第336話
軽音部のライブまであと10分。楽器等は軽音部の先輩達がすでにライブ会場まで運びセッティングしてくれている。
私は最終チェックとして衣装の汚れがついてないか確認し芽衣の鏡で髪を整えた。
軽音部のみんなで輪になり気合いを入れる。絶対に成功させるぞ!と気合いを入れ、後はライブ会場に向かうだけだ。
緊張する、私は人前で歌うのが苦手で何度もこの緊張を乗り越えてきたけど今までと盛り上がり方が違う。今回は生徒の家族もいる。
外からはBGMが流れており、私の緊張をさらに増幅させる。生徒会長として失敗できないし、ごんちゃんが作った良い曲を私のせいでダメにしたくない。
特に花に例えると君はブルースターは、ごんちゃんがひかるを思って書いた歌詞だ。
ちゃんと想いを伝えたいから頑張らないと。
「みんな、準備はいい?」
さわちんが呼びに来てくれて、私達はライブ会場に向かった。芽衣やひかる、お姉ちゃん達はすでにライブ会場で私達を待っている。
ドキドキが止まらない。みんなの前に立った途端、緊張で声が上擦りそうで怖い。
「水希、頑張ろう」
「うん。頑張る!」
ごんちゃんと頑張ろうと言い合い、拳同士を合わせた。ちょっと映画の真似事みたいで照れくさいけど気合が入る。
「皆さんー!お待たせしました。まもなく軽音部のライブを始まります!準備はいいですか〜?私はちゃんと喉を潤してきました!」
BGMが止まり、私達はステージに立った。みんなの声援が凄く緊張するけど、興奮も強く芽衣の姿を見てホッとした。
お姉ちゃんは不思議な人だ。横暴であり、裏マフィアのような女王様でもあるけどプロデュース能力に長けている。
お姉ちゃんが持ってきた衣装が好評だ。「可愛いー」って声が沢山聞こえる。
熊の着ぐるみでもなく赤色の制服でもなく、ちゃんとしたステージ衣装。
最初は制服で歌う予定だったけど、この衣装をお姉ちゃんが持ってきてみんなのテンションが上がった。最初は悪ふざけで遊ばれたけどちゃんと真面目に考えてくれて嬉しい。行動力も凄いし、やっぱり姉には敵わない。
「こんにちは、軽音部です。今日は軽音部の野外ライブに来て下さりありがとうございます。文化祭に向けて今日まで頑張って来ました。今回は新曲も増え、4曲歌わさせて頂くこととなり緊張しています。陸上部であり生徒会長の高瀬水希もまたボーカルを務めてくれて感謝です。私としてはこのまま軽音部のボーカルをずっとやって欲しいと思っているのですが本人は毎回駄々をこねて嫌がります。でも、お菓子をあげるとボーカルをやってくれるので攻略法が簡単なんです。あっ、高瀬水希に何かをやって欲しい時はお菓子ホイホイを使って下さい」
部長のごんちゃんが笑いをとりながら流暢に挨拶をしている。凄く成長を感じ感動する。ひかるも目がハートだ。
だけど、お菓子ホイホイってのが酷い。私は決してお菓子では釣られない。男装喫茶は…たまたまであり、お手伝いをしただけだ。
「えー、今回もボーカルを務めさせて頂く高瀬水希です。決してお菓子ホイホイには引っかかりません!以上です」
話をあんまり長くてはいけないと思い、私が一番伝えたかったことを話した。お姉ちゃんや芽衣達から冷たい視線が来たけど次こそは大丈夫と言い聞かせて。
挨拶を終えた私達はそれぞれの位置に着く。私はキーボードの前に座り息を整えた。
一曲目はミクロモザイクだ。私が芽衣との恋を歌詞にした曲でお気に入りの曲。
指が震えそうだ、、でも、私の前には芽衣がいる。芽衣に頑張るねと笑顔を作った。
「一曲目はミクロモザイク、二曲目はThe Ghost on the Shoreを歌います。もし、歌える方がいましたら口ずさんで下さい」
ごんちゃんが曲紹介をする。私は鍵盤に置く指に力を込める。ミクロモザイクはピアノの音色が主だ。私が頑張らないといけない曲。
♫♪♩〜
一斉にメロディーが鳴る。この曲は緩やかな曲で明るいけど切なさがある曲。
芽衣との恋に悩んだ時の心情を書いた歌詞で苦しかった夏の思い出を思い出す。
初めての恋はまさかの女の子で、散々悩んで葛藤してこの時の思い出は苦しかったことが多い。私なんてを繰り返し、何度も諦めようとした恋。誰かを好きになることがこんなにも苦しいなんて知らなかった。
ロウソクの炎の様にゆらゆらと揺れ
ハッピーエンドで進むと思った物語は
あっさりと打ち砕かれる
嘘のない言葉はどうすれば伝わる?
ノイズのない世界はどこにあるの?
片道切符の電車に乗り真っ直ぐ進みたい
夏の恋は私を焦らせる
ミクロモザイクの歌詞のように付き合った後もハッピーエンドで進むことがなかなかなくて私の芽衣への片道切符の電車が何度も止まった。喧嘩をする度に急停止し、また走らせるを繰り返し今も同じ事を繰り返している。
それでも、もうあの頃とは違う部分もある。芽衣が大好きで大好きで大好きだと永遠に誓えるこの強い気持ち。
ミクロのような君に出会い成長できた。植村芽衣さんが世界一大好きです。
だから、こんな私で良かったらこれからも一緒にいて下さい。そばに居てもいいですか?
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