第2話 未知との遭遇
「ふっ、ふっ、はぁ…ふっ、ふっ、はぁ」
家を出てから10分程だっただろうか。
空はすっかり夜の波に呑まれて夜色一色で、少女の視界に入るものは微かな月明かりと、彼女の小さい手に持った懐中電灯の灯りだけだ。
孤独と心細さを無理やり脚力に変換してどんどん道を進んでいく。
その時、2つ奥の街灯に一つの影が通ったことに気がついた。
「…っ!?」
足に急ブレーキをかけてすぐに停止し、少女は視線の奥を懐中電灯で照らした。
右へ、左へ、再び右へ。
しかし、照らされたのは真新しい家だけだ。
謎の黒い影は少女の視界から消えてしまった…昼間だと感じない謎の奥行き感と違和感を残して。
「なんだったんだろ……」
先程の未確認生物の事で頭の中がいっぱいになったが、無理やり頭を振って意識を逸らした。
「ほんと、もう早く帰った方がいいよね」
少女はランニングの速さとは思えないほどのスピードで走り出した。
街灯の下を何個も通り、しばらく走っていくと山へと続く坂に着いた。普段は真っ直ぐ進んでそのまま家に帰るのだが、今晩は何故か山の方が気になった。
「………」
いつの間にか足を止めて、暗闇が続く山をじっと見つめていると、
ばさばさっ!
という鳥類の翼音が少女の耳に届いた。
「……?」
ほとんど耳元で音が聞こえたはずなのに、周りを見ても、……!
少女の少し前に、深紅のブラウスを美に纏い、漆黒の翼を背から生やした、肩まで程の長さの金髪の少女が一人佇んでいた。
少女は恐る恐る金髪の少女に手を差し伸べる。
「あなたは…誰?ここで何してるの?」
このような美しい金髪の子を見た記憶も無く、こんな夜に一人で立っているのも不思議だったので、少女は覗き込むように女の子に聞いた。
「私は…私の名前は……」
「名前は…??」
すると、金髪の子は首を横に振って少女を見た。
「名前は…覚えてない」
黒い翼を生やした少女は、どこか悲しそうに少女を見つめる。
「そっか…じゃあ、私が名前をつけてあげる」
少女は名前を付けるのが上手で、数々のあだ名を生み出してきたのだ。
そして、名前が思い出せない金髪の少女に名前をつけてあげることにした。
「カラスっぽいから、クロウのクウカちゃんってどうかな…?」
カラスからCROWを連想させて、それを少しもじっただけだが、金髪少女改めクウカは凄く気に入った様子で…
「クウカ…私の名前はクウカ……。クウカ嬉しい、ありがとう」
その時、雲と雲の隙間から明るい月明かりが差し込んで、クウカを照らした。まるで少女にクウカの姿を見せつけるように、暗闇でも目立つようにクウカを照らした。
「わぁ…!」
夜空から差し込んだ月明かりは、クウカの身体を眩いまでに照らした。
金髪に、絵に書いたような綺麗な肌。その瞳は血のように紅く、顔付きからは少女より少し幼いことが見受けられる。触るだけで折れてしまいそうな綺麗な身体を守るのは深紅のブラウス一枚で、彼女の背中から生えるカラスを思わせる程真っ黒な翼、身長は少女の5cmほど低い。
そんな美しい…というか綺麗なクウカを見た少女は思わず口を押さえながら感動を抑えきれず声を出してしまった。
吸い込まれそうな夜空の下。少女は翼を生やした少女…クウカと出会った。
コワレモノガタリ 秋風 紅葉 @momiji-0127
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