第25話 魔王の玉座
「ここが、魔王城……」
廃墟と化した城は風も吹かず水も枯れ、土に還る日を待っているように見える。
「そうだ。あの忌々しい日、勇者の魔法で地下深くに葬られた」
ロブ・ロイは深いため息をついた。
城門は吹き飛んで柱が片方残るだけ、廊下と呼べるような道はなく足元は斬撃の跡が残る。部屋はどこも骨が転がり、染みついた血が乾き黒く染まっていた。未練が残ったものは魂だけとなって、ロウソクの灯りのように揺らめている。もはや意思はなく、ただそこに存在しているだけだという。
「これは……人間ですか?」
壊れた大きな額縁に、優しく笑う人間の少女の絵が入っていた。
「魔王様の母君だ。五百年前に亡くなっている」
ロブ・ロイはそれ以上の説明をしなかったし、重い口調だったので陽介も追及しなかった。ただ、この世界の人というよりは、日本人の顔つきをしていることが気になった。
特に壊れ方の酷い魔王の間には、玉座に剣が刺さっている。禍々しいオーラを纏い、凄まじいプレッシャーを放つ異様な空間になっており、近づこうとすれば、全身の毛が逆立つほどだ。
「これが魔王様だ。肉体は滅びてしまったが、その魂はこの剣に封じられている」
「倒されたわけじゃなかったんですね」
何故かホッとして、尻尾を振って喜ぶ陽介。お前は魔族のくせに本当に何も知らないのだなと、ロブ・ロイは長々と説明してくれた。
レベルの概念は魔族にも有用で、人間の命を奪った分だけ、経験値が入り強くなった。それを利用して魔王は次々に人を襲い、ついにはLvMAXに至り不死となった。死ぬことがないので、勇者も封印する以外の方法がとれなかったのだろうと、彼は推察している。
封印はおかしな術式で組まれていて、ありえない量の魔力が注ぎ込まれているらしく、魔法や呪術に詳しい司祭の彼でも解けない。弱まるどころか年々強くなっており、城が崩壊しているのは漏れ出した魔力が暴走したことも要因だという。
「お前からはどうも特別な気配がするのだ。フレイム、この剣を触ってみてはもらえないだろうか」
「わかりました。でも、何も起こらないと思いますよ」
一歩近づくごとに、肌を焼くようなピリピリとした殺気が突き刺さる。人間の姿ならまだしも、魔族の姿ではどうにもならないだろうなと思いながら前足で触れると、精霊たちが封じられていた水晶玉のように封印が割れ、玉座から剣がゴトリと抜け落ちた。
どす黒い煙が雷と共に渦を巻き、地の底から唸る声が城全体に響く。やがて収束し、威厳ある王が玉座に姿を現した。
「ふ、フォリドゥース様~~~~~!!! やはり私の見立てはあっていた!! 素晴らしい日だ今日は!」
「煩いぞロブ。この者と話がしたい、下がれ」
「は、はいっ!」
ロブ・ロイは、避難所のほうに走っていった。歓喜にむせび泣く声が残っている。
「異世界の者よ、礼を言う。我はフォリドゥース、魔族を束ねる王だ」
改めて見ると、悪魔のような角に厳めしい表情の読めない顔つき、髑髏をあしらった装束に、棘の生えた長い尾が見え隠れしている。陽介は威圧感に後ずさり、頭を垂れる。もしかしなくても、とんでもないものを蘇らせてしまったのだから。
「顔をあげよ。隠さずともよい、お前は人間だな。本当の名はなんという?」
「よ、陽介、です」
緊張でガチガチになってしまった陽介は、震える声で名乗った。
「ははは、そう固くならずともよい陽介。お前は恩人なのだからな」
フォリドゥースが指を鳴らすと、威圧感がふっと消え、部屋全体が明るくなった。
「その姿では不都合だろう。茶でも飲みながら話そうじゃないか」
目の前にはテーブルとイス、カップに入った紅茶と切り分けられたパイが現れ、陽介の姿は魔族から元の人間に戻っていた。喜びたいところだが、魔王と一対一でお茶会をすることになり、血の気が引いていくのだった。
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