第39話 芽吹く大地
放置していた商人と警備兵を連れて、陽介一行は地上へ戻ってきた。久しい日の光を眩しく思えることが嬉しかった。
先に戻っていた土の民は、アーシアを弔う儀式の最中だった。枯葉の上に置かれている遺体の手をテラが優しく握ると、ゆっくりと地面に沈んでいった。
また命が巡り戻ってくることを祈る歌が歌われ、陽介は複雑な心境で事が終わるのを待っていた。
「我が地を戻さねば」
儀式が終わるや否や、テラは力込めて両腕を地面に突き立てた。乾燥し切った枯れ木には新たな芽が生え、草花が辺り一面に広がった。死に絶えていた土に新たな命が吹き込まれ、成長途中で萎れてしまった作物は瞬く間に実を付けた。
「これが、土の精霊の力……。すっげぇ! あっという間に色々生えてきた!」
明らかに踏みしめる土の具合が違う。カチカチだったものが、ふかふかに変わったようだった。
「むっ……」
力を使い切ってしまったテラはフラフラと倒れこみ、陽介がなんとか支えた。
「大丈夫か!」
「急に大きな力を使ったから疲れたのだろう。休ませてやってくれ」
陽介はテラを空いている家まで運び寝かせ、フラムはほんのり暖かい炎の玉を吐き、その周囲に浮かべた。
「この状況を立て直すには物資も必要ね。ちょっと行ってくるわ」
リベルタは大鷲の姿に戻り、風の大陸まで飛んでいった。
「私だって」
アリエッタが歌うと水が集まって、雨のように大地へ降り注いだ。長い間乾いていた地面に染み渡り、潤っていく。
(よかった、アリエッタは自分の意志で歌えるようになったんだ……!)
陽介は苦しく錆びついた歌声が、清らかな美しさを取り戻したと知って内心笑顔になったが、変に思われたくなくて表情に出さないよう唇をかみしめた。
「私たち、これからどうすれば……」
聖都から送られてきた訳ありの少女たちは、地上には出てきたものの戻るところもなく、土の民とは距離を置いたところに固まっていた。ビクビクと怯えたままでいる。
「ならここで暮らすのはどうかしら?」
様子を見に来たサビアは、少女に手を差し伸べた。
「でも、私たちがいたらご迷惑になってしまいます……」
脱走したと知られたら、聖都で起きていることを話した自分たちは処分されるだろう。一緒にいれば土の民まで巻き込んでしまうかもしれないと思うと、手を取れない。
「私たちはもう奴隷じゃない、あなた達も。生きましょう」
少女はサビアの手を、涙を拭って握り返した。
陽介はリベルタが話を付けて運んできた物資の配給をしたり、土の民と一緒になって家を建て直し、ロッチャの指揮下に入った警備兵と畑を耕したりと、まあまあな体力で出来る限界まで復興を手伝った。異世界から来たことを告げ、エルメスを倒し連れ帰ることも話した。
「陽介、向こうの様子を見てきてくれよ」
「任せてくれ! ほらそこ、手を抜くなよ! きっちり見てるんだからな」
「くっそぅ」
懸命に手伝う陽介にロッチャは信頼を寄せ、商人たちの監視を任せた。警備兵と違い悪知恵のよく回る商人たちは、度々脱走を目論んだり、なんでもいいからくすねようとしたり、外部と連絡を取ろうと隠れてコソコソ行動しようとしたり、没収した金貨を取り戻そうとしたが、監視業務で目と勘を鍛えられた陽介からは逃げられなかった。
数週間かかったが、聖都からの襲撃も無く平穏無事な日々が続いた。水と食料と炎が確保できるようになり、最低限ではあるが生活が可能という程度まで戻った。テラの体力も回復してきたところで、いよいよ聖都への出発準備も整った。
「さて、と」
陽介は商人たちを睨みつけて言う。
「連れて行ってもらおうか、聖都まで」
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