第292話
「高瀬先輩ー!」
誰かが私を呼ぶ声がする。後輩ちゃんかなって振り向くと誰もいなくて、上からごんちゃんが見えた私はランニングを続ける。
ごんちゃんの悪ふざけに付き合ってる暇はない。それにきっとロクなことはではない。
「高瀬先輩、呼ばれてますよ」
「ほっといて大丈夫」
「水希、いいの?」
「はい、めちゃくちゃ大丈夫です」
「バカ水希ー!」
私は気付かないふりをする。久しぶりの外での部活なんだ。邪魔はさせない。
「芽衣〜!」
「えっ?芽衣?」
「やーい!引っかかった!」
「ごんちゃん!部活の邪魔をしないで!」
恭子先輩と吉野ちゃんに声を掛け、スピードを早める。やっと、ごんちゃんの声が遠くになっていった。
「あの、、朝倉先輩と高瀬先輩は同じクラスなんですか?」
「朝倉?誰?」
「えっ、あの…さっきの」
「あっ!そっか。ごんちゃんって呼んでるから本名を忘れてた」
ごんちゃんの本名は朝倉まどか。あだ名は私がイメージで勝手につけたあだ名だ。↓のせいで本名で呼びたくなかった。
初めて話した時、自慢するように野球漫画のヒロインの名前と間違えられるとドヤ顔で言われた。私的には魔法少女の方が浮かんだけど更にドヤ顔されそうで言わなかった。
それはさておき、吉野ちゃんがごんちゃんの名前を知ってるのが意外だった。2人には接点がないからだ。
そして、私は衝撃を受ける。吉野ちゃんが部活紹介の軽音部の映像を見て、ごんちゃんのギターを弾く姿がカッコよかったと照れた顔で言ったのがめちゃくちゃ解せぬ。
私のお気に入りの後輩ちゃんが横暴で私に対して常にバカと連呼する親友に頬を染めるのは納得がいかない。
でも、私の歌も褒めてくれたから良しとする。それに、ごんちゃんのギターを弾く姿は私も認めている。確かにカッコいい。
「水希、今年の文化祭は軽音部と一緒に歌うの?」
「一応…」
「本当ですか!?楽しみです!」
最近、しつこく早く作詞しろーとごんちゃんにせがまれる。作曲者のごんちゃんが書けばいいのにラブソングが苦手だからと私に頼んだくせに傲慢すぎるぞ。
「朝倉さんの新曲歌いますか?」
「うん、ラブソングの予定」
「じゃ、バラードですか!?」
「うん。良い曲だよ、まだ作詞が出来てないけど」
「うわー、早く聴きたいです」
目をキラキラさせる吉野ちゃん。お陰で作詞を頑張ろうと決心した。
本当は歌いたくないけど、可愛い後輩に私の歌が楽しみと言われたら頑張るしかない。
「水希、今度軽音部に吉野ちゃんを連れて行ってあげたら?」
「えー、嫌です」
「吉野ちゃんのガッカリとした顔を見なさいよ。可哀想でしょ」
「いえ///、そんな、、」
非常にごんちゃんに可愛い後輩を紹介するのが癪に触る。さっき、私に対してバカーと言った親友だ。めちゃくちゃ癪に触る。
だけど、吉野ちゃんの表情を見たら「分かりました…」と言うしかなかった。
「高瀬先輩、ありがとうございます///」
「ごんちゃんに予定を聞いてみるね…」
ニヤニヤした顔の恭子先輩。私には恋の予感なんて微塵も感じていない。そう簡単にこんなに可愛い後輩とごんちゃんを引っ付けるものかと心に決める。
「さぁ、みんなダッシュ行くわよー」
「「はい!」」
何事も本気で取り組むと自分にちゃんと返ってくる。青春してるな〜と感じながら久しぶりの青空の下を走った。地面が柔らかいけど、思いっきり走れることが楽しい。
可愛い後輩も出来て、頼もしい先輩もいて今が一番最高の一年かもしれない。
久しぶりに体を思いっきり動かし、私はやる気に満ちている。ランニングが終わった後、みんなで水を飲むためベンチに行くと1年生の子達と目があった。
別に後輩の子達はこっちを睨んでるわけじゃないけど目の奥の感情に黒さ感じる。
もしかして、もう吉野ちゃんは恭子先輩が言った通り嫉妬されてる?これは、、早めに行動した方がいいのかもしれない。
橋下さんの二の舞にはなりたくないし、ひかるの悲しそうが顔が浮かび先手必勝のごとく私は後輩の方達に手を振り呼び寄せた。
「今からさ、みんなでタイム測るから一緒にやらない?」
「はい!やります!」
私は吉野ちゃんとの距離は取りたくない。だったら、みんなと同じ距離感になればいい。
私はさり気なく、吉野ちゃんは高校から陸上を始めたからサポートしてあげてねと言う。
吉野ちゃんは真面目で良い子だ。対面して話すことによって、他の1年生の子も吉野ちゃんが陸上を真剣に取り組んでいることが分かり率先して教えようとしてくれた。
タイムを図り終わった後、フォームについてみんな真剣に話し合っている。きっと、もう大丈夫だろう。みんな笑顔だ。
へへ、恭子先輩に背中を叩かれ「やるじゃん」と言われ照れる。気づかせてくれたのは恭子先輩で感謝しかない。
私はまだまだ言われないと分からない事が多く、だからこそ先輩達が卒業するまで沢山学ばなきゃ。先輩達みたいになれるように。
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