第414話

私は芽衣に電話で事情を説明し、ひたすら謝る。でも、芽衣の怒りが止まらない。

優香ちゃんと偶然会ったことに対して怒られ、声を掛けたことに対しても怒られた。

一度、お姉ちゃんが声を掛けたと言おうと思った。でも、今の芽衣には私の言葉は言い訳にしか聞こえないはずだ。



「芽衣…ごめん」


「早く家に帰って」


「それは無理だよ…」


「何で!年明けたし、解散できるでしょ」



私と優香ちゃんだけだったら事情を説明して帰ることはできる。でも、先輩達が一緒にいるからそんなこと言えないし、楽しそうにしている場の空気を壊すことはしたくない。



「芽衣、落ち着いてよ」


「水希のせいじゃん」


「家に着いたら連絡するから待ってて」


「何時に帰るの?10分後?それとも20分?」



こんな風に急かされるのは嫌だ。芽衣の優香ちゃんへの気持ちが嫌でうんざりする。

今日会った子達と全く同じ態度で、優香ちゃんをちゃんと知って欲しいのに知ろうとしない芽衣にため息が出てしまった。



「ため息…呆れてるの」


「・・・」


「私は優香が私達の間に入るのが嫌なの!」


「水希ー」


「あっ、お姉ちゃんが呼んでるからまた後で連絡するね。遅くなるかもしれないから、帰ったら一度LINEするよ」



芽衣の態度に言葉に疲れた。芽衣は中学の時のに抱いた嫌悪感から抜け出せていない。

でも、芽衣は優香ちゃんを友達だと私に言った。優香ちゃんが寂しそうに言った「私が友達と思っていた人は私のことを友達と思ってなかったのかもしれません」が苦しいよ。



「芽衣ちゃんに電話してたの?」


「うん…」



お姉ちゃんの口から芽衣の名前が出た時、優香ちゃんが寂しそうな顔をした。

私は友達って何だろうと考える。私は…友達=大事な人だ。大事にしたい人達。

友達は生涯の宝物であり、苦しみや楽しさを共有できるなくてならないものだと思う。


芽衣の優香ちゃんへの嫌悪感をとっぱらうにはどうしたらいいだろう。私が芽衣のために優香ちゃんと距離をとるのは嫌だ。後悔するって分かってることをしたくない。

それに、また芽衣が嫌がる子が出てきたとき同じことの繰り返しになる。


お姉ちゃんが言った言葉を思い出す。私も仲良くなりたい人は自分で決めたい。

優香ちゃんは良い子で私が友達になりたいと思った子だ。辛い時は支えたいと思うし、みんなで楽しさを共有したい。

芽衣は怒ってるだろうな…電話を勝手に切っちゃったし。きっと、相当怒ってそうだ。



「ねぇ、この後どうするー?」


「せっかくだからオールしようよ」



佐藤先輩の言葉に早川先輩が提案を出す。きっとみんなで夜通し遊べたら楽しいだろう。

でも、芽衣に後で電話をしないときっと芽衣はまた激怒し、拗ねるかもしれない。

場の空気を考えると断れるはずもなく、悩んでいるとお姉ちゃんが私をチラッと見て高瀬家で朝まで遊ぼうと提案してくれた。


私の態度に何か気づいてくれたみたいだ。お姉ちゃんの優しさに感謝する。

自宅だったら芽衣に電話をしやすいし、家に帰ったよと嘘をつかず言える。

そして、流石先輩達だ。私とお姉ちゃんをチラリと見てお姉ちゃん同様気づいてくれた。笑顔で「菜穂と水希の家に行くの初めてだね」なんて優しすぎる。



「水希、ちょっといい?」


「うん」



私はお姉ちゃんにみんなから離れた場所に連れて行かれ、お姉ちゃんらしい言葉で質問をされる。ここまで直球だと私も言いやすい。



「芽衣ちゃんって…優香ちゃんのこと嫌ってるの?」


「芽衣の心は流石に分からないよ。でも、芽衣は優香ちゃんを敵対視してる」


「優香ちゃんって芽衣ちゃんの中学時代の友達よね?あっ、もしかしてあの子達と同じ理由で?」


「そうみたい」



芽衣は優香ちゃんのことを嫌いではないと思うけど、嫌悪感が強くそのせいで目と心を曇らせてしまっている。



「中学時代は仲は良かったのよね?」


「多分」


「きっと、大事な人ができて急に恐怖心が出てきたのかもしれないわね」


「芽衣の気持ちも分かるよ。だけど、私は芽衣の気持ちを汲んであげたいけど優香ちゃんと距離を取りたくない。だって、良い子だもん。だからこそ、芽衣にもちゃんと優香ちゃんを知って欲しい」


「頑張るしかないわね」


「芽衣が帰ってきたらしっかり話すよ」



恋は友情を壊す。優香ちゃんはそれに気づいてなかった。でも、今はお姉ちゃん達がアドバイスをして理解をした。

もう昔の優香ちゃんではない。だからこそ叱ってくれる友達の重要性がよく分かる。


私は芽衣の中学時代を知らない。芽衣は私の知らない部分を知り不安になっていた。

私もいまそんな気持ちだ。だからこそ、ちゃんと芽衣と話したい。電話だと芽衣はすぐに怒っちゃうから面と向かって話し合いたい。


神社から自宅に帰る電車の中で見た夜景が急に寂しさを醸し出す。明るい灯りが減り、もう寝ている家も多いのか時間の流れを感じる。

時刻は1日の1時半。芽衣はまだ起きてるかな?電話を切った後、芽衣からLINEも来ていない。もしかしたら怒っているのかも。



「水希ちゃん」


「優香ちゃん、どうしたの?」



お姉ちゃん達は私の部屋にいる。私は芽衣に電話をするため廊下に出てきた。

芽衣に家に着いたよって電話する直前で、私は気づいてなかった。ボタンを押して芽衣に電話をしてしまっていたことを。

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