第2話 苦手

 【第二領域探索学院】。探索学院は日本に八ヶ所あり、東京に第一と第四と第五、北海道札幌市に第二と第八、沖縄県与那国島に第三、京都府京都に第六と第七がある。それぞれ校舎の作りが違い、その土地特有の物もあったりする。特にその色が濃いのは京都にある第六。


 そんな第二は番号的に二番目に大きい校舎。白と黒を貴重とした建築で、ガラス張りが多く見られる。一体東京ドーム何個ぶんの土地を活用しているのだろうか。校舎が大きいのは勿論のこと、体育館やグラウンド、兵科事に別けられた複数の演習場、別館として建てられた図書館、男女で別けられた寮。そのどれ一つ取っても通常の二倍以上の大きさだ。


 初等部、中等部、高等部の校舎はそれぞれ別々だが、横一列に並んでおり一階で行き来することができる。


「えっと、座席は何処だ……お、あったあった」


 氷継ひつぎ一年エーアストⅡの教室にて、黒板に貼り出された座席表を確認し終えた所だった。

 教室は大学の様な作りになっており、机が上から下に段々になっている。とは言え、大学程広い訳ではないが、普通科の学校に比べればかなりの広さだろう。


 時間的にはかなりの余裕を持って登校したため、まだ片手で数える程の人数しか来ていなかった。せめて登校の時だけでも目立ちたないようにと早目に家を出たのが功を制したようだ。


 座席は一番後ろの左端。着席後、持ってきていた魔法学の本を開いて目を通す。彼は魔法自体は使えるが、一般的な魔力適正値を下回っており、魔力操作などは苦手としている。

 だが、エーテルの適正値は父親であるれんを上回っており、そこに関してはれんより優れてると言えよう。


 通常、魔力適正値とエーテル適正値は大体同じくらいの値で、どちらか片方だけ値が高いと言うのはあまり見られない。


 魔法学には興味はあったものの、適正値的なことを考慮して、幼い頃はあまり読んだりはしていなかった。


 ───っお、そろそろ時間か……早いな、時間が過ぎるのは


 本を開いてから大体30分が経った頃、座席がかなり埋まっていたことに気がつく。

 その中には知っている顔ぶれが何名か見られる。貴族の息子、娘や、軍や組織の実力者の息子、娘だったりと。今年の一年生はかなりの実力者揃い。氷継ひつぎの様な入学生は大体が強者だ。普通科ではなく、それに特化した兵科の学校に通っていた者が入学してくる。


 ───眠いなぁ……少し寝ておこう


 ◇─────────────────────◇


 ───みっっっっじかいな、校長の話


 校長、伊澤いざわ犬寺けんじ氷継ひつぎは家族ぐるみの付き合いで顔見知りである。氷継ひつぎは当時、無口な人だと思っていたがれんと話している時はそんなことはなく、饒舌で楽しそうにしていたので、普段からそうしていれば良いのにと思い直したことがあった。


 校長の話はそれほど長くなく、むしろ一瞬の出来事かの様だった。彼自身、特に話すような事もなく、寧ろ全部言われてしまった後での登壇だったので、かなり短くて済んだのだ。


 ───言おうと思ってたこと全部言われたんだけど……新手の嫌がらせか?


 犬寺けんじの悲痛の叫びも虚しく、何事もなく式が終了するのだった。


 ◇─────────────────────◇

 

 入学式が終わり、教室内での交流も兼ねて自己紹介が行われていた。スムーズに自己紹介が進んでいく中、氷継ひつぎは内心やばいと感じていた。そう、何も考えていなかったのである。ここで躓いてしまえば、今年どころか来年再来年にも響いて友人が出来ない可能性があるのだ。


 ───や、やべぇ……なんも考えてなかった。おい、やめろ!圧を掛けるかのように魔法を披露するんじゃないよ!ああああ拍手喝采じゃん、前の前の奴許さんぞ


 氷継ひつぎの番まであと一人となった。


煌神こうがみしゅうです。兵科は魔凰まおう科の幻影武門です。得意魔法は闇と雷です。よろしく」


 前の席に座っているセンターパート白髪の男、煌神こうがみしゅうが闇と雷の混合魔法で剣を造り出しで自己紹介が終わり、その混合魔法に教室中が沸いた。


 闇属性、光属性、無属性はエレメントと言って、その三極元素は火、水、風、氷、雷、土の六属性とは違い誰しもが扱える物ではなく、ファンタジーならよく言われる『選ばれし者が扱える』といった感じだ。そもそもの元素の中にある遺伝子構造自体が違う為、適正している人が極端に少なく、六属性と違い謎が多い。学生でありながらそれを扱えるだけでなく、混合して使って見せた彼はかなりの実力者と言えよう。

 

 そうして遂に氷継ひつぎの番になった。


八坂やさか氷継ひつぎです。兵科は創魔そうま科の創魔剣星けんせい武門。魔法よりもエーテルの方が得意だ、よろしく」


 拍手はあまり起きなかったが、代わりに教室内で小声が聞こえだす。氷継ひつぎは思わず溜め息をつく。自己紹介などをした時は毎回こんな感じになっている。しばらくすれば周りが慣れていきそんなことはなくなるのだが。


「私も創魔科なんだぁ、よろしくね?八坂君」


「あ、ああ、よろしく」


 隣の席に座る女子生徒に握手を求められたので、氷継ひつぎも右手を差し出してそれに応じる。氷継ひつぎは何処かで見たことがある様に感じたが、思い出せず苦悩していた。


 そんな次は彼女の番。


天宮あまみや輝夜かぐやです。兵科は創魔科の創魔剣援けんえん武門。得意魔法は光と氷、エーテルも少しならできます。よろしくお願いします!」


 そんな自己紹介と共に、クラスの男子生徒が途端に叫び出した。氷継ひつぎしゅうなど少数を除いてだが。


 苦笑いを浮かべている彼女、輝夜かぐやは、体内にある光属性の魔力因子の影響で髪がブロンズ色に変色しており、彼女の持つ【異能】の影響で左側の前髪の一部が銀色に変色している。変色していると言っても汚い色になっている訳では無く、美しいという表現が正しいだろう。窓から差し込む日照りに当てられた髪は、キラキラとまるで夜空に浮かぶ星の様に美しく輝いている。


 代々天宮あまみや家は六芒神ろくぼうしんと呼ばれる天皇陛下を護衛する側近中の側近で、現在は輝夜かぐやの父、冬亥とういが三芒星に配属されている。その跡継ぎには長女である輝夜かぐやがなることになっている。


 氷継ひつぎが見たことがあるように感じたのは、六芒神は基本顔が世間に知られることはないが、天宮あまみや家はテレビなどに度々出ることがあり、その時に何度か輝夜かぐやも映っていた為、そう感じたのだ。


 ───そうか、彼女の父親は三芒星の……親父から同い年の女の子がいるとは聞いていたが、美貌と人望があるな、天宮さんは


 ───人多いなぁ……、ちょっと苦手かな。でも、ひ……八坂君もいるし大丈夫かな?


 氷継ひつぎの知らないところで、頼りにされていくのだった。





 

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