カラフル! 4月27日〜5月2日分
茶 ✕ 橙
好きな人が目の前にいる。
口いっぱいにドーナッツを頬張っている。
ドーナッツにコーティングされていたチョコが口の端に付いて、それを彼はぺろりと舌で拭った。
わたしは緊張してしまって、大好きなはずの抹茶のドーナッツの味がわからなくて、ごくりと飲み込んだ。
「
「あ、ありがとう」
一緒に飲み物を取りに行っていた森田くんも自分のコーヒーと、鹿野くんのコーラを持ってきてくれた。
水希ちゃんはシュガースティック二本を使って、スプーンでカップをぐるぐると混ぜると、早速お目当てのドーナッツを口にした。
「おいしー!」
「よかった」
水希ちゃんが幸せそうに頬張って笑うと、森田くんも釣られたように笑顔を見せる。
――いいなぁ。
二人の付き合い方は、わたしにとって理想だ。
「なんだよ、惚気か?」
癒やされているわたしと対照的に、鹿野くんは不機嫌そうに二人を睨んだ。
「なに? 惚気ちゃいけないの?」
森田くんは笑顔でそう言うけれど、背後にはおどろおどろしいオーラが見えて、笑顔にはとんでもない圧力を感じる。
すると、鹿野くんはそろそろと森田くんから視線を外した。
――鹿野くん、こんな表情もするんだなぁ。
クラスの中心に居るときと、森田くんの前だと少し雰囲気が違う。
いつもは兄貴肌で、常にグループの先頭に居るのに、森田くんの前だとふざけてじゃれているように見える。
あたたかいカフェオレをこくりと一口。
もっと、もっと彼のことを知りたい。
じっと見ていると、視線が合った鹿野くんはニヤリと口角を上げた。
桃 ✕ 青
「
バレー部の休憩中。体育館から外を覗いたら、青壱くんがグラウンドを見つめていた。
グラウンドは陸上部が使っていることが多くて、今も長距離の選手が目の前を走って行った。
けれど、青壱くんの視線は長距離の選手じゃなくて、グラウンドの真ん中。短距離選手達が走っているところだ。
「……ふーん」
「なんだよ」
「べっつにー?」
女の子と幼馴染みって、どんな感じなんだろうか。
俺には想像出来ないけど、友人よりは特別なんだろうとは思う。
「あんまり待ってるとさ、取られちゃうよ?」
すらりとした身長。手足も長くて、モデル体型。確か、顔も可愛いと美人を併せ持った感じ。
モテていることは想像つく。
「……知ってるんだよ、そんなの」
「ふーん?」
彼女が手を振った先に、野球部のユニフォームを着た男が見えた。
あれ、もしかして本当に取られちゃいそうだったりして……?
青壱くんの表情が強張っている。
あー……これはそっとしておいてあげたほうがいいかな。
「休憩、終わったら戻ってきてよ」
「ああ」
青壱くんの恋、叶うかな。
俺は勿論叶ってくれることを願っているけどね。
赤 ✕ 紫
「あ、あの……
いつも、ツヤツヤのストレートヘアーを靡かせて、
頬を少し赤らめて見上げてくる仕草。
「ん? どーかした?」
「あの、今日、トリュフ作ったの。よかったら」
「え? いいの?」
大きく一度頷いて、紫ちゃんは両手くらいのピンク色の紙袋を出す。
紫ちゃんはよくこんな風によくプレゼントをくれる。
手作りのクッキーやケーキ。今日みたいにチョコも。
「ありがとう」
紫ちゃんは腰を九十度曲げて頭を下げると、踵を返して教室から勢いよく出て行ってしまった。
――相変わらず不思議な子だなぁ。
早速可愛いラッピングを解いて、トリュフを一口頂く。
「うまっ」
チョコが舌の上で、とろりと溶けていく。
指先に付いたココアパウダーを舐めると、ほんのり苦味が広がる。
今度、作り方教えて貰おうかなぁ。
水 ✕ 橙
「おー、
