領域を統べる英雄譚(更新停止、リメイク投稿中)

序章

序章Ⅰ

　瘠土（せきど）した地に颶風（ぐふう）が吹き荒び、黄沙（こうさ）の影響でとても視界が悪い。その為ここではゴーグルを着用するか、エーテルまたは魔力を全身に纏わせ続けなければならない。

　元々この領域は緑が生い茂り、様々な動物も生息していたものの、一世紀程前に人が踏み入り開拓し、戦争によって色を奪われ、廃棄された結果ここまで荒れた様だ。大剣を背負うこの男も任務前の資料の確認時に知ったことだが。

　今いるこの領域は地球ではない───正確にはもう一つの地球といっても違いない。彼の様な者が住む地球は別名『中粒領域（ちゅうりゅうりょういき）』と称され、様々な領域と繋がる中継地点だろうとされている。その根拠に、この領域である『遺棄された緑の大地（グリーン・イ・デルタ）』の他にも百以上もの領域特異点が発生している。

　本来ならば、ある程度緑が荒らされようと荒らされる前よりも根強く緑が生成されるのだが、生命の元とされるエーテルが領域全体で枯渇したことによって、緑が再生されなかったとされているが、真相は解明されていない。

　そういった背景がある為、現在はここの調査が進められている。まあ、あまり進展はないようだが。

　この領域に限った話では無いが、どの領域にも【領界種】と呼ばれる生物が存在する。【領界種】はエーテルと呼ばれる五つ目の元素が身体を巡っており、この生物と身体に魔力が巡っている【魔物】がいる限りは本来緑が枯れることはない。

　この二種は自然界の味方ではあるが、彼ら人類にとっては天敵である。領域が繋がったことで彼ら側にもこの二種の生命体が侵攻してきたことにより、北海道帯広・釧路方面、東京都世田谷区、宮城県仙台市、沖縄県那覇市は特に深林化が進み、【魔物】や【領界種】が多く発生している。

「全く、ここは視界が悪過ぎる。エーテルと魔力の乱れも酷いな……。さっさと調査終わらせないと───っとぉ、奴（やっこ）さんのお出ましの様だ」

　マフラーを靡（なび）かせながら、ゴーグルも着用していない大剣を背負った男が呟く。

　その視線の先には数体の【領界種】と思しき黒いモヤがノソノソと蠢いていた。

　───ギシャアァァァッ！！

　けたたましい叫び声を轟かせ、先の動きとは比べ物にならない程のスピードで一斉に距離を詰め、襲い掛かった。

「【結晶（クリスタル·リザシオン）】」

　その言葉に背負っていた大剣が反応し、蒼白く発光する。前へ突き出した腕を右へ払うと、背負ったままだった大剣が独りでに動きだし、その腕に倣うようにして右へ一閃。斬りつけられた【領界種】は結晶化し、その場に制止した。

　男が開いていた右手を力強く握ると、結晶が【領界種】ごと砕けちり、エーテルとなり空気中に消失した。

「あれは……【黒霧の亡霊（ブラック·レムレース）】だったか？こういう所にはいないと思っていたんだけどなあ。どうなってるんだよここは」

　宙に浮く大剣を背負い直し、再び歩みを再開した。

　───そう、彼こそが【人類の守護者】

　　　　　　　　　八坂（やさか）蓮（れん）