第396話
尻餅をついた私とさわちんを仁王立ちスタイルで見下ろす後輩の朱音ちゃん。
その背中には黒い翼ではなく、白く大きな翼が見える。まるでルシファーのようだ。
「守田さんは元バレー部で、今日は顧問の先生に会いに来たんです」
「そうなんだ…」
「高瀬先輩、真里の浮気を疑ってましたね」
「疑ったのはさわちんだよ!」
「バカ!疑ってないよ!ただの問いかけ」
私は真里ちゃんは絶対に浮気なんてしないと思っている。真面目だし、何より朱音ちゃんのことを大事にしている。
だから、さわちんの問いかけを否定したのに朱音ちゃんの視線が冷たい。
「まぁ、いいでしょう。でっ、ここでお二人は何をしているんですか?」
「ランニングです…」
「私は水希に誘われて一緒に走ってるの!」
さわちんめ、朱音ちゃんの視線を全部私に向けさせるつもりだな。なんて酷い友達だ。
「それでは、ランニングついでに私と話しをしませんか?」
「話?」
「はい、どうやったら身長の小さな人に勝てるのかを。そして、魅力を教えて下さい」
この手の話はモジモジしながら、自信なさげに言う質問だと思うけど、朱音ちゃんはふんぞりかえって聞いてくる。まるで、お姉ちゃんみたいで私もさわちんも萎縮している。
「お二人の恋人は身長が小さいですよね」
「あー、確かに。芽衣が150センチで未来ちゃんが152センチだっけ?」
「153センチだよ。間違えると未来に怒られるよ。この前、間違えて叩かれたし」
未来ちゃんも芽衣と同じで身長を気にしているみたいだ。芽衣も身長を揶揄うと怒る。
「私は164センチあるのですが、バレー部では低い方でもっと大きくなりたいと思っていました。でも、真里の小さいもの好きは全然治らないので最近は小さい人に憧れます」
「別に気にしなくてもいいと思うよ…」
「ダメです!じゃ、何で高瀬先輩は植村先輩と付き合ったんですか!少しは小ささに惹かれ可愛いと思いましたよね?」
「それは…思ったかな」
私が芽衣に一番に惹かれたのは顔の可愛さで二番目が身長の低さだった。別に容姿で好きになった訳ではないけど惹かれたのは事実。
「まぁ、身長が小さい人って守りたくなるよね。未来を抱きしめるとすっぽり腕の中に入るのが好きだもん」
私もさわちんに同意見だ。芽衣を抱きしめると小ささを実感でき、愛しさが倍増する。
ずっと抱きしめていたくなり、常に抱きしめていたいし持ち帰りたくなる。
「もし、お二人は恋人の身長が大きかったら惹かれていましたか?」
「うん、惹かれてたと思うよ」
「私も。別に未来が小さいから好きになった訳じゃないし」
「えっ…そうなんですね」
身長が低くても高くても芽衣は芽衣だ。もし、芽衣の身長が急に高くなっても芽衣への愛は変わらないし、これからも愛は増え続けていくだろう。
「ねぇ、ひとつ疑問なんだけど守田さんって身長は未来達と変わらないじゃん。でも、バレー部なんだよね?どのポジションなの?バレーに詳しくないからさ」
「守田さんのポジションはリベロです」
「リベロ?何それ?」
「さわちん、漫画のハイ○○○‼︎も見たことないの?リベロってめちゃくちゃ重要なポジションで、どんなスパイクでも拾う姿がカッコいいからバレーの試合見てよ!」
「高瀬先輩はバレーが好きなんですか?」
「お母さんが元バレー部なんだ。だから、小さい頃からテレビの試合をよく見てるの」
元バレー部のお母さんはお姉ちゃんと私にバレー部に入って欲しかったみたいだけど、お姉ちゃんは中学生の時から陸上部に入り、私はフラフラしてた。それに見るのが大好きで、応援したい派だ。
「好きな選手います?」
「木村選手がずっと好きだったな。今だったら、古賀選手かな。お母さんはね、高橋選手が好きだったよ」
「えっ!高橋選手…高瀬先輩のお母さんと話してみたい。私も高橋選手大好きです!」
朱音ちゃんの食いつきが凄い。歴代の選手の名前を出し私も過去の試合を思い出しながら話すと初めて尊敬の目で見られる。
「初めて高瀬先輩が素敵と思えました」
「えっ…」
嬉しいような嬉しくないような褒め言葉。さわちんが苦笑いしているから褒められていないかもしれない。
「あっ、守田さんがいつのまにか帰ってる」
「本当だ。じゃ、そろそろランニング再開しようか。朱音ちゃんも部活頑張ってね」
「はい、引き止めてすみませんでした」
キラキラとした目で朱音ちゃんに手を振られ、やっと生徒会長しての威厳がついた気がした。生徒会長になって約半年…長かった。
後ろを振り向いてもニコニコ顔でまだ手を振ってくれる朱音ちゃん。バレー好きで良かったと心からお母さんに感謝した。
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