序章II

 れんが任務へ向かう少し前──────


「全く、今年の入学生は化け物揃いだな。クラス割りが大変だよ……」


 黒髪オールバックの男が、デスク上でノートPCに向かい、カタカタと音を鳴らして五つの番号に名前を打ち込んでいく。


 デスクの上にはノートPCの他に、山積みになったファイル、万年筆とインク、印鑑に『校長 伊澤いざわ犬寺けんじ』と彫られた魔石でできたネームプレート。

 わざわざ魔石で作ら無くてもいいのだが、先代の校長に威厳がどうのと言われてしまった為、職人に作らせた。それも実費で。学院の経費では落としてはくれなかった様だ。


 クラス割りが佳境に差し掛かってきた時、スーツの内ポケットに入れているスマホから着信音がなった。


「……もしもし?」


「よお!けんちゃん!!!元気か!?」


「はぁ、仕事中なんだけど……。後五月蝿い」


 電話越しなのにも関わらず室内に声が響く。


 ───おかしいな、スピーカーモードにしてないんだけど


 電話の相手は八坂やさかれん。二人は現在犬寺けんじが勤めるここ、【第二領域探索学院】の卒業生であり、当時はバディを組んでいた。


「なんか用か?こっちは、クラス割りがあとちょいで終わりそうな所なんだけど」


「まあそう怒んなって!そろそろ氷継ひつぎが入学するだろ?それの挨拶みたいなもんだよ!」


 ああ、そういえば。と、れんの言葉を右から左へと聞き流した。


 スマホを右耳と肩で挟みながら作業を再開する。や行の欄に『八坂やさか氷継ひつぎ』と表示されたので、【エーアスト】のⅡの欄にネームタグをドラッグする。


 この学校は小中高一貫校で、学年の数字の読み方が特殊。例えば、初等部一年は英語で【ファースト】中等部一年はフランス語で【プルミエ】高等部一年はドイツ語で【エーアスト】となっている。どれも読み方が違うだけで意味は同じ。


「いやぁ思い出すなあ……俺達が学院内で暴れまわってたあの時を!!」


「しれっと俺まで巻き込むな。……主に暴れてたのはお前だ、れん。それも、でな!」


「ガッハッハッハ!そうだったか?んまあ、細けぇことは気にすんなよ!」


 電話越しに豪快に笑うれんに、犬寺けんじが小さく溜め息を溢す。


「っあ、そろそろ任務あるから電話切るぜ!また飲みに行こうな!!じゃ!」


「あちょ!……ったく、一方的に喋って切りやがって……」


 耳からスマホを離して内ポケットにしまう。

 両肩を回して背伸びをし、再度ノートPCに目を向ける。


 ───さて、さっさと終わらせてジムにでも行くか。最近は事務仕事ばかりだったし、鍛え直しておくか


 心の中でぼやいて手を動かす。


 結局それから一時間程かかり、ジムについたのは午後7時を回った頃だった。


 

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