第34話 奴隷解放戦線
錯乱し入り口に向かって流れていく人の波に押しのけられて、陽介とリベルタは分断されていた。
「リベルタ! ここのどこかに隠し通路があるはずなんだ! アリエッタはその先にいるかもしれない、探してくれ!」
壁を手で触って、不審な部分を探す。後ろには警備兵や護衛たちが迫っており、探索にかけられる時間は少ない。
「あったわよ! でも鍵穴じゃないわ、小さくて四角い穴があるの!」
リベルタが見つけたのは、何かを差し込むような穴。壁を叩けば軽い音が響き、向こう側が空洞になっていると知る。
「マジか、鍵じゃない別の物が必要なのか……」
鍵さえあれば開くだろうと考えていた陽介は、甘かったと悔やんだ。ほかに使えそうなものはないかとポッケを漁るが、飴玉一つ入っていない。あるのは松明用の木と、檻の鍵と服に刺さった名前入りのピン。
詰所に地図があったことから、有事の際には警備が入れるようになっているはず。とするならば、巡回中所持しているもの。
「……そうだ、これだ! フラムさん、これ持ってリベルタのところまでいってくれ!」
陽介はいそいそとピンを取り外し、フラムに差し出す。
「しかしそれでは君が……」
「追手が来るわよ、早く!」
「俺なら大丈夫だから!」
根拠のない自信だとはわかっていたが、フラムは陽介を信じピンを咥え人々の肩を蹴って飛んでいった。受け取ったリベルタが穴にピンを差し込むと、壁が透けて通路に入れるようになった。リベルタは何も言わず陽介に背を向け、フラムを掴んで隠し通路の先へ走っていった。
「いたぞ! 捕まえろ!」
丸腰の陽介は両手を上げ、追ってきた警備兵にあっさりと捕まった。
「私はやっかいな他の侵入者を探します。あなたたちはそいつを男の檻にいれておきなさい」
カノープスは平静を装っているが、口角が微妙に上がっていた。これで勝ったと確信しているようで、呑気に鼻歌を歌いながら通路を進んでいった。フラムたちが隠し通路に入っていったことには、気づいていないようだった。
「この野郎! 俺の服かっぱらった上に、新人面して侵入してくるとはいい度胸だな!」
所持品と服を奪われ、ほぼ素っ裸にされた陽介は男性の檻に蹴りこまれた。怒る管理職の警備兵が魔法で鍵をしめようとすると、ゴツンと重い音がして前のめりに倒れた。
「えっ……?」
陽介が驚いていると、大きな石を持った女性が顔を見せた。
「あ、あの時の!」
助け出そうと鍵を開けて手を伸ばした時、断って閉めてしまった人だった。
「あなたの言葉が心にずっと残っていました。土の精霊様がいたような気がしてきて、死んだように生きるのではなく希望を持って生きることが正しいのではないかと、そう考えるようになったのです」
女性の檻に入れられていた土の民がやってきて、男たちも立ち上がった。
「よかった、わかってくれたんですね。全部エルメスとその手下のせいだから、あなた方がこんな理不尽な目に合う必要なんてないんだ!」
「よっしゃあ燃えてきた! 今こそ戦おうぜ! 俺たちは奴隷なんかじゃない!!」
血気盛んな男の言葉にそうだそうだと声が上がり、陽介は勇気づけられた。
「まずは警備をどうにかしないと。俺が一芝居打つから、その間に詰所にある武器を手に入れよう」
陽介は気絶した管理職の警備兵からもう一度服を剥ぎり、身につけた。
それから詰所へ奴隷たちが騒ぎを起こしているから沈静してくれと慌てて駆け込み、出てきた警備兵を檻へ誘い込んで、男たちに不意打ちをしてもらい閉じ込めた。逃走防止の為か鍵の魔法が使えても内側からは開けられない仕組みになっているようで、警備兵たちは開けられずに戸惑うばかりだった。
陽介が騒ぎを起こしている間に、女たちは詰所から食料や武器や地図を奪い、通信装置を石で殴って壊した。
「これだけあれば戦えるぜ! 奴隷解放戦線だ!」
「私たちも戦います」
女性たちも武器を手に取った。
「なぁ、あんた名前は?」
血気盛んな男性に、呼びたい時に困るからと聞かれ陽介はそのまま答えようと思ったが、まだ精霊の所在すらわからないので、炎の大陸の時のように襲われてはかなわないからと、フレイムを名乗った。
「俺はロッチャでこっちはサビア、肝の据わった女房だ」
「フレイムさん、よろしくお願いいたします」
こうして陽介は奴隷解放戦線のリーダーとなり、土の民を率いることになったのだった。
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