緑ちゃんの席に我が物顔でふんぞり返っているのは、緑ちゃんの親友の
「橙ちゃん、机に足乗せないでよ。緑ちゃんの机汚れちゃうでしょ」
「へーへー」
「もー」
わたしは橙ちゃんが足を退けた机の上を、手でさっと払う。
「なぁ」
「んー?」
「なんで緑也と付き合おうと思ったんだ」
わたしが顔を上げると、橙ちゃんは視線を横に逸らしていた。
橙ちゃんに緑ちゃんとのことを聞かれたの初めてだと思う。
「なんで……って、好きだから?」
「なんで疑問形なんだよ」
「えへへ。でも、なんとなーく緑ちゃんのこと好きになるって思ったんだよね。実際、今大好きだし」
「ほーん」
橙ちゃんは興味無さそうなフリしてるけど、きっとちゃんと耳を傾けてくれている。
「橙ちゃんにも好きな人出来るといいね」
「大きなお世話だ」
黄 ✕ 白
体育の時間。いつも一緒に柔軟している子が休んでいたから、永瀬さんと組むことになった。
「よろしくね」
永瀬さんは一度頷くと、座っているあたしの足を抱えるようにして掴んでくれた。
ゆっくりと状態を倒して、それから起き上がる。
腹筋は苦手。お腹にぐっと力を入れているはずが、足に力が入ってしまう。
起き上がる時に、思わず足を引いてしまって、永瀬さんの華奢な体がバランスを崩した。
「ごめん!」
「平気。ちょっと、力抜いてたから」
「気をつけるね」
「うん」
もう一度、寝たところから上体を引き上げるようにして起こす。
起き上がると、あたしの足をがっちり掴んでいる永瀬さんの顔が近くにあって、ぎゅっと胸が苦しくなった。
新雪のようなきめ細やかで白い肌、薄い唇は口紅でも塗ったようにツヤツヤしていて赤みを帯びている。
長くてボリュームのある睫毛と、くっきりした二重。
誰がどう見ても、絵本の中のお姫様だ。
「……どうしたの?」
「最近、ちょっとへこんでて」
「へこんでるって、なんで?」
「振られちゃったんだよね。それから、永瀬さんみたいだったらーとかつい考えちゃって」
「それはないわ」
「え?」
「わたしだったら好きになってもらえたとは限らないじゃない。むしろ、わたしだから嫌われることもあると思うけど」
「そう、かしら」
永瀬さんは笑って、あたしの肩を押した。
ベタっと体育館の床に倒される。
「大丈夫、わたしなんかよりずっと山本さんのほうが可愛いから」
永瀬さんの言葉はすんなり受け入れられなかったけれど、その言葉の裏に隠された暗い感情は不思議と説得力を感じさせた。
青 ✕ 黒
ラスイチを引き当てることって滅多にない。
だからある種、これは奇跡のようなものだ。
「お」
サイダーを買ったら、ボタンのところ、売切の字が赤く光った。
受取口からサイダーを取り出すと、「あ」って声が聞こえてきた。
振り向くと、塩谷
「……なんだよ」
「いや、俺もサイダー飲もうと思ってたから売り切れたんだが」
ああ、そりゃあ、お気の毒。
手にしたサイダーを見下ろして、何気にコイツと話すのは初めてだよなって思い出す。
いや、まあ、同じ女子を好きなヤツ……おまけにそんな仲良くもないヤツと話すことなんてないと思う。
何を話すものか想像もつかん。
塩谷 黒都は、サイダーを諦めたのか踵を返す。
「おい、待てよ」
俺は振り返ったヤツに、山なりにサイダーを投げて渡す。
さすが野球部、落とさずにサイダーを受け取った。
「そいつは譲ってやる」
「はぁ?」
俺はコーラを買うと、塩谷の疑問に答えずにそそくさと退散した。
――そいつは譲ってやるよ、そいつはな。
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