第19話 風の塔と祭壇
連れ込まれたのは、寂れた武器屋だった。昔は職人が大勢いたが、魔王が倒された時に廃業。現在は鍛冶屋としてやっているらしい。昨夜の襲撃を受けて、武器と防具を求める人だかりができていた。
「ハーイ、お邪魔するわよ。リバティー、ちょっといいかしらー? このコに武器見繕ってあげたいんだけど」
リベルタは陽介を脇に抱えたまま、奥で作業をしている職人を呼んだ。
「ありゃ、姐さん一足遅かったね。いいものはみんな売れちまったよ。素材がありゃ作ってやれるんだけどね」
声だけの返事があった。店内の棚はがら空きで、扱いの難しい大剣や甲冑、鉄の大盾が残されているだけだった。
「あら、困ったわね。陽介チャン、なんか持ってたりしない?」
「なんかって言われてもな……これくらいかなぁ」
陽介は肩掛けのかばんから、ビスクドールが置いていった星屑の詰まった袋をだした。それ意外はちょっとした食料や薬草、お金くらいしか持っていない。
「アラ、星屑じゃない! リバティー、これでどうにかして頂戴」
リベルタは星屑の詰まった袋を振って呼び、工房の奥からひょいと顔をだした職人に手渡した。
「おぉ、星屑かい。こんだけありゃあ盾の一つは作ってやれるよ。姐さんの客だ、真っ先に作るから、ちょっと待ってな」
職人はサッと引っ込んで、星屑を炉に入れて溶かし始めた。
「ありがとっ。ん? どしたの陽介チャン、そんなにマジマジ見ちゃって。あ、初めて見るカンジ?」
「ああ、うん。炎の大陸って、こんな大きな鍛冶屋なかったからさ」
異世界から来た話をしてまた厄介なことになると困ると考えた陽介は、炎の大陸から来たこと以外は隠し、アリエッタは呪いで声が出なくなってしまった治癒士、フラムは勝手についてきた生き物だと説明していた。
リベルタが言うには、星屑は鉄の代わりに使われている素材らしく、農耕具から剣まで幅広く作ることが出来るらしい。星降山にしかないものだが、モンテスマが出没する為に勇者が殲滅するまでは希少品だったという。
「勇者も魔王討伐までは多少いい事してたのよね。それが、どうしてこんなことをするようになったのかしら……」
話を聞いて、陽介は自分の考えが凝り固まっていたことを知った。エルメスは不正に世界を書き換えたが、一方で人のために魔族を倒していたのだった。
(人と魔族は五百年敵対してたんだよな、ならやっぱり正義の味方なのか? いや、でもフラムさんやアリエッタは実際被害を受けているし……)
「陽介チャン、陽介チャン! 出来上がったわよ」
声をかけられてハッと我に返った陽介に、ほのかに煌めく丸型の盾が渡された。星屑は鉄よりも軽いので装備しても重荷にならず、耐久性もバックラーより格段に高い。代金を払って店を出ると、フラムとアリエッタが待っていてくれた。装備も新しくしたところで塔へ向かおうとすると、アンタたちだけじゃ心配だからとリベルタがついてきた。
森の中に佇む塔の入り口は、既にモンテスマが数匹見張っていた。一行は草むらから様子を伺い、突入のチャンスを待った。
(見張りがいるな。ここに入られたらマズいって言ってるようなもんだな)
(どうしてかしら? こんな塔誰も使ってないわ)
(そのうち思い出すさ、登るぞ)
「エッ、このキツネチャンおしゃべりするの!?」
フラムが言葉を発したことに驚いたリベルタの声で、モンテスマたちに気づかれてしまった。
「君が大声を出すから見つかったではないか! あと私はキツネではない、フラムだ!!」
フラムは怒りを炎に変えて、モンテスマ達を焼き払った。
内部にもグレイブマンティスやスカイチェイサーが壁や天井に蔓延り、塵にしながら塔を登っていく。新しい盾の使い勝手は良く、敵の攻撃を受け流しやすくなった。その勢いでサクサク進みたいところだが、陽介のHPはまあまあしかないので、途中休み休み登っていく。剣技を見ていたリベルタに、基本の動き意外が余りにも我流すぎると言われ、後で剣を教わることになった。
最上部にたどり着くと、吹き曝しの中によく手入れをされた祭壇があった。町の祝祭と同じ飾りがかけてある。
「あれっ? 誰もいないぞ」
祭壇に鎮座する台座に乗せられた水晶玉は、空っぽだった。
「一応割っておこう。記憶が元に戻れば、彼の居場所もわかるかもしれない」
水晶玉を壊そうと祭壇に近づくと、下の階からゾロゾロと魔族たちが現れた。その真ん中に、金髪ツインテールでピンクフリルのスカートを履いた小さな女の子がいた。
「それを割っちゃダメなの、お兄ちゃんが悲しむから」
女の子はゆっくりと近づいてくる。
「その声、君がスピカ……?」
こんな幼い子供を手先にした上に、お兄ちゃん呼びをさせているエルメスの倫理観のなさに、陽介は気持ち悪さを覚えた。
「はじめまして、おじゃま虫さん。さよならの方がおにあいかしら?」
スピカがニヤッと笑って口笛を吹くと、魔族たちが一斉に取り囲んだ。
「ボサっとするな、相手の情報を見るぞ」
「慣れないなぁ、これ」
とぼやきながら、陽介はステータス画面を開いた。
スピカ:おんなのこだよぉ (*'∀'人)♥️*+
職業:(ひ・み・つ♪)
HP:まあまあだよ!
MP:かなりあるよ!
攻撃:そんなのいらなーい!
防御:そんなのしらなーい!
魔法攻撃:みんなをつよくするよ!
魔法防御:みんなをまもるよ!
素早さ:かけっこならまけないよ!
スキル
おともだちいっぱい:だれとでもおともだちになれるよ!
スピカがいちばん:どんなことがあってもスピカはだいじょーぶ!
すききらいしない:なんだってたべられちゃうよ!
「なんだこれ!?」
ステータスには子供の落書きじみた文字列が並んでいた。
「えっへへ〜お兄ちゃんがスピカの為に作ってくれたんだ〜羨ましいでしょ」
言葉は遊んでいるが、祭壇の前に分厚く陣を敷いて、近づけさせないようにしていた。戦うには数が多すぎるが、やらないわけにもいかない。一行は正面からぶつかり合った。
炎と、水と、怪力と、剣で塵に帰していくが、倒しても数が減らず次第に押されていく。絆の力は一度きりの必殺技、ここで使うわけにはいかない。陽介は考えて、自分でもあり得ないと思ったが、一つの提案をした。
「リベルタ、俺を祭壇に向かって投げてくれ! あんな軽々と抱えられたなら出来るよな?」
「で、出来るは出来るけど、そんなことしたら……」
「あの玉は俺じゃなきゃ壊せないんだ! 頼む!」
「そこまで言うなら……どうなっても知らないわよっ!」
リベルタは腕を回してから陽介を両手でむんずと掴み、雄々しい掛け声と共にぶん投げた。
「わあああああ!!!! 痛ってぇ……よしっ! 掴んだ」
鮮やかな弧を描き、魔族たちを越え祭壇にドズンと着弾した。お腹と背中が痛いが、バッチリ取るものは取れた。
「うわっ」
崩れた祭壇から飛び降り、立ち上がった瞬間吹いた突風に足を取られ、陽介は水晶玉を抱えたまま落下した。
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