第316話
あー、やっぱりダメだった。号泣して下しか向けない。隣にいる芽衣が慰めてくれるけど涙が止まらなくて、後輩の子が驚いている。
先輩達に泣きながら笑わられ、頭をぐちゃぐちゃにされ、寂しさと嬉しさに包まれる。
全校生徒の前では生徒会長として3年生に向けて部活についてお礼をちゃんと言えたのに今は言葉も出ないぐらい泣いている。
だって、ずっとお世話になっている先輩達を前にすると無理だ。寂しくて、悲しい。
「水希、泣くな」
「さわちん、無理ー」
芽衣に背中をさすられながら、子供のように泣きじゃくる。涙を止めたいけど涙が止まらなくて自分も本気で焦っている。
ちゃんと先輩達にお礼を言いたいのに涙が邪魔をする。嗚咽まで出てきてキツイ。
「水希、いい加減泣き止みなさい」
「お姉ちゃん…」
「生徒会長なんだからシャッキとしなさい」
「はい…ごめんなさい」
お姉ちゃんに怒られ、ようやく涙が落ち着いてきて呼吸ができるようになった。
「水希」
「恭子先輩…」
「背筋を正す!」
「はい!」
「水希の一番の魅力は笑顔なんだから笑え」
「へへ」
あれ、恭子先輩に苦笑いされた。でも、周りを見ると後輩ちゃん達の視線が少しだけ熱く優しい顔をしている。
芽衣とさわちんとお姉ちゃんの視線だけが冷たく、夏なのに凍えそうだ。
「恭子先輩、大好きです!」
「ありがとう。後輩に素直に好きって言われるの嬉しいね」
「お姉ちゃんも好き!」
「じゃ、今日の夕飯のいくらを頂戴ね」
「ダメー!私がいくらを好きなの知ってるじゃん」
「私のこと好きなんでしょ。それにこの前、私も唐揚げをあげたでしょ」
そんな、酷い。今日はお母さんに夕飯はお寿司よと言われ朝から喜んだのに一番大好きないくらがお姉ちゃんの胃袋に入ることが決定した。
悪魔だ、非情すぎる。がっくりと肩を落とした私に対して笑う姉の頭に角が見える。
お姉ちゃんのお陰で涙なんてもう流れない。ショックを受けている私を恭子先輩が諦めなさいと慰めてくれたけど心は癒えない。
芽衣に悔しいよーって言うと、私…いくらが嫌いだから気持ちが分からなくてと言われた。共感が出来ない悲しみ、辛すぎる。
きっとお姉ちゃんは本気で私のいくらを食べるだろう。言葉だけで済ます姉じゃない。
いくらー、私のいくら…大人になったら、稼いだお金でいっぱい食べてやると誓う。
さわちんからはお姉ちゃんとのやりとりがコントみたいと笑われたけど私は笑えない。
「あっ、最後に水希が締めてよ」
「何でよ、さわちんが部長じゃん」
「私はさっきお礼を言ったけど、水希は号泣して何も言えなかったでしょ」
確かに号泣していたからみんなでありがとうございますと言う時に私は下を向いていた。さわちんに背中を押され、3年生の前に行き深呼吸する。
「3年生の先輩方、沢山のことを教えてくださり、背中を見せて頂きありがとうございました。頑張って、先輩方のように立派な先輩になります!」
頭を下げ、また涙が出そうなのを我慢していると先輩達が手を叩いてくれた。
今度は泣かないぞと決め、頭をあげる。先輩達の顔が優しくてうるってきたけどなんとか我慢できた。
「じゃ、最後にお姉ちゃんからも!元生徒会長だし」
「はぁ?」
「早くー」
私はお姉ちゃんにいくらを取られるから仕返しのつもりで言った。でも、私はこのあとみんなに怒られ叩かれる。
「みんな、文化祭で完コピする曲を決めたから。二曲あるから頑張ってね!」
二曲?一曲じゃないの?それもお姉ちゃんが選んだであろう曲が振りが難しい曲で、ひかるが悲鳴をあげる。
衣装も楽しみにしてるわねと更にハードルを上げ、衣装作りも決定した。
痛い、みんなで叩かないで。主にひかるとさわちんが叩き、力が強くて痛い。
まさか、ここまで文化祭の出し物の主導権を握られるなんて思わなかった。
私は参加をしないから何でもいいけど、センターを務めるひかるは落ち込んでいる。
「ひかる、ごめんね…」
「水希なんて嫌い」
初めてひかるに嫌いと言われショックだ。私が本気で落ち込んでいると芽衣がアシストしてくれた。流石、私の彼女!
「ごんちゃん、、この曲好きだよね。二曲ともごんちゃんが好きなグループの曲だし」
「そうなんだ…そっか」
芽衣がごんちゃんの名前を出したらひかるの表情が少しだけ明るくなった。これが恋か。
「あっ、二曲目のセンターは芽衣ちゃんね。人数が多いから一曲目と二曲目は別々のメンバーで踊ることにしたの」
痛い、痛い。お姉ちゃんの発言で芽衣になぜか私が叩かれる。お姉ちゃんに文句が言えないみんなは私を代わりに叩く。
酷い、私は妹ってだけなのに…私は何もしてないのに(ダンスからは逃げたけど)
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