君、序列どうだった?私は五桁だったけど……」


「人に言うものでもないと思うけど……四桁だったよ、一応」


「ほ、ほんと!?凄いね、流石八坂やさか君だね」


「……ああ、でも初日で五桁も十分凄いと思う」


 天宮あまみやのそれは、悪びれなく本心からの彼への誉め言葉。それでも氷継ひつぎにとっては、それこそ耳にタコができるくらい言われ続けてきた言葉で、きっと自分への称賛では無いといつしか思うようになってしまった言葉で。


───俺は必ず、"八坂"じゃなく、"八坂氷継"として認めさせる。そして俺は親父と違うやり方で世界を変える、約束を果たす……!


 何不自由の無い世界で、不自由の無い家庭で育っても、親という存在は常に背中に張り付き続ける。父親が最強で人類の守護者で、それだけ恵まれようとそれは内側だけで、外側は氷継ひつぎを"個"としてではなく"子"としてでしか見ていない。幼いながらもそれを理解してからは、あまり自分をさらけださなくなった。

 

 それでも運命は避けられない。結局行き着く先は同じ場所。彼が見ていた夢はこの進学によって目標へと変わった。

 世界はそれを知ってか知らずか、変革しつつあった。


       

       新たな領域の展開



 ◇─────────────────────◇


「まだ着かないのか、遠すぎるだろ」


「あと少しだと思うけど……」


 氷継ひつぎ輝夜かぐやの二人は創魔科の演習場へと向かっている。

 演習場はそれぞれの兵科で別れていて、どの校舎からも行けるようになっており、そこを繋ぐ通路は動く歩道になっているため、移動は楽。


「やっと見えた……」


 目線の先にようやっとその全貌が見えて来る。

 演習場の入り口は自動ドアに統一されており、エーテルによって防音がなされている。

 演習場は地下一階、地上二階建ての三階建てで、一階は全て訓練場になっていて床は全て魔石を加工した物を使っているので早々壊れる事はない。二階は応接室や更衣室にシャワー室、休憩室がある。地下には訓練用の武器や掃除用具といった物が保管されている。


 中に入ると上級生達は既に訓練を開始していた。勿論、本物を使って。訓練用の物があると言っても、素振りなど個人練習の時以外は持ち武器を使って訓練を行っている。


 ───大丈夫だってわかってても本物使ってやってるの見ると怖いな……


 全ての演習場はエーテルを組み込んだ装置【精神置換想置】によって肉体ダメージが精神ダメージに変換される仕組みになっている。エーテルは想いを具現化する力なので成立している。


 二人が入り口に立ち尽くしていると、それに気が付いた一人の女子生徒が駆け寄ってくる。

 黒みがかった茶髪を後ろで結んだポニーテール。青鈍職の瞳で、第一印象は活発な少女といったところだろう。


八坂やさか氷継ひつぎ君と天宮あまみや輝夜かぐやさんかな?私は二年ツヴァイト天河あまかわ郷花きょうかです。ここの所属で、今日は君達一年生に兵科の説明をしています。それでは着いて早々ですが、説明をするのでこちらにどうぞ」


 二人は頷き返して郷花きょうかの後に続く。そのまま右側の階段を登り、二階にある応接室に入る。応接室と言うだけあって室内はとても豪勢な物となっている。床は大理石が使われており、黒光りする高級ソファー、ガラスと世界三大銘木であるチークが使われている長机にワインセラー。何も知らない人に、ここが校長室と言ったら信じてしまうだろう。


「凄く綺麗でしょ?私もここ初めて来たときびっくりしたよ~」


「そ、そうですね」


 若干緊張気味に答える輝夜かぐや氷継ひつぎは答えなかったが無視している訳ではない。氷継ひつぎは建築物がかなり好きで、そういった本や写真集、建築とサバイバルをいっぺんに楽しめるゲームなどをやる程だ。そのため内装をじっくり見ていてそもそも聞こえていなかった。


 ───結構値が張りそうだなあ……いいな


「それじゃあ二人共そこに座って。他の一年生はもう訓練入ってるからパパっと終わらせちゃおう!」


「そうですね、俺も早く剣握りたいんで」


「物騒だよ?八坂やさか君」


 氷継ひつぎは左の腰にぶら下げた剣を輝夜かぐやはエストックを外し、ソファーの横に立て掛け座る。郷花きょうかは机を挟んで対面にある、同種のソファーに刀を立て掛けてから座る。


「説明と言ってもそこまで難しい話じゃないから。これを見ながら説明していくね」


 郷花きょうかは二人にプリントを渡して説明を始めた。


「先ず最初に、この創魔科は他の兵科と比べて特殊なの。他の兵科は魔法に特化した魔凰まおう科、近接武器を得意とする剣星けんせい科、銃等の遠距離武器を得意とする銃奏じゅうそう科。それぞれがそれぞれに特化した科なんだけど、創魔科は創造と想像を司るエーテルに特化した科。だから、魔法も剣も銃も全てこの科では扱っているの」


「良く言えば万能。悪く言えば半端者ってことですね?」


 氷継ひつぎは少し皮肉を込めて言う。


「そうね、他の兵科にも欠点があるように創魔科ここはそれが欠点ね。創魔科ここの部門は氷継ひつぎ君の所属している剣星けんせい武門、輝夜かぐやさんが所属している剣援けんえん武門の他に銃奏じゅうそう部門、魔凰まおう武門、銃援じゅうえん武門、魔援まえん武門があります」


「武器の種類を大きくしか分けてないんですね」


「ええ、それじゃあ武門の話はそれくらいにして、次は活動日数ね。この兵科は基本は火、木、土の三日。それ以外の日も演習場は開いてるから自由に使ってね」


 そう言って郷花きょうかは立ち上がり刀を携えドアへ向かい後ろを振り向く。


「これから一年生同士で模擬戦やるから準備してね。武器だけあれば大丈夫だから!」


 そう言ってッバタンと応接室から姿を消した。取り残された二人は数秒固まったままだった。

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