第410話

私は背中を丸め落ち込む優香ちゃんの背中を撫でる。私としては慰めていたつもりだけど、私の目の前に座っているお姉ちゃんの目がギラリと光ったので手をそっと下ろした。

怖すぎる…今にもグルルと威嚇する声が聞こえてきそうだ。牙が見えた気がしたし。



「優香ちゃんはその奪った相手とは今も続いてるの?」


「いえ、すぐに別れました…」


「あー、そうなんだ。うん、周りの子は怒るよ〜。遊びで奪われたと思っちゃうもん」



早川先輩が軽いタッチで大学芋を食べながら優香ちゃんに質問をする。

恋の長さなんて人それぞれだけど、奪われた人からしたらきっとムカつくよね。

きっと、優香ちゃんの行動は友達の恋人を奪っておきながらすぐに別れて、また新たな恋をして【また】人から奪おうとする人。略奪魔だと思われてそうだ。



「イジメとか大丈夫?」


「イジメはないです。ただ、無視をされて…辛いですが年上の従姉妹が同じ学校で一緒にお弁当とか食べてくれるので」



私がずっと不安だったことをお姉ちゃんがズバリと聞いてくれて安心した。

イジメは理不尽なもので私が大っ嫌いなものだからだ。もし、優香ちゃんがイジメられていたら考えるだけで反吐が出る。



「その従姉妹は来年には卒業でしょ。これからどうするの?このままでいいの?」


「それは…」


「ねぇ、宮田ちゃん。1年の頃からクラスメイトに無視されてるの?」


「はい、、クラス替えが無い学校なので。でも、クラス替えがあってもきっと変わらないと思います…」



もし、優香ちゃんがもうそんな恋をしないと決めても周りの人達はきっと信じない。

一度植え付けられた嫌悪感はなかなか取れないからだ。芽衣が今、その状態にある。



「あの…その子と仲良くしない方がいいですよ」



優香ちゃんのクラスメイトが私達に急に声を掛けてきた。近くでずっとこっちを見てるなとは思っていたけどまさか、突然こんなことを言うなんて…本気で呆れる。



「それはなぜ?」


「彼氏がいたら奪われるからです」


「それは私達に忠告ってこと?」


「はい、そうです」



お姉ちゃんと言葉を交わす女の子は優香ちゃんを軽蔑した目で見る。この子の気持ちも分かる。優香ちゃんの恋の仕方は他の子からしたら悪でしか無い。

それでも、一度中身を知ったらその印象は変わる。優香ちゃんは猪突猛進だけど全く聞き入れないタイプでも無いし、根は良い子だ。


周りがおかしいと思うなら、優香ちゃん自身が気づけてないなら、誰かがアドバイスするなり、指摘してあげたら変われていた。

嫌悪感という大きな壁が良い部分を全部隠してしまった。もっと広い心を持てとかは思わない。でも、一度だけでもいいから自分で優香ちゃんを知ろうとしてほしかった。



「この子、淫乱ですよ。すぐに男と付き合って、略奪が趣味だし、、」


バン!


「いい加減にしろ!あー、流石にイラつく。人の悪口をペラペラと話して、妄想を真実のように話すあんたに呆れる」


「水希、落ち着きなさい。それと…ふん、私に忠告なんて100年早いわよ。私に見る目がないと思ってるの?貴方の100倍はあるわよ。仲良くなりたい人は私自身が決める。それに、妹の友達に悪い人なんていないの」



お姉ちゃん…大好き!って感動してる場合じゃないけど、やっぱり嬉しい。



「ねぇ、君は一度でも宮田ちゃんと話したことがあるの?最初に聞かされた話で嫌悪感を抱いて、勝手に妄想を増幅させてない?」


「それは…」


「優希、真面目な顔をして話したら怖がられるよ。ほら、笑顔で話さないと。ふふ。私ね、人の悪口を平気で正義感をかざしたように言う人が嫌いなんだ。正義感を突き通したいなら、ちゃんとやりなさい。貴方のしてることは馬鹿がする行為よ」



佐藤先輩、早川先輩が本気で怒っている。綺麗な人が怒ると恐ろしく、お姉ちゃんで見慣れているけどやっぱり怖い。



「ごめんなさい!私が、、周りの人達に酷いことをしてるって分かってなくて。私、一度好きになっちゃうとどうしても諦めきれなくて振られたら想いを打ち消すことができるって自分本位のことしか考えてなかった」


「私もごめん…嘘ついた」


「私が悪いの。友達の彼氏を奪ったのは本当だから。でも、そんな恋…上手くいくはずなくてすぐに別れて、みんなを傷つけた」



優香ちゃんがやっと想いを伝えられ、優香ちゃんの心の中を知った女の子達の顔つきが変わる。やっと先入観が取れたみたいだ。



「ちゃんと優香ちゃんと話してみてほしい。私も最初、先入観があって冷たい態度をとって…凄く後悔した。自分が情けなかった」



言葉って簡単に自分を支配し、相手も支配する。聞かされたことが全てじゃないのに目を曇らし、相手のことを見ようとしなくなる。

私はそんな自分に気づいたとき恥ずかしかったし、本気で情けなかった。



「宮田さん…今度、一緒に遊ぼう。ちゃんと宮田さんのこと知りたいです」


「うん!ありがとう、、ごめんね」


「もし、何かあったら水希を呼びなさい。水希がいたらどんなに空気が悪い所でもカラフルなお花畑になるから」


「えっ、それって馬鹿っぽくない…はははって笑いながらスキップしてはしゃいでるシーンが思い浮かぶ」


「ハハハ、水希って確かにそんなイメージがある」


「ふふ、花の冠を頭にかぶってそうだよね」



お姉ちゃんのせいで佐藤先輩と早川先輩に笑われた。でも、私とお姉ちゃんの会話に優香ちゃんも女の子達も笑っている。

やっぱり顰めっ面より笑顔でいる方が楽しい。カラフルなお花畑が好きだ。

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