第315話
今日は朝から憂鬱で、今にも涙が出そうだ。鏡の前で何度も涙腺強くなれと思うけど、すぐに涙ぐんでしまう。今日で、大好きな先輩達が部活を引退する。
寂しい、、寂しくてなかなか洗面所から出れない。部活の先輩でもあるお姉ちゃんに泣きそうな顔を見られたくなかった。
そんな私の心中を察することなくお姉ちゃんが洗面所のドアを勝手に開ける。一言「遅刻するわよ」と呆れ顔で言われた。
お姉ちゃんの顔を見たら涙が引っ込み、私は一度顔を洗い頬を叩く。寂しかったら会いに行けばいいと決めたからだ。
制服をピシッと正す。終業式で私は生徒会長としてみんなの前で話さないといけない。ここで泣いてばかりいられない。
学校に行く前にお姉ちゃんにボソッとありがとうと言う。後でちゃんと言うつもりだけど、これはお姉ちゃんに対して言った言葉だ。
恥ずかしかったけど言えてよかった。お姉ちゃんに微笑まれ嬉しかったからだ。
卒業や引退って言葉は寂しい。でも、別れがあるから出会いがある。お姉ちゃん達は次の出会いを求めて旅立つ。
来年は私が旅立つ側で新たな後輩と出会う。寂しさと悲しさと嬉しさを胸に…うぇぇん。涙が止まらない。玄関で泣きじゃくる私に対してお姉ちゃんが呆れている。
「水希、遅刻するから行くわよ」
「ごめーん…」
「ほら、こっち向いて」
「ありがとう…」
「水希は相変わらず子供ね」
お姉ちゃんがハンカチで涙を拭いてくれて、子供の時と同じようにあやされた。
一歳差しか違わないのに、お姉ちゃんはしっかり者で私は甘えん坊で子供っぽい。
でも、お姉ちゃんに甘えられるのも妹して生まれた特権だ。普段、下僕だからこんな時ぐらい甘えたい。
「これじゃ、卒業したとき大変ね」
「言わないでー」
「まぁ、東條大学に受かったら私は実家から通うから家にいるけど」
「そうなの?」
「当たり前でしょ。今もバイトで自転車で通ってる距離なんだから」
「確かに…」
お姉ちゃんは確実に東條大学に受かるだろう。それに実は恭子先輩も東條大学を受けると聞いている(恭子先輩、頭がいいの)
私はバイトで恭子先輩に会え、距離も近いからいつでも会える。急に涙が引っ込んだ。
うん?あれ、私も東條大学に絶対に受かるつもりでいるけど一人暮らし無理じゃない?
実は芽衣も東條大学を受ける。芽衣の誕生日に東條大学を目指していると言うと、芽衣に私と同じ大学に行きたいと言われ、もちろん行きたい学部があるからだけど、私の頑張り次第でずっと一緒にいられる。
でも、2人で東條大学に受かったら…実家から通うの決定!!!私のイチャラブ生活が!
「ほら、そろそろ行くわよ」
「うん…」
嬉しさとガッカリが両方襲い、それでも気丈に頑張ると奮い立たした。芽衣と同じ大学に通う方が大事だ。イチャラブは家でも出来る。悶えるほど悔しいけど仕方ない。
「置いていくわよー」
「待ってー」
今日はいい天気だ。暑いくらい良い天気で私の涙の跡もすぐに乾いた。
学校に着くと、みんなウキウキとした顔をしており明日から夏休みだと実感した。
私は明日も部活でほぼ毎日学校通いだけど、部活のメンバー達に会えるから嬉しい。
「ふぁ、、水希、おはようー」
「ごんちゃん、おはよう。眠そうだね」
「新しいバイト先を調べてて、、寝たのが3時過ぎなんだ」
「バイト?なんで?」
「お金が欲しいから…」
もしかして、ひかるへの誕生日プレゼントためかな。昨日、ひかるの誕生日が8月だと教えたら喜びつつ来月!と苦悩の雄叫びをあげていた。だから、バイトを慌てて探してるのかもしれない。
「水希…芽衣に初めてプレゼントした時、ネックレスをあげたよね。値段いくらした?」
「2万円!」
「だよね…それぐらいの値段のプレゼントがいいよね」
あれ、、嘘の値段で「高いー!」と言われるため脅かそうと思ったのに素直に信じてしまった。ごんちゃんが純粋すぎる。
「ごめん…本当は税込で16500円です」
「そんなに変わらないよ」
「ごんちゃんがカッコいい…」
「ギターいくらすると思ってるのよ。安くても3万するの」
「えー、、マジか」
ごんちゃんはギターをやるから私より金銭感覚が上で、プレゼント代も2万円が当たり前だと思っている。
イケメンに見えてきた。だから、常にバイトをしていたのかと納得。
ひかるに対して熱い想いが見え、私は芽衣のプレゼントを買ったジュエリーのお店を教えた。手頃の値段の物が多く、きっと良いプレゼントが見つかるだろう。
ニコニコするごんちゃんに心の中でファイトと呟き、ため息をつく。やっぱり吉野ちゃんのことを思うと心苦しい。
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