カラフル! 5月3日〜5月9日


 黄 ✕ 藍


 藍次あいじくんは、いつもイヤホンしてスマホを弄ってる。

 双子の兄の青壱せいいちくんはよく男子の輪の中にいて、何かと運動をしているイメージだから、双子とはいえ二人は両極端だ。


「あ、委員長」

「はい?」

「ちょっとこのボタン押してくれない?」

「……ガチャ十連」

「そそ。俺今物欲センサーの塊だから、当たる気がしないんだよね」


 そんなこと言われても……。

 ハズレたら顰蹙を買わないかしら。


「まあまあ、どうぞ一回」

「いくよ?」


 人差し指でタップすると、画面上のガチャガチャのマシーンからボールがコロコロと十個転がった。

 藍次くんと覗き込む。

「お。惜しい」

「惜しいってあるんだ」

「そ。この子のウルトラレアが欲しかったんだ。

 でも、持ってない子出たからドブらなくてよかった」

 それはよかった、んだろうか?

 まあ、藍次くんの表情は暗くないからそれなりに良い結果だったのかもしれない。


「これってどんなゲームなの?」

「アイドル育てるリズムゲー。興味ある?」


 あるか、と聞かれたらそこまでないけど……。

 答えに困って言葉を濁していると、藍次くんがあたしの顔をじーっと見てきた。

 こうやって見ると、顔のパーツは藍次くんも青壱くんも同じように感じるんだけどなぁ。


「ねぇ、委員長。そろそろいい?」

「え? 何が?」

「俺が告白すること」


 ――え?


「俺、鹿野みたいに泣かせたりするつもりないからさ。付き合って欲しいんだけど」


 予想だにしない展開に、あたしはくらりと目眩を起こした。

 藍次くん、あたしのことを好きなんて一ミリもそんな仕草見せてなかったのに。


「あ、出た。ウルトラレア。物欲センサーが委員長に向いたからかな」

「あ、藍次くん……?」

「大丈夫。返事は待てるから」


 何が大丈夫なのか教えてほしい。




 黒 ✕ 緑




「勇者よ、さあ、ここにある剣を携えて世界の平和を揺るがす魔王を倒しにゆくのだ」


 芝居がかった台詞、なのではなく、本当に芝居の台詞らしい。

 先程から森田は台本を片手に、架空の勇者に向かって語りかけている。


「森田は、演劇部だったのか」


 俺が訊ねると、森田は人好きする笑顔で頷いた。

「実は彼女が居たから入ったっていう、しょうもない理由なんだけどね」

「ほう」

「でも、やってみたら結構楽しくてさ。意外と合ってるのかも、って思えるんだよね」

 森田は器用そうだし、度胸もある。

 舞台に立つのに相応しい素質があるのかもしれない。

「塩谷、興味あるなら今度の舞台出てみない?

 褐色の勇者とかかっこいいと思うんだ」

「いや、勇者はさすがに……。端役なら考えてみよう」

「ははっ。謙虚だなぁ」


 見せてもらった森田の台本は、付箋と書き込みで埋め尽くされていた。





 桃 ✕ 赤



「もうすぐ青壱せいいちくん来るよ」


 バレー部が終わって体育館から出ると、赤音あかねちゃんがスマホの画面を覗いて立っていた。

 日が沈むのも遅くなって暖かくなってきたとはいえ、夜になれば風も冷たくなって肌寒い。

「教えてくれてありがとう!」

「どういたしまして」

 可愛い子だなぁと思う。

 こんな幼馴染が居たら、確かに恋に落ちていてもおかしくない。

「ねぇ、赤音ちゃんはさ」

 首をこてん、と傾けて、俺の話を聞いてくれる。

「青壱くんのことどう思う?」

「どうって?」

「幼馴染じゃなくて、男としてってこと」

 さすがに突っ込みすぎちゃったかなぁと思いつつ赤音ちゃんをちらりと横目で見ると、真っ赤になって慌てていた。

「べ、べべべべ別に、男としてなんて――!」

「ごめんごめん。大丈夫、絶対言わないからさ」

 二人の反応が面白くて俺からは言えないや。


「絶対に、言わないでね?」


 俺の袖を摘んで、彼女は上目遣いに頼んでくる。

「うん、言わない」

 こんな仕種をさせてしまったと知られたら、危うく俺が殺されちゃいそうだ。

「でもさ、ずっとこのままの関係って続かないと思うから、伝えられるときに伝えなきゃだめだよ」

「うん」

「あ、来た来た。青壱くーん、赤音ちゃん待ってるよー」

「……ねぇ、もしかしてさ、伝えられるときに伝えられなかったの?」


 ――え?



「もし、まだチャンスがあるなら諦めちゃダメだよって忠告返し」


 茶目っ気たっぷりに笑う彼女。

 そっか、チャンスか。



「うん、じゃあ俺も頑張ってみようかな」



 ちょっと当てられて、頑張ってみたくなった。

 俺、結構単純かもしれないなぁ。





 茶 ✕ 紫



「おすすめの恋愛小説ってあるかしら」


 図書室を訪ねてきた保志さんは、悩ましげにため息をついた。

「恋愛小説ですか?」

「ええ。恋愛小説。……悲しいのがいいわ」

 保志さんの物憂げな表情に、こちらも胸が苦しくなる。

「悲しいの、ですね」

 わたしの選んだ本を、片っ端から胸にかかえていく。

 なんで悲恋ものをご希望なのだろう。

 訊きたいけれど、保志さんの傷を抉ってしまいそうで訊く勇気が空気の抜けた風船のようにしぼむ。


「ねえ」


「はい」

「なんで人と同じじゃなきゃいけないのかしら。

 好きなこと、好きなもの、恋愛も、人と違うだけで白い目で見られるの」

「……そう、ですね」

 人間は、いつも多数決をしていて、少数派は社会の隅に追いやられる。

 自分と違うということを認められない人は大勢居る。

「……わたしには、難しい問題です。

 どんな答えも、決して保志さんの心を癒やすことはできないと思います。

 でも、一つだけ言えることは、保志さんが例えわたしや他者と違ったとしても、わたしは決して保志さんのことを白い目でみたりしません」


 保志さんは、ぽろぽろと涙をこぼして、わたしの肩に顔を埋めた。




 白 ✕ 赤



赤音あかねちゃん、パス!」


 バスケットボールは真っ直ぐと飛んでいき、斉藤さんの手に収まる。

 そこから彼女は二人を躱すと、華麗にシュートを決めた。


「ナイッシュー!」


 丸井 水希みずきが駆け寄っていき、二人はハイタッチを交わしている。


 あ、今、いい話浮かんだかも。


 すかさず、タオルの下に隠しておいたメモに急いで書き込む。

 そうだなぁ、次はどうしようかなぁ。

 斉藤さんを観察していると、ふとゆかりのことを思い出した。

 紫が女の子に恋をしたのは初めてで、それを聞いたとき驚いたけど、こうして斉藤さんを見ていると紫の気持ちもわからなくもない。

 楽しそうにコートを駆け回っている姿、時折見せる真剣な眼差し。

 スタイルもモデルさんばりにいいし、正直そこら辺の男よりもかっこいい。


 わたしがじいっと見ているせいか、彼女はピースを返してくれた。


 ――あ、いいかも。


 彼女をモデルに漫画を描きたい。

 もうメモじゃ足りなくなって、腹痛ですと嘘をついて教室に戻った。

 ノートを広げて、キャラクターを描き起こす。


「おぉ……イケメン出来た」


 次はヒロインかぁ……。

「せめて、物語くらいハッピーエンドにしてあげるか」










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