第312話

恋は突然するものだったり、気づくものだ。私は気づく方で、芽衣と友達になりいつのまにか恋心を抱き自分の気持ちに気づいた。

16年間での初めての初恋が私は実った。でも、ごんちゃんとひかるは実らなかった。

この2人は似ている。凄く優しくて、相手を思いやる気持ちを持っている大好きな2人。


ごんちゃんの気持ちはハッキリは分からない。聞くのが怖くて、聞けていないからだ。

ごんちゃんはひかるのことどう思っているのだろう…可愛いと呟いたり、照れたりはするけどそれが恋なのかは分からない。

もし、本気で好きなら見守りたいと思っている。吉野ちゃんの気持ちを知ってるから悩ましいけど、恋はどうしようもない時がある。


そんな時、ごんちゃんが初めて陸上部に見学に来た。いつも部室でギターを弾いているはずのごんちゃんがグラウンドを眺めている。

きっと、私や芽衣に会いに来たわけではない。だって、私から話しかけたとき目線が違う所をチラチラと見ていたからだ。

私の後ろには誰がいたのかは知らない。芽衣だったら声をかけていたはずだし…きっと自分からは声を掛けることが出来ない人。



「ごんちゃん…好きな人でも出来た?」


「えっ…何で?」


「何となく」


「気になる人はいるかな…」


「へぇ…そっか」



ハニカムように照れ笑いをし、あぁ恋をしているなと普段鈍感な私でも分かった。

友達の恋と後輩の恋が交差していたらいいなと思うけどきっと違う。恋が…難しい。



「水希!」


「な、、何?」


「これ…ひかるちゃんに渡して。昨日のクッキーのお礼。それじゃ、、」


「えっ?待っ、、」



まだ話したいことがあったのにって…思ったけど私にはまだ聞く勇気がない。

悩ましい気持ちのせいでため息を吐く。ひかる元へ行き、私はごんちゃんに渡された物を渡した。ひかるが箱を開けると中には可愛いマグカップが入っていた。



「あっ、可愛い。でも、いいのかな…私は残りの材料でクッキーを作っただけだから」


「ごんちゃんも甘い物が好きだからいいんだよ。それに意外に律儀なんだよね」


「朝倉さんって、優しいね」


「ねぇ…ひかるはさ、どんな人がタイプ?」


「えっ、何?急にどうしたの?」



急だとは分かっている。分かっているけど、私の立ち位置が苦しい。微妙な三角関係の一方通行の思いが苦しい。だから、ひかるの矢印の向きが気になった。



「優しい人が好きかな。でも、もう水希みたいな人は嫌かも。誰にでも優しい人は苦しいもん」


「ごめんなさい…」


「ふふ、冗談だよ。そうだな、優しくて頑張ってる人が好き」


「頑張ってる人?」


「私ね、水希の走ってる姿が好きだった。何かに真剣に取り組む姿が羨ましくて、だから私もマネージャーの仕事を頑張ろうって思ってるの」



ごんちゃんはギターが好きで上手で、練習を沢山して、バイトもして、曲作りもし…てめちゃくちゃ頑張っている人だ。

そしてさ、何気にごんちゃんも身長が高く私より低いぐらいでひかると雰囲気も合う。

私は応援した方がいいのかな…それとも見守った方がいいのかな。微妙な立場すぎる。



「ごんちゃん、優しいし良い子だよね!」


「えっ?」



あぁ、何を言っているんだ。口が勝手に動いてしまった。



「朝倉さん、優しいよね。マラソン大会の時、何度も頑張ろうやあと少しだよって励ましくれたし。橋下さんのことがあった時、凄く心配してくれた」



えー、、いつのまにそんなことが。いつのまにか2人の距離は縮まっており、やっとひかるがごんちゃんの分もクッキーを作ったのか理由が分かった。



「ひかるって、ごんちゃんと仲が良いね」


「最近、話すようになったの」



ごんちゃんが橋下さんの件でひかるのことを気にしていたのは知っている。わざわざ、1年生のクラスまで一緒に行ったぐらいだし。

でも、2人が話している所を殆ど見たことなかったからまさかの話だ。

チラリと走っている吉野ちゃんを見る。頑張って走っている姿を見るとやっぱり応援したい。だけど…だけど、だけど、、



「ひかるは好きな人いないの…?」


「いないよ」


「そっか」


「でも、水希と芽衣ちゃん。爽子と未来ちゃんを見てると羨ましい。いいな〜ってなる」


「告白してきた人、全員断ってるじゃん」


「あー、爽子め。水希にバラしたな。うーん、それは知らない人に告白されても本当に私のこと好きじゃないと思ったからだよ。だって、同じ学校でもないし話したことない人とは付き合えないよ」


「そうだよね」


「やっぱり、ちゃんと中身を知った人がいい。頑張ってる姿とかが好きだし」



とりあえず今は3人の恋を見守るしかない。アシストしたいけど、どの恋をアシストしたらいいのか分からないし今は見守りたい。

ごんちゃん…ちゃんとひかるが犬好きだって調べたのかな。プレゼントされたマグカップは可愛い犬のイラストが描かれており、ひかるが何度も嬉しそうに見つめている。


ちょっとしたことで恋は動く。何気ないことだったり、思いがけないプレゼントだったりなど意識してなかった人に対して意識する。

この人のためにって軽い気持ちがいつのまにか意識し出したらそれは恋だ。

何気ないが恋に変わった時、恋が生まれ失恋も生まれる。ごんちゃんがそのパターンだった。全員が上手くいく恋はない。

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