第313話
外が暑い。太陽がギラギラと照り、気温が高く汗が止まらない。日焼け止めをたっぷり塗り、私は走りまくる。恭子先輩と約束したから頑張らないと。
もうすぐ終業式だ。部活によって3年生の引退する月は違う。インターハイに行く人達は10月までするけど殆どの生徒は6月で引退する。陸上部は終業式が最後の日だ。
少しでも先輩達に頑張っている姿を見せたい。任せてもらえるよう頑張りたい。
日々が楽しすぎると1年が短く感じる。先輩達と会えなくなるわけではないけど部活で会えなくなるのはめちゃくちゃ寂しい。
でも、頑張らなきゃいけない。先輩に褒めてもらたいから頑張る。「水希、頑張ったね」って笑顔で言われたいからだ。
汗が地面に落ちていく。大量の汗をかき私自身を追い込む。他の人より何倍も頑張らないと追いつけないし勝てない。
頑張らなきゃ、私には時間が足りない。勉強も部活も生徒会長としてもやることが多い。
頭が熱くなってきたので、頭を冷やすため蛇口で水を出し頭から水を被る。汗ですでに髪は濡れていたから気持ちいい。
ついでに顔を洗っていると隣にさわちんが来た。さわちんも頭から水を被り「気持ちいいー」と濡らし始めた。
お互い髪が短いから濡らしても拭きやすく、乾きやすい。髪が短いゆえの特権だ。
タオルで髪を拭きながら、夏を感じているとさわちんもタオルで髪を拭きながら「夏だね」と呟く。暑い夏が始まった。
「さわちん、終業式…頑張ってね」
「何で私だけ頑張るのよ」
「私はきっと泣きまくって使い物にならない。先輩達の引退式、号泣すると思う」
「私もだよ。特に同じ長距離の高瀬先輩にはお世話になったし、こき使われたし、部長に任命されたり、副会長に立候補させられて…それでも寂しい」
「さわちんも大変だね」
お姉ちゃんが私の次に下僕として扱っていたのはさわちんで、お姉ちゃんなりに可愛がっていた。よく恋の相談や部活についてアドバイスしていたし。
お姉ちゃんは飴と鞭を上手く使う。だから、さわちんもお姉ちゃんを尊敬していた。
「寂しいなー」
「寂しいね」
「泣きそうだよ」
「泣いてるじゃん。水希は泣き虫だよね」
ダメだ。考えただけで寂しくて涙が出る。大好きな先輩が引退し、受験モードに入ったらなかなか会えないから寂しすぎる。
「寂しい…寂しいよー」
「水希、泣くな。私がいじめてるみたいじゃん」
「だって…寂しいもん」
あと2日後の終業式のことを考えると寂しさが拭えない。先輩達との楽しかった約1年半の思い出が走馬灯のようによぎる。もっともっと一緒にいたかった。
「あっ、水希。朝倉さんってさ…彼氏いないよね?彼女とかも…」
「えっ、いないよ」
「そっか。フリーなんだ。そっか」
「何で?」
「別に、何でもない」
急にさわちんがごんちゃんの恋人がいるかと聞くなんて怪しい。私の返答に安心している感じだし、優しい顔をしている。
「吉野さん…朝倉さんに本気だよね?」
「えっ…うん」
「そっか、、うーん」
「えっ?何…どうしたの?」
「別に…」
さわちんが急に悩みだした。でも、さっきから「別に」でかわされ私にはさわちんが何で悩んでいるのかが分からない。
教えてくれてもいいのに、一人で悩んで苦い顔をし悶えている。
「あ、あ、あのさ…ひかるがさ、、朝倉さんのこと気になるみたいで」
「マジ?えっ、、えー!!!」
えっ、急に進みすぎじゃない。ひかる、ごんちゃんのことそんな風に見てなかった感じだったのに何で変わったの?2人の間に何があったのか怖くて聞けないよ。
「ねぇ、何で?急に何で?」
「知らないよ!ひかるに急に言われて私も戸惑ってるの」
「ひかるがごんちゃんのこと好きって言ったの!?」
「この前、2人が恥ずかしそうに話していたのを見て揶揄ったら…朝倉さんのことが気になってるって言われた」
あー、これはもう確定だ。そっか、2人は両思いなのか。あー、、でも、吉野ちゃん。
どうしたらいいの…苦しい、苦しいよ。
「えっ…何?水希は何か知ってるの?」
「ごんちゃんも…ひかるのこと気になるみたい」
「マジで!?そっか、、そっか…うん、朝倉さんだったらひかるを託せるかな。うん、子供っぽい所があるけど優しいし、真面目だし、ギター上手いし、水希みたいにタラシでは無さそうだし…いいかも」
さわちんの最後の暴言は聞かなかったことにして、吉野ちゃんだよ。私の可愛い後輩。
でも、ひかるも大事な友達だ。ひかるの相手がごんちゃんだったらやっぱり嬉しい。
「水希、私はひかるを応援する!」
「私は…見守るしか言えないよ」
私はみんなの恋を応援したい。さわちんとグラウンドに向かい、ひかると吉野ちゃんを交互に見ながら、改めて恋は難しいと思った。最初はごんちゃんと吉野ちゃんがもしかしてと思っていたのが、急展開しごんちゃんとひかるになった。
ごんちゃんめ…急にモテ出さないでよ。でも、やっと辛い恋を乗り越えたんだね。
ひかるも辛いことがあって、ごんちゃんのさり気ない優しさに心が癒されたのだろう。
あー、お似合いすぎて応援したくなる。みんなが幸せになる恋愛があればいいのに。
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