第24話 悼む魔族
ここは元々魔王城に繋がる地下施設で、現在は各大陸から正義の手を逃れてきた魔族の、唯一の居場所だという。
「お前、名前は? 見た目的には我々と同じキラーウルフだと思うが」
「ようす……フレイム、俺の名前はフレイムだ! 炎の大陸から来たんだ」
人間らしい名前ではマズいと思った陽介は、とっさにフラムから取ってフレイムと名乗った。
「炎の大陸か、遠くから逃げてきたんだな。大変だったろう」
労われながら奥へ進んでいくと、数十体の魔族がジロリと睨みつけてきたが、生き残りだとわかると視線を外した。一匹ずつ詳細を知りたいが、この状態ではステータスが開けない。本で読んだことがあるのは、せいぜい牙の生えた緑色の獣人系魔族が、ゴブリンだということくらいだろうか。森の中に縄張りを持ち、入るものをこん棒で殴り追い出すらしいが、ニコニコと笑顔だった。
「嬉しいぜ、まだ生き残りがいたなんてな」
静かな地下の中でも明るく振舞うゴブリンに、ほらよと犬用のエサ入れみたいなものに水を注がれた。飯もあるから遠慮するなよと言われたが、この体勢で水を飲むことには大きな抵抗があった。この姿では、顔を下げて舌を出す必要があるからだ。
(うう、こんなの恥ずかしくて最悪だ……!)
でも、もう喉がカラカラだ。ずっと飲まないでいたら不審に思われるだろう。グッと顔を近づけて、ペロペロと舐めると喉が潤っていく。乾きが癒えると今度は腹がぐうと鳴り、飯としてふやけたミンチも入れてもらった。陽介は恥ずかしい気持ちを捨てきれないままガツガツと犬食いするのだった。
(あ、でも意外に旨いな……)
「話を聞かせてくれよフレイム。俺たちはここからほとんど出られなくて、退屈してるんだ」
どうにか食べ終わると、陽介は炎の大陸からここまでの道程を話した。洞窟内の注目が一気に集まるのを感じる。
「……塵になって、消えた? 詳しく話してもらえませんか」
港に現れた巨大イカの話に、上半身が女性で下半身がタコの魔族が食いついてきた。船の行く手を塞いでいたので炎の精霊に焼かれたと話すと、彼女は泣きだしてしまった。三年前勇者に退治され、既に亡くしていた主人だったのだという。ファンタジーの世界で魔物といえば悪いものだという認識でいた陽介は、心に刃物が刺さったような痛みを感じた。
続けて噴水の水で膨れていたモノアイスライブが人間に倒されたこと、星降り山のモンテスマが仲間割れしていたことも話した。ついでに、スピカというエルメスの手先、人間の子供が操っているらしいことも付け加えて。
「……そのモンテスマの一味は、仲間割れをしたと言ったな?」
「うん、スピカってやつが操ってる群れのところに、他の群れが割り込んで来たんだ」
笑顔だったゴブリンは拳を握り壁を殴り、キラーウルフ達も吠えた。
「おのれ勇者エルメス!!!! 我らの自由を死後も奪うというのか」
「ど、どういうこと、ですか?」
気迫に圧され恐る恐る尋ねる陽介に、ボロボロのローブを纏い岩の上に座っていた魔族が答えた。魔王の側近で、ロブ・ロイと名乗る司祭だった。彼が言うには、魔族は三年前エルメスに経験値のためだけにほぼ全滅させられた。陽介の話に出てきた同胞たちは皆既に死んでいるはずのもので、割って入ったモンテスマの群れは、数日前に偵察へ行ったきり帰ってこなくなったのだと。
風の塔で戦った時数が多かったのも、一向に減らなかったのも、おともだちにしようと襲い掛かってきたことも繋がった。スピカは死者を操っていたのだ。
「しかし、死者を操るスキルや職業など、この世には存在しないはずなのだが……」
「エルメスが勝手に作ってスピカに与えたと思います、記憶を書き換えることもできるっぽいって聞きました」
「そんなバカな!? 世の理を書き換えられるのは世界広しといえど、創造神だけだぞ!」
魔王の側近でさえ、エルメスが世界を書き換えていることを認知出来ないでいる。陽介はエルメスが
「……フレイム、ついてこい。お前がここにやってきたのは、ただの偶然ではないかもしれん」
ロブ・ロイは、避難所の更に奥へ陽介を連れて行った。粗削りな洞窟の先には、上半分が吹っ飛び、もはや建物としては機能しなくなっている城があった。
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