第368話
夕ご飯をもぐもぐと食べているとお姉ちゃんが鼻歌を歌いながら「ただいまー」とリビングに入ってくる。
私のおかずを一つ取り口に入れ、お母さんに夕飯は明日食べると謝った。
お腹がいっぱいなのに私のおかずを取るなんて怒ってもいい案件だと思う。
「水希、これあげる」
「えっ?あっ、チョコだー。いいの?」
「お土産」
お姉ちゃんがコンビニで買ってきたチョコのお菓子を急いで冷蔵庫に入れる。パリパリチョコ派の私の通例儀式だ。
冷やしたことで固くなったチョコを口の中で溶けさせて食べるのが美味しい。
「お姉ちゃん、友達とご飯食べてきたの?」
「うん、恭子達とね」
今日のお姉ちゃんは機嫌がいい。今も鼻歌を歌っており、珍しい光景だ。「お風呂に入ってくる〜」の声のキーが高く、何かいいことでもあったのかもしれない。
さっき、さわちんとごんちゃんから変顔をした写真が送られてきた。水希のバーカと一言書いてあり私は喧嘩を売られている。
生徒会に入って仲良くなった2人。私としては嬉しいけど、2人は何かと私に敵対心を持つ。それにしても、このバーカの意味はそのまんまの意味としてだろうか?
2枚目の写真が私を戸惑わさせる。ピースした写真が楽しそうで青春を感じた。
2人が楽しそうだからいいかと思い、私も変顔の写真を送った。楽しさの共有だ。
もうすぐ10月が終わる。秋になると少しずつ日が暮れるのが早くなり夜が近い。
夕ご飯を食べ終わった私は食器を水につけ、洗いやすくする。最近、お母さんの家事の仕方を真似をするようになった。いつか芽衣と一緒に暮らす時の練習になるからだ。
ふんふんふんと鼻歌を歌いながら食器を洗い、最後に手をハンドソープで洗っているとお風呂上がりのお姉ちゃんが後ろから私の肩に顎を乗せる。今日のお姉ちゃんは子供だ。
こんな風にお姉ちゃんが接してくるのはいつぶりだろう?小さい頃に戻った気がした。
「ねぇ、比奈乃ちゃん元気にしてる?」
「比奈乃?元気にしてるよ」
「いつか日本に帰ってくるかな?」
「どうだろ〜?でも、久しぶりに会いたいな。ずっと手紙でのやりとりばかりだし」
「浮気したらダメだからね」
「何でそうなるの。比奈乃にはちゃんと恋人がいるし、この前も手紙で惚気られたよ」
比奈乃とは比奈乃がイギリスに行ったきり会えていない。お金を稼げるようになったら会いに行くねって手紙でやりとりをしているけど、なかなか厳しい金額だ。
「絵の勉強しようかな」
「お姉ちゃん、急にどうしたの?」
「漫画を描きたくなってきた」
「でも、お姉ちゃんは絵下手じゃん」
「そうなのよ、、唯一苦手なのが絵なのよ」
悔しそうな顔をするお姉ちゃんは負けず嫌いだ。頑張れば上達をするかもしれないが、絵に関してはすでに諦めている。
「描きたい話でもあるの?」
「うーん、面白そうだから」
「じゃ、文字で書いたら?小説とか」
「そっか、絵がダメなら文字があるか」
楽しそうに笑うお姉ちゃんが何を書くつもりなのか少しドキドキする。お姉ちゃんは時々突飛なことをするからだ。
そんな私の思考を読み取ったお姉ちゃんが私の腰をくすぐる。私の弱い部分を完璧な把握しているから私はひたすら「やめてー」と悶えるしかなかった。
「水希、大きくなったね」
「はぁはぁ…そうかな?」
「中学生の時は私より5センチ以上も小さかったのに今は変わらないし」
背丈が同じぐらいのお姉ちゃんが、今も私の背中に引っ付いている。お姉ちゃんの顔が私の顔の位置にあり、お姉ちゃんからシャンプーのいい匂いがして変な感じだ。
「水希、勉強頑張りなさいね」
「えっ…うん」
「東條大学に必ず受かるのよ」
「頑張る。芽衣と同じ大学に行きたいし、お姉ちゃんや恭子先輩もいるし、晴菜さんみたいに…空を飛びまわる仕事をしたいから」
「じゃ、英語を頑張らないとね」
晴菜さんに出会って私はやってみたいことが見つかった。まだ曖昧な部分はあるけど、空を飛び回りたい。海外志向が強くなった。
きっと、お姉ちゃんも数年後には晴菜さん同様、空を飛び回る仕事につきカッコいい大人になるだろう。私もお姉ちゃんに負けないようにしないと。色んな世界の空を見たい。
「私ね、イギリスに行きたいんだ。久しぶりに比奈乃に会いたいし、イギリスの空を実際に見てみたい。比奈乃が送ってくれた写真のイギリスの空が綺麗で憧れてるから」
「私はドイツかな。晴菜さんが卒業前の旅行でドイツに行く予定で、行きたい場所を写真で見せてもらっとき景色の綺麗さに感動した。だから、私も大学の卒業前の旅行にドイツに行くと決めてる。だから、沢山バイトして、英語の勉強を頑張らないと」
「ドイツってドイツ語じゃないの?」
「英語は万国共通語なのよ」
「あっ、そっか」
晴菜さんのお陰で大嫌いだった英語が好きになり、今は積極的に勉強している。
勉強が楽しいって思えるようになり、目標もできた。夢もでき、未来が楽しい。
(後日談)
お姉ちゃんがある無料で小説を書けるサイトで【リアルは小説より奇なり〜なぜモテ街道を爆進する妹の青春日記〜】と言うタイトルの小説?日記?みたいな文章を書き始めた。
これはどう考えても私のことだ。お姉ちゃんが書きたかったことって…私の暴露本!?
姉はやっぱり不思議な人だ、だけど本気で勘弁してほしい。芽衣にバレたら…叩かれる。
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