第20話 自由を取り戻した精霊
「陽介!」「陽介チャン!」
「アハハハハ! ほーんっと、あたまわるーい。しんじらんなーい!」
フラムとリベルタの叫びは、風に虚しく散った。スピカは勝ち誇ったように笑っている。
「……死なせないわ! お退き!」
リベルタは魔族たちをかき分けて、ためらうことなく陽介の後を追って落ちた。スピカが更に高く笑っている声など、とうに聞こえていなかった。
水晶玉を抱えたまま落下している陽介は、今度こそ死ぬんだろうなと覚悟し、閉じていた目を開いた。
「せめてこれだけでも」
剣を震える手で持ち、水晶玉に突き刺す。バキバキと乾いた音を立て崩れていく。
「よかった、これで精霊は助かる……風が吹くんだ」
陽介は、町の人が風を受けて喜ぶ姿を想像して、あとはどうにでもなれと目を閉じた。
追いかけて落ちるリベルタは、後悔してはいなかった。このまま地面に激突しても、自分がクッションになれば、陽介は助かるかもしれないと考えていた。もっと早く、追いつけるほど早く。こんな身体が煩わしい、昔のように自由に飛べたらと、強く願う。
「そう、そうよ、アタシは……!」
彼女はふと、過去のことを思い出していた。風の民と共に塔を作り、祝祭の日に祭壇に座し翼を広げ風を送っていた時のことを。皆に慕われ、大陸の守護を誇りに思っていたあの頃を。
スルスルと糸が解けるように、彼女の脚はギュッと縮み鋭い爪が生え、両腕は伸びて羽を持ち、顔つきは猛禽類のそれに変わっていく。
地面に叩きつけられる寸前、竜ほどもある巨大なオオワシが陽介を掴み、空へ舞い上がった。
「うぇぇ!? なんだ、どうなってんだ!?」
もうダメかもしれないと思っていた陽介は、突如現れたオオワシに困惑し、されるがまま掴まれていた。
向い風をものともせず最上部に戻り、一声鳴くと、恐れをなした魔族たちは引いていく。陽介を降すと、お礼を聞くより前にオオワシはスピカの前に立つ。
「なっ、なによあんた、おともだちが怖がってるじゃん! みんな、
恐怖を打ち消す魔法をかけられ襲いかかる魔族たちに、オオワシはフンと笑って、暴風を巻き起こした。吹き曝しで身を守るものもない魔族たちはパラパラと落ちていくが、陽介たちは無事だ。
「あ、やばっ。に、にげちゃうもんねー!」
魔族があらかた地に落ちていくと、一人だけ防御魔法でしのいでいたスピカは、不利を悟り、大型のスカイチェイサーに乗って逃げ出そうとした。
「そうはいくか! 風の精霊、力を貸してくれ!」
「アラ、いいわよ。生意気な小娘にお仕置きしなくっちゃね!」
どこかで聞いたことのあるような声を気にしている場合ではない。陽介の剣にオオワシの羽が触れると、風が巻き上がり空模様が急激に変わる。
「そうだ、勇猛果敢な空の戦士……風の精霊リベルタ! ってえぇ!? 君なのか!」
フラムはようやく名前を思い出したが、納得いかなかったようだ。
「陽介チャン、準備はいい?」
「いつでも大丈夫だ!」
リベルタが空に向かって咆哮すると、立ち込める暗雲から雷が剣に落ちて輝く扇に変わった。瞬間、陽介の心に言葉が浮かんでくる。
「ぶっ飛ばすぜ!
扇を振れば振るほど雷が光り、スカイチェイサー目掛けて落ちていく。持ち前の早さで躱していたが、雷の乱舞に羽を撃たれ、スピカ諸共森の中に墜落していった。
陽介は力を使い果たしてしまい、その場に倒れた。しばらくして目を覚ますと、オオワシが祭壇から風を送っていた。玉の中に居なかったけど、どこかから駆けつけてくれたのかとホッとして、改めて助けてくれたお礼を言おうと近づくと、オオワシは見たことのある男性の姿に戻った。
「えっ!? 風の精霊って、リベルタだったのか!?」
「ありがとね、陽介チャンのおかげで、ぜーんぶ思い出したわ」
抱きつかれ頬にキスをされたが、全然嬉しくなかった。勇猛果敢な戦士だと聞いていたのに、まさかのオカマで、それが精霊で……? 流石に情報量が多すぎる。
「さ、風も送ったことだし町へ戻りましょ。祝祭をおっ始めるわよー!」
ノリノリのリベルタの脇に抱えられ、思考するのをやめ、もうどうにでもなれと思う陽介だった。
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