第40話 聖都へ

「わ、わ、わかった。船を呼ぶから命だけは!」

「よし、変なことに使うなよ」

 陽介は商人の一人に通信機を渡し、船を呼ばせると再度取り上げた。船は十分もかからずに到着し、陽介一行は商人たちを連れ聖都に向けて出発した。船の中で聖都について聞きだすと、商人たちは「快く」答えてくれた。


 聖都は四大陸から断絶され、高い壁で囲まれた円形の都市。中央には宮殿があり、エルメスの住居を兼ねている。見初められた女たちがハーレムを形成しており、裏にはいらなくなった女を引き取る場所があるという。


 宮殿の周囲に住んでいるのはかつて勇者の仲間だった者や、その周辺の人物や貴族だ。一般人は近づくことを禁じられ、許可無く乗り込もうとすれば陸海空を囲まれ、問答無用の魔法攻撃を受ける為、交通手段は認可を得た専用船しかない。


 供給機は設置されず水も炎も使い放題で、常に新鮮な空気を吸って生活できる。豊かな土は種を撒けばすぐに実をつけるので、食料に困ることもない。世界中から物が集まり、金さえあれば手に入らないものはない。行き来できる商人からすれば、あそこは地上の楽園だという。


 どこが楽園だ! と拳を振り上げそうになって、陽介はまた怒りに任せた振る舞いをしそうになった自分の頬を叩いた。かけてもらった魔法はとっくに解けているのに、緊張しているのか船が波に揺られても、ちっとも気持ち悪さを感じなかった。





 陽介一行が土の大陸を離れた頃。エルメスはカノープスが記憶を取り戻して絶命したことを感知し、怒りを通り越して呆れ果てていた。

「あー、マゾが死んだか。まぁどうでもいい。あいつらがここにたどり着くまでに、事は済んでる」 


 彼は『千里眼』のスキルで、世界で起こるあらゆる事象をリアルタイムで見ることが出来る。アルデバランやスピカに先回りさせることが出来たのは、このスキルによるものだ。

 ここまで配下に任せ、エルメス自身が直々に動けなかったことには理由がある。


 魔王討伐後彼は世界の中心部、あらゆる力の源である聖域に都を作った。不都合な精霊たちを封じ世界の記憶を書き換え、すごいです流石ですと女に囲まれるうちにハーレムも大きくなり、やることもなくなってきたので、面白半分に神を超え世界の管理者になろうとした。


 しかし、こればかりは何度か試みたがチートでは書き換えられなかった。彼は『創造』のスキルで全ての知識を得られる賢者の石を作り、どうしたら神を超えられるのかを調べ、たどり着いた答えは「聖都の宮殿で一年間力を高め続けること」だった。


 どうせ暇だしと『状態固定』のスキルで精神集中状態を固定し、数日間でみるみるうちにステータスはカンスト値を超えたが、それでもまだまだ足りなかった。


 ある日、ピアーチェ姫に海を見に行きましょうと言われ宮殿の外へ出ると、精神集中状態が解除されてしまい、高めた力も少しばかり減ってしまった。以降は宮殿を出ず籠りきりで、あと数か月で一年経とうというところで、陽介がやってきたのだった。


「はあ~~~~~~~~」

 エルメスは大きなため息をつき、やってくる陽介たちをめんどくさく感じた。手持ちの駒を二つ失い、魔王は復活し、奴隷も解放された。せっかくここまでゲーム+ラノベっぽい世界に仕立て上げたのに、趣のわからない陽キャはこれだから困る。万が一にもたどり着けたら説教してやらなくては。と思わずにはいられなかった。


「こんな時、ピアーチェがいてくれたらなぁ」

 扉の向こうで聞き耳を立てているアルデバランに気づき、わざと聞こえるように呟いた。ピアーチェ姫のことばかりを気にしているエルメスの態度に、下唇を噛むアルデバラン。

 ここで異世界の者を倒せばきっと振り向いてくれる。そう思った彼女は、踵を返し宮殿を出ていった。


 足音が遠ざかり、エルメスはニンマリと気味の悪い笑みを浮かべた。

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