第409話

まだ今日は大晦日のお昼の時間なのにお参りをしている人達が沢山いる。

特に学生が多く、絵馬には高校・大学受験生の願いが沢山書いてあった。

私は500円玉に強い願いを込めてお賽銭箱に入れる。大事な500円。久しぶりに手が震えた。



「水希ちゃんはもう行きたい大学決めてるの?」


「うん、東條大学に行きたくて」


「凄いな、私はまだ何も考えてない」


「ゆっくりでいいと思うよ。それに突然、将来のことを決める瞬間ってあるし」


「うん、ありがとう」



参拝が終わり、私達は待ちに待ったお芋屋さんに向かった。せっかくウキウキした気持ちでいたのに一気に楽しい気持ちを潰される。

電車で会った女の子達が店内におり、また私達をチラチラと見てぶつぶつと呟く。


同じ駅で降りたから偶然会うことはあると思うけど、出来れば会いたくなかった。

あの視線と態度は私もムカついてくる。優香ちゃんは気まずそうにしてるし、でもそんな時お姉ちゃんがいると本当に心強い。


お姉ちゃんが優香ちゃんに「あの子達は知り合い?」と聞き、優香ちゃんが「クラスメイトです」と言った途端ツカツカと歩き出し、女の子達の前で仁王立ちする。流石女王様、立ち姿がカッコいい。



「貴方達、甘い大学芋を食べながら苦虫を潰したような顔をしない方がいいわよ。お店に誤解を与えるでしょ、そんな顔をしたいなら外でやりなさい」


「それは…」


「あっ!お姉ちゃん、クジで一等出た!」


「マジ!?水希、よくやった!」



お姉ちゃんが女の子に達に注意している間に私はお会計をしていた。早く大学芋を食べたいからとか決して意地汚い理由ではない。

そして、5周年記念として店員さんにクジを引いて下さいと言われクジを引くと一等と書いてあり私は店内でガッツポーズをする。



「一等の景品はお芋セットになります」


「ありがとうございます!」



意気揚々とお芋セットを受け取る。優香ちゃんも「凄いね〜」と笑顔で喜んでくれた。



「お姉ちゃん、お茶を買って向こうにあった食事するスペースで食べよう」


「それって、私達もいい?」


「私も食べたいな〜」


「えっ、、あっ、佐藤先輩と早川先輩!」



突然、背後から現れた佐藤先輩と早川先輩が私に腕組みをし笑顔でお芋を共有しようとハンターの如く狙ってくる。



「あれ、優希と望どうしたの?」


「望にここの大学芋が食べたいって無理やり付き合わされた」


「優希もノリノリだったじゃん。それに加奈子ちゃんがいないから暇してたくせに」



一気に私の周りが騒がしくなった。優香ちゃんは初めて会う先輩達に戸惑いながらも、イケメンと美女の2人に目を奪われていた。



「あれ?この子は?」


「あっ、私の友達の宮田優香ちゃんです」


「初めまして〜、水希の先輩の佐藤優希です。こっちが早川望ね」


「よろしく〜。優香ちゃんは水希の中学時代の友達?あっ、もしかして…水希にナンパされたとか!?」


「早川先輩!そんなことしません!」



久しぶりに会えたのにいきなりとんでもない言葉をぶち込んでくる大好きな先輩。でも、優香ちゃんが楽しそうでいい笑顔だ。

お姉ちゃん、佐藤先輩、早川先輩と元生徒会が集まると華やかになり周りが光り輝く。


優香ちゃんのクラスメイトも3人をキラキラとした目で見て、3人に囲まれる優香ちゃんを羨ましそうに見つめる。

その気持ちはすごく分かる。私も元生徒会のメンバーと一緒にいると鼻が高かった。


私達はお芋セットと大学芋を食べるためお店を後にした。途中、自販機でお茶を買いお芋セットを黙々と食べ始める。

めちゃくちゃ最高で、色んなお芋のお菓子を食べられ「美味しいね〜」と言い合った。



「ねぇ、宮田さん。さっきのクラスメイトと喧嘩でもしてるの?」



お姉ちゃんが大学芋を食べながらド直球の質問をし、優香ちゃんの手が止まる。

私はずっと優香ちゃんの寂しげにする姿の意味を聞きたかった。もしかしたらと思っていたみたいだけど当たっていたみたいだ。



「嫌われてます…」


「喧嘩でもしたの?」


「いえ、、中学のときのことで」


「優香ちゃん、もしかして同じ中学出身の子と同じクラスになった?」


「うん…」



やっぱりだ。きっとその子はクラスメイトに優香ちゃんは彼氏を取るって話したのだろう。最初にこんな話を植え付けられたら、優香ちゃんをみんな敵対視する。



「水希、何か知ってるの?」



私は先に優香ちゃんに謝り、芽衣に聞いた話をした。好きな人に恋人がいても諦めるために告白をする。それに、一度告白した相手が恋人を捨て優香ちゃんを選んだことを。



「そういうことね。宮田さん、それは宮田さんが悪いわよ。もし、恋人がいる人を好きになって想いを通すなら覚悟はしなきゃ」


「そうですよね…」


「これは宮田ちゃんが悪いね〜。私も自分の恋人にアプローチする人とは仲良くしたくないもん」



お姉ちゃんと佐藤先輩がズバリと優香ちゃんに言う。優香ちゃんは落ち込んでいるけど、2人の指南は優香ちゃんにとって大事だ。



「私はただ諦めたくて…でも、自分のことしか考えてませんでした」


「宮田さん、一つ聞いていい?誰か止めてくれる人はいなかったの?友達とか」


「いえ…もしかしたら、私が友達と思っていた人は私のことを友達と思ってなかったのかもしれません」



胸が痛くなる言葉だ。芽衣と優香ちゃんは友達だ。ただ、芽衣は助言をしなかった。

芽衣なりの考えがあったのかもしれないし、こればっかりは私には分からなさすぎる。

でも、もしもと考える。優香ちゃんの行動を止めてくれる友達がいたらと。

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