第341話

ドキドキする。私の名前があちらこちらから呼ばれ、背中に変な汗をかきそうだ。

私は気を引き締めるためにネクタイを締めなそうとする。だけど、やり方がわからず頭を捻る。ネクタイの長い方や短い方を引っ張ったけど何も変わらない。



「水希、ネクタイを締めたいの?」


「うん、どっちを引っ張ればいいの?」


「違うよ、こうするの」


「あっ、そうなんだ。ひかる、凄いね」


「小さい頃からお父さんのネクタイを締めるのが好きなんだ」



なんて、親思いの良い子なのだろう。ごんちゃんめ、こんなに良い子を悲しい顔をさせたのがやっぱり許せない。

イケメン2人がひかるに告白をし、落ち込んでいた姿を見て反省させることが出来たと思ったけどやっぱりまだムカつく。



「水希って、ネクタイ似合うね」


「そうかな?」


「うん、カッコいい」


「へへ、ありがとう」



私はオチ要員だから笑いに行こうと思ったけど、普通で良いかなと思えてきた。

どうせ思いつかないし、ひかると話せたことでリラックスでき私なりの告白をしたくなった。照れるけど本気の告白をしてみよう。



「ひかる、一世一代の告白をするね」


「期待してる」



これは頑張らないといけない。ひかるをガッカリさせないようにと思っていたけど…お客さんの視線がいつのまにか私達に注がれている。まだ、告白してないのに何でだろう?


真里ちゃんは苦笑いしてるし、司会の子は発狂しそうなぐらい悶えている。佐藤先輩はニヤニヤと笑っていて、お客さんの方からキャーと聞こえてくるし、まだ何も言ってないのに何が起きているのか分からない。



「そ、そ、それでは高瀬生徒会長の告白をお願いします。うふふ、、はぁ…最高」



私が芽衣に告白した時、いきなりキスして告白したから少し異質で普通の告白をしたことがない。だから、少女漫画で見るみたいな普通のキュンとくる告白に憧れていた。

懐かしい気持ちになる。ちゃんとひかると向き合って話すのが久しぶりで、ひかるとごんちゃんが付き合いだしてからはごんちゃんのヤキモチに困らされていた。


私は軽く深呼吸し、ひかるを見つめる。おちゃらけない告白ってめちゃくちゃ照れる。緊張を落ち着かせるため、一度上を向き頑張ろうと意を決した。

一度ひかるの名前を呼び、照れ笑いする。ひかるも照れ笑いし互いに目を細めた。



「ひかるが大好きです。私は頼りない所もあるけど頑張るから、絶対に幸せにするから私と付き合って下さい」


「ふふ」


「あっ、ひかる笑わないでよー。頑張って告白してるのに」


「だってー」


「返事聞かせてくれる?」


「勿論、OKだよ」


「本当?ひかるを大切にするね。覚悟してね、ひかるを一生離さないから」


「私も一生離れてあげない」



私は恋愛映画みたいな告白の台詞を言い、ひかるも私の告白にノッてくれた。普段、ひかるは大人しい感じだけど意外にノリが良くお笑いが好きで面白い子だ。

だからこそ、私もノリノリで言えたけど1つ気になることがある。佐藤先輩や真里ちゃんが告白している時は観客からキャーとか聞こえてきたのに何も聞こえてこない。


もしかしたら私の告白は地味だったのかもしれない。ただ立って告白しただけだし…オチ要員なんだからやっぱり面白系の告白にした方が良かったのかも、、失敗してしまった。



ギャー!!!キャー、パチパチ!!!



あれ、急にみんなが騒ぎだした。雄叫びに近い声が聞こえてきて、変な熱量を感じる。

大きな声と大きな拍手が鳴り止まず、司会者の子が壁に向かって必死に深呼吸している。

今日一番の熱い空気になり、最高潮のボルテージとなった会場に私は引いてしまう。


佐藤先輩からは「やっぱり水希は凄いわ」と言われ、真里ちゃんからは「流石です!」と言われ苦笑いしか出来ない。

ひかると苦笑いしながら観客を見ているとごんちゃんがいなかった。どこに行ったのだろうと探したけど進行が進み諦める。



「えー、それでは告白大会のグランプリを決めたいと思います。もうこれはですね、納得のいくグランプリだと思います。素晴らしい告白で一番声援が凄かった高瀬生徒会長の優勝です!!!ナチュラルな告白、笑顔、照れ笑い、距離感、、どれも素晴らしすぎる。

あまりにもお二人がお似合いすぎて、発狂しそうになりました。それでは、皆さん盛大な拍手をどうぞ〜。おめでとうございます!」



私がまさかグランプリを取るなんて…よっしゃ!高級シュークリームゲット!

ごんちゃんを懲らしめられたし、シュークリームもゲットしたし最高だ。

ひかるも笑顔になり、るんるん気分でみんなの拍手に手を振りステージ裏に戻るとお姉ちゃんになぜか叱られる。



「水希はいつも私の予想を越えすぎ!」


「えっ、何が…」


「天然のタラシはやっぱり危険だわ」



お姉ちゃんに急に怒られ意味が分からないし、天然のタラシって…私は告白大会を頑張っただけなのに酷い言い草だ。

お姉ちゃんはブツブツと「朝倉さんを軽く懲らしめるつもりが、水希のせいで」と怒っている。

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