第411話

ここに負けられない戦いが始まる。



ボーリングにカーブなんて必要ない。とりあえず真っ直ぐ投げればなんとかなる。

なのに、私の投げたボールは一直線に溝に落ち画面にG(ガーター)という文字が映る。

ボーリングが…難しすぎる!どうやったら真っ直ぐ投げられるのか、カーブするのかも分からず思い通りに投げられない。



「水希ーの下手くそー」


「お姉ちゃんに言われたくない!」



床に四つん這いになって悔しがる私に対し同じチームのお姉ちゃんが暴言を吐く。

全く酷い姉だ。お姉ちゃんもさっき2本ともガーターを出したくせに私には文句を言う。


これは非常にまずい状況で、この勝負は負けられない戦いなんだ。でも、3対2の戦いってのが既にずるい気がする。

高瀬姉妹はとんでもないことをしそうだからって勝手にコンビを組まされたのに。



「ボーリング難しいー!」


「水希、絶対に罰ゲームを阻止するわよ!」



このボーリング勝負にはある罰ゲームが組み込まれている。お芋屋さんで私が当てたお芋セットをたらふく食べて、みんなで遊ぼうと来たのがボーリング場で…失敗した。

私とお姉ちゃんは実はボーリングを幼少期に一回しかしたことがなかった。


でも、周りの人達も簡単そうにボールを投げるから余裕だろうと思っていたら難しく、運動神経抜群のお姉ちゃんも苦戦している。

このゲームは勝負だから敵対する佐藤先輩・早川先輩・優香ちゃんはやり方を教えてくれない。なんて非情な人たちなんだ。

私達のガーターをケラケラと笑い酷すぎる。



「お姉ちゃん、どうやったら真っ直ぐ投げれるの…一直線に溝に行く」


「分からないわよ、私だって真っ直ぐ投げれてないのに」



この勝負は負けられないし負けたくない。優香ちゃんが楽しそうにボーリングをしている姿を見れるのは嬉しいけど罰ゲームが酷いから負けられない。

絶対に嫌だもん!語尾を「〜アル」「〜ぴょん」なんて言いながら話したくない。



「水希は負けたらぴょんで、菜穂はアルで話してね〜」



くそ…佐藤先輩が煽ってくる。そして、飄々とボールをレーンに投げボールが真っ直ぐ行きピンを倒していく。



「やったー!ストライク!」


「優希、ナイス!」


「凄いです!」



隣のレーンから楽しそうな声が聞こえ、私とお姉ちゃんは焦り必死に周りを見渡した。

何かやり方があるはずだ。このままガーターを出し続けるのだけは嫌だ!



「水希、やり方が分かったわよ。体と腕を真っ直ぐにして投げるといいみたい」


「えっ、でも私は真っ直ぐな状態で投げてたよ」


「ボールを持つ手が投げる時、傾いてるのよ。ボールを離した指先も真っ直ぐしなきゃいけないみたい」



お姉ちゃんはなりふり構わずネットで調べたことを教えてくれた。負けず嫌いのお姉ちゃんは常に真剣勝負で挑む。

私も負けたくない。語尾に「ぴょん」なんて恥ずかしくて話せなくなる!



「うりゃー」



お姉ちゃんが顔に似合わない声を出しながらボールを投げた。初めて真っ直ぐボールが投げられ私達は歓喜する。

でも、ボールが真ん中を突き抜け両脇にピンが残る。これはかの有名なスプリット!



「お姉ちゃん、あと2本倒したらスペアだよ…頑張って」


「大丈夫、さっき調べたからいける!」



お姉ちゃんは運動神経抜群で、私もそこそこ運動神経がよい。でも、そんな2人がコンビを組んでも勝てない競技もある。

ボーリングがこんなにも難しい競技なんて知らなかった。悔しいぴょん。負けたぴょん。



「私達の大勝利〜。菜穂と水希は語尾にアルとぴょんを使ってしばらく話してね」



佐藤先輩が楽しそうに勝利宣言をし、負けたショックで落ち込む私達に追い討ちをかける。早川先輩はとびきりの笑顔で喉が渇いたしカフェに行きましょなんて言ってくるし美人の悪魔はタチが悪い。


私はピンに文句を言いたい。スプリットって何!何で真ん中がパカって割れるの!投げ方のコツを掴んだ私達はなぜか常にスプリットになり、残りのピンを一本も倒せなかった。

頑張ったのに…本気でお店の人が仕組んだ罠だと疑ってしまうスプリットの数だった。



「お会計するアル…」


「ハハハ、菜穂がアルって…やばい、お腹痛い」


「私もお腹痛い。菜穂がアルって…ふふふ、ハハハ、笑いが止まらない」



佐藤先輩と早川先輩がお姉ちゃんの言葉にお腹を抱えて笑っている。確かにあのお姉ちゃんが〜アルって私も笑ってしまう。

でも、私も〜ぴょんって話さないといけない。めちゃくちゃ辛い、恥ずかしいぴょん!



「優香ちゃん…ボール片付けようぴょん」


「ふふふ、あっ、ごめん。笑うの我慢したいけど我慢できない」


「酷いぴょん、我慢してほしいぴょん」


「ずるいよー、わざと連発してる」



私とお姉ちゃんが喋るたびに3人が大笑いをしお腹を抱える。お陰で私達は周りからチラチラと見られ恥ずかしかったぴょん。

でも、私とお姉ちゃんの罰ゲームはまだまだ続くぴょん。喉は乾いたけど、カフェでぴょん語で話し続けるのは嫌だぴゃん…ぴょん!

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