第291話

後輩に好かれることはいいことだ。真里ちゃんや朱音ちゃん(だいぶ、普通に接してくれるようになった)と仲良くできて楽しい。

陸上部にも私を慕ってくれる後輩がいる。高瀬先輩と呼んでくれて、一緒に楽しく部活をしているけど、、困ることがある。


私に対しての憧れが強く、ひかるの件で更に憧れが強くなり私を見つめる眼差しが強い。

カッコいい先輩って思われているのは嬉しいけど、私は後輩の子が思っているような立派な人間ではない。

熱い眼差しに火傷しそうだ。きっと、お姉ちゃんが聞いたら鼻で笑うだろう。



「はぁ、はぁ、疲れた」


「先輩、お疲れ様です!」


「あっ、タオルありがとう〜」



走り込みをした後、深呼吸をして息を整えていると私を慕ってくれている後輩の吉野ちゃんがタオルを持ってきてくれた。

最近、一緒にトレーニングしたり話をしたりする一番仲の良い陸上部の後輩だ。


吉野ちゃんは私と一緒で、高校から陸上を始め頑張っているから近親感がある。

唯一、私と違うのは女子力だろう。雰囲気がひかるに似ており、可愛らしい女の子だ。非常に羨ましい。



「先輩、フォームについて相談してもいいですか?」


「いいよ〜」


「ありがとうございます!」



2人でフォームについて話し合い、何度も動きを確かめる。恭子先輩に私も同じように教えて貰ったなとしみじみする。

夏には3年生は部活を引退する。先輩達と一緒に部活を出来るのはあと少しだと実感し切なくなってきた。



「うん、フォーム良くなってきたよ」


「ありがとうございます!」



先輩としての仕事を終え、私は恭子先輩の元へ向かった。急に寂しくなったからだ。

ヘッドロックを何度もされたけど大好きな先輩で、だからこそ時間を大切にしたかった。



「恭子先輩ー」


「水希、何?」


「会いたくなったから来ました」


「ははは、何それー」



先輩と何気ない話をする。先輩とは話題がなくても会話が楽しい。

だけど、流石先輩。めざとく、後輩ちゃんのことをぶち込んでくる。



「吉野ちゃんが見てるわよー」


「えっ?」


「吉野ちゃん、水希のこと大好きだよね」


「慕ってくれて嬉しいです」


「そうよね。私も水希がよく話し掛けてくれて嬉しかった。水希てっさ、相手の懐に入るの上手いのよね」


「そんなことないですよー」


「だけど、水希は気をつけなさい。水希は生徒会長だし、人気があるから1人の後輩ばかり構っちゃダメよ」


「何でですか?」



恭子先輩の言葉に首を捻る。吉野ちゃんを特別扱いしてるわけでもないし、普通に真里ちゃんや朱音ちゃんとも仲が良いからだ。



「人気者の先輩を独占すると周りから妬まれやすいのよ」


「えー、そんなことがあるんですか?」


「菜穂は人気があったけど、水希みたいにフレンドリーに後輩に接しないから丁度いい距離感があったけど水希は距離感馬鹿だから」


「でも、お姉ちゃんは芽衣やひかるにはフレンドリーですよ」


「それは2人が水希と仲が良いからいいのよ。妹の友達という接点があるし。それに2人はマネージャーだし」



恭子先輩の言っていることは分かるけど、後輩に対して私はみんな同じ態度をとっている。それに吉野ちゃんとずっと話してるわけじゃない。寧ろ、先輩達と話すことが多い。



「とりあえず意識はしなさいってこと」


「はい、、分かりました」


「分かってないでしょ。はぁ…これだから手のかかる子は」


「だって、難しいですよ」



吉野ちゃんは本気で陸上に取り組んでいる。私と一緒でみんなより経験や体力などがないから必死に差を埋めようとしている。

だからこそ、私も熱心に先輩に教わったことを教えている。気持ちがよく分かるからだ。


でも、人の心は難しい。吉野ちゃんは私を慕ってくれる可愛い後輩だ。

確かに他の後輩の子よりかは仲が良いけど、それは吉野ちゃんが積極的に声を掛けてくれるからだ。恭子先輩も言っていた、私が話し掛けてくれるから嬉しかったと。


そんな私と吉野ちゃんの関係をよく思わない後輩がいるとは思いたくない。

だけど橋本さんの件があるから怖くもある。熱い思いは時々暴走する。お陰で、あの優しい真里ちゃんが本気で怒っていた。私もひかるを傷つけられて怒ったし。



「水希、一緒に走る?」


「はい!」


「吉野ちゃん、一緒に走る〜?」


「は、、はい!」



恭子先輩は優しい。ずっとこっちをチラチラ見ていた吉野ちゃんを気にかけている。

私も恭子先輩みたいな先輩になりたい。頑張らなきゃ、、後輩を守れない。

